そもそも、翔也の心の内にいつの間にか、達巳が入ってきたのである。

 チャイムが再びなり、白上先生が教室に入ってくる。

 物事は着順と進んでいき、このクラスの委員会決めや春課題の提出が終わる。

 もちろん、このクラスの学級委員長は、一花に決まった。

 一年生の時も学級委員長をしていた彼女は、二年生になってもなろうと思っていたのだろう。

 他にも今後の日程などの説明などがあり、ようやく今日の日程が終わる。

 この学校は、春休み明けの新学期初日、ということでもあり、午前中までしか授業が行われない。

 この後は、昼食を取って部活か、下校の二種類の生徒に分かれる。

 達巳は、すぐさま変える準備をして、翔也のもとへ駆け寄る。

「翔也、帰ろうぜ」

「はぁ? お前、今日は部活じゃなかったか?」

 翔也は首を傾げる。

「いや、今日はないけど……」

「はぁ?」

「あれ? 言っていなかったっけ? 今日は休み。お前の家に電話したはずなんだけどな……」

「聞いてねぇーぞ。って、事は…夏海か?」

 翔也は、犯人の顔を思い浮かべる。

「そう言えば、お前じゃなかったな。女の子の声だった。確か…中一の妹だっけ?」

「ああ、そうだよ」

 翔也は、妹の情けなさに、額に手を当てて、がっくりとする。

「ま、そういう事だから帰るぞ」

 達巳は、翔也の肩をぽんぽんと、軽く叩く。

「しょ、翔……」

 二葉は、その様子を見て、何か申し訳なさそうな顔をしていた。

「二葉、私達も帰ろうか? ほら、私、暇だし…」

 三咲は、二葉に話しかける。

 達巳は、翔也のテニス道具を持ってきて、下校の準備をさせる。

「一花も早く帰るよ」

「え、ええ……」

 一花は変える支度をする。

 翔也は、達巳が持ってきたテニス道具を受け取り、バックを背負うと、教室を後にする。

 廊下では、二学年の生徒たちがクラス関係なしに入り混じっている。

「で、この後、どうする?」

 達巳が翔也に聞く。

「帰って寝る」

「えー、せめて遊んでから帰ろうぜ。ゲーセン、ゲーセンに寄ろう!」

「嫌だ。面倒くさい。行きたいなら一人で行け」

 翔也はすぐに否定する。

「ちぇ…。なら、お前の家に行く」

「やめてくれ」

「いいや、行く」

 二人は、そんなどうでもいい話をしながら下校する。


 山下家——

「おお、相変わらず何も変わらない一軒家」

 達巳は関心して言った。

「当たり前だ。てか、この前も来たばかりだろ?」

 翔也は自転車を車庫に直す。

「いやー、そうだった。そうだった…」

 家に入り、二人はそのまま翔也の部屋に移動する。

「何か飲むか?」

 制服から私服に着替えながら翔也が達巳に訊く。

「じゃあ、ジュースで」

「分かった。今から取ってくるから大人しくしておけよ」

「はいはい」

 達巳は返事を返して、翔也は再び一階に降りる。

 翔也が一階に降りたことを確認した達巳は、部屋の辺りを見渡す。

(うわぁ、相変わらずの大量の本。それに…綺麗に整えられた部屋だな。まるで俺の部屋とは大違い)

 すると、達巳は本棚の上に置いてあるものに目が留まる。

(あれ? この前、来た時、あんなの置いてあったか?)

 それを手にすると、古いアルバムであった。

(げっ…⁉ これって…見たことあるような…。確か…中学の時だったな。ま、今は誰もいないことだし…)

 達巳は扉をそっ、と開き、まだ、翔也が戻って来ていない事を確認する。

 手に取ったアルバムを本人の確認なしに開き、見始める。

 そこには、幼いころの翔也や自分と一緒に写っている写真。三つ子の写真もあった。

 アルバムのほとんどが、翔也と三つ子の写真が多い。それに達巳の知らない翔也の姿もあった。

(へぇ…。ただの幼馴染だったら…普通は…普通でいられないよな…)

 ガチャ…。

 扉が開く音がした。

「おーい。オレンジジュースしかなかったけどいい…か…」

 翔也の動きが、言葉と同時に止まる。

 達巳が丁度、夢中になっており、階段を上ってくる足音に気づいていなかった。

 達巳は、翔也の方を見る。

「何…しているんだ?」

「わりぃ…アルバム見ていた……」

 沈黙の空間が何秒か続く。

「はぁ…まぁ、いいけどな……」

 翔也は呆れていた。

「それにしても…この前来たときは無かったのに…なぜ、置いてあったんだ?」

 達巳は、罰が悪そうに訊いてみた。

 翔也は達巳からアルバムを渡されると、懐かしそうに写真を見返す。

「そろそろ…俺も前に進まないと思ってな……」

「前に進む? 面白そうな話じゃないか…。言ってみろよ」

 達巳はニヤニヤしながら面白そうに耳を傾ける。

「なぁ、達巳。今の俺と三つ子の関係は、大体分かっているよな?」

「見てればな…」

「昔は…そうじゃなかったっていうのも知っているだろ?」

「まぁーな…」

 二人は幼いころの写真を見ながら話を進める。

「おれとあいつらは、ただの幼馴染じゃない。生まれた頃から一緒なんだよ。それから十六年、十六年も見ていたが…まぁ、何が言いたいかというと……」

 翔也は言葉を考える。

「三つ子とまた、昔のように一緒に居たいだろ?」

 達巳は、翔也の言葉を代弁した。

「………」

 赤面する翔也。

「素直じゃないのはどちらも…か……」

「はぁ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る