Ⅳ
そもそも、翔也の心の内にいつの間にか、達巳が入ってきたのである。
チャイムが再びなり、白上先生が教室に入ってくる。
物事は着順と進んでいき、このクラスの委員会決めや春課題の提出が終わる。
もちろん、このクラスの学級委員長は、一花に決まった。
一年生の時も学級委員長をしていた彼女は、二年生になってもなろうと思っていたのだろう。
他にも今後の日程などの説明などがあり、ようやく今日の日程が終わる。
この学校は、春休み明けの新学期初日、ということでもあり、午前中までしか授業が行われない。
この後は、昼食を取って部活か、下校の二種類の生徒に分かれる。
達巳は、すぐさま変える準備をして、翔也のもとへ駆け寄る。
「翔也、帰ろうぜ」
「はぁ? お前、今日は部活じゃなかったか?」
翔也は首を傾げる。
「いや、今日はないけど……」
「はぁ?」
「あれ? 言っていなかったっけ? 今日は休み。お前の家に電話したはずなんだけどな……」
「聞いてねぇーぞ。って、事は…夏海か?」
翔也は、犯人の顔を思い浮かべる。
「そう言えば、お前じゃなかったな。女の子の声だった。確か…中一の妹だっけ?」
「ああ、そうだよ」
翔也は、妹の情けなさに、額に手を当てて、がっくりとする。
「ま、そういう事だから帰るぞ」
達巳は、翔也の肩をぽんぽんと、軽く叩く。
「しょ、翔……」
二葉は、その様子を見て、何か申し訳なさそうな顔をしていた。
「二葉、私達も帰ろうか? ほら、私、暇だし…」
三咲は、二葉に話しかける。
達巳は、翔也のテニス道具を持ってきて、下校の準備をさせる。
「一花も早く帰るよ」
「え、ええ……」
一花は変える支度をする。
翔也は、達巳が持ってきたテニス道具を受け取り、バックを背負うと、教室を後にする。
廊下では、二学年の生徒たちがクラス関係なしに入り混じっている。
「で、この後、どうする?」
達巳が翔也に聞く。
「帰って寝る」
「えー、せめて遊んでから帰ろうぜ。ゲーセン、ゲーセンに寄ろう!」
「嫌だ。面倒くさい。行きたいなら一人で行け」
翔也はすぐに否定する。
「ちぇ…。なら、お前の家に行く」
「やめてくれ」
「いいや、行く」
二人は、そんなどうでもいい話をしながら下校する。
山下家——
「おお、相変わらず何も変わらない一軒家」
達巳は関心して言った。
「当たり前だ。てか、この前も来たばかりだろ?」
翔也は自転車を車庫に直す。
「いやー、そうだった。そうだった…」
家に入り、二人はそのまま翔也の部屋に移動する。
「何か飲むか?」
制服から私服に着替えながら翔也が達巳に訊く。
「じゃあ、ジュースで」
「分かった。今から取ってくるから大人しくしておけよ」
「はいはい」
達巳は返事を返して、翔也は再び一階に降りる。
翔也が一階に降りたことを確認した達巳は、部屋の辺りを見渡す。
(うわぁ、相変わらずの大量の本。それに…綺麗に整えられた部屋だな。まるで俺の部屋とは大違い)
すると、達巳は本棚の上に置いてあるものに目が留まる。
(あれ? この前、来た時、あんなの置いてあったか?)
それを手にすると、古いアルバムであった。
(げっ…⁉ これって…見たことあるような…。確か…中学の時だったな。ま、今は誰もいないことだし…)
達巳は扉をそっ、と開き、まだ、翔也が戻って来ていない事を確認する。
手に取ったアルバムを本人の確認なしに開き、見始める。
そこには、幼いころの翔也や自分と一緒に写っている写真。三つ子の写真もあった。
アルバムのほとんどが、翔也と三つ子の写真が多い。それに達巳の知らない翔也の姿もあった。
(へぇ…。ただの幼馴染だったら…普通は…普通でいられないよな…)
ガチャ…。
扉が開く音がした。
「おーい。オレンジジュースしかなかったけどいい…か…」
翔也の動きが、言葉と同時に止まる。
達巳が丁度、夢中になっており、階段を上ってくる足音に気づいていなかった。
達巳は、翔也の方を見る。
「何…しているんだ?」
「わりぃ…アルバム見ていた……」
沈黙の空間が何秒か続く。
「はぁ…まぁ、いいけどな……」
翔也は呆れていた。
「それにしても…この前来たときは無かったのに…なぜ、置いてあったんだ?」
達巳は、罰が悪そうに訊いてみた。
翔也は達巳からアルバムを渡されると、懐かしそうに写真を見返す。
「そろそろ…俺も前に進まないと思ってな……」
「前に進む? 面白そうな話じゃないか…。言ってみろよ」
達巳はニヤニヤしながら面白そうに耳を傾ける。
「なぁ、達巳。今の俺と三つ子の関係は、大体分かっているよな?」
「見てればな…」
「昔は…そうじゃなかったっていうのも知っているだろ?」
「まぁーな…」
二人は幼いころの写真を見ながら話を進める。
「おれとあいつらは、ただの幼馴染じゃない。生まれた頃から一緒なんだよ。それから十六年、十六年も見ていたが…まぁ、何が言いたいかというと……」
翔也は言葉を考える。
「三つ子とまた、昔のように一緒に居たいだろ?」
達巳は、翔也の言葉を代弁した。
「………」
赤面する翔也。
「素直じゃないのはどちらも…か……」
「はぁ?」
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