Ⅲ
その後、一花、二葉、三咲の三人がそれぞれ自己紹介をして、最後の一人が終わるまで、約二十分かかった。
自己紹介も終わると、白上先生は、今後の流れを話し始める。委員会決めや春課外の提出など、午前中までに終わらせるのは、山ほどある。
一時限目の終了のチャイムが鳴ると、クラスメイト達は、三つ子のところに集まってくる。
「えーと、一花ちゃんだっけ?」
「いや、三咲だけど……」
三咲は苦笑いをしている。
早速、間違われる。
「二葉さん! 俺、本、好きなんすけど、どんな本がおすすめっすか⁉」
と、クラスの男子生徒が話しかけてくる。
「いや、私は一花でして……」
一花も間違われている。
翔也は、少しイラッ、と来ており、いきなり立ち上がった。
「そこ、通してくれないか?」
と、クラスメイトに話しかける。
「あ、ごめん……」
そう言って、通路を開けてもらう。
「ありがとう…」
翔也は礼を言って、そのまま歩いていく。
再び、クラスメイト達は三つ子に、夢中になり始める。
本当は、こんなところで助け船などを出したくないのだが、幼馴染が困っているのを見過ごすほど、お人好しではない。
「あ、そうだ。そいつらを見分けたかったら髪の長さで見分けた方が早いぞ」
翔也はそう言い残して、教室を後にした。
クラスメイト達は、翔也の姿が見えなくなるまで、一言も何も言わなかった。
「えっと、山下君だっけ?」
「有馬さんとどういう関係なの?」
「あいつ、いつも一人でいたよな。一年の頃も…」
「いや、一人だけ、いつもつるんでいる奴がいなかったか?」
「ああ、いたな…」
クラスメイト達は、翔也の噂話をする。
B組の隣には、男女トイレが設置されており、翔也は、男子トイレの扉をスライドすると、自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「翔也~! おい、翔也‼」
その声はだんだん近づいてくる。
(面倒な奴が来た……)
翔也は、すぐさま、扉を開き、閉じる。
「ぐはっ!」
翔也を呼ぶ、その生徒が扉にぶつかり、廊下に倒れる。そして、自ら再び、扉を開いて、男子トイレへと入っていく。
シューズを脱ぎ、トイレのスリッパを履き替える。
奥の方でトイレをしている翔也の隣に立ち、ニコニコ、と笑顔で、翔也の方を見る。
「なんだよ……」
痺れを切らせた翔也が口を開く。
隣に立つ少年は、学ランを脱いでおり、白いYシャツを捲り、眼鏡を掛けている。身長は、翔也と変わらない一七〇センチ。髪の色は地毛であり、茶色。短髪のさっぱりとしたセットと、性格からしてお調子者である。
「いやー、朝の自己紹介は何だい? あれは、俺にとってウケたよ。本当に最高だったわ。それにまさか、あの三つ子と同じクラスになるとは…。果たして、運命なのか、はたまた、不運だったのか。面白い一年になりそうだ」
少年は笑いながら言った。
「達巳。お前、余計な話をしたら、分かっているよな?」
翔也から名前で呼ばれた少年、北村達巳は、とぼけた顔をする。
「オーケー。分かった。余計なことは言わない。だが、サポートはさせてもらうぞ」
「はぁ? サポート? 聞いていなかったのか? 余計な話をするな!」
トイレを済ませると、翔也は手を洗う。
「でも、翔也。『余計な話』をしなければ、別にいいんだろ?」
「……」
達巳は、ニヤリ、と笑う。
「そもそも家が隣同士で、誕生日も同じ、幼馴染にしては、これ以上にもない幸せなことはないんだろ?」
二人は、トイレのスリッパからシューズに履き替え、男子トイレを出る。
「だからなんだ?」
「で、あの三人の中で、誰が好きなの?」
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
翔也は、突然咳き込む。
「おい、大丈夫か?」
「あ、ああ……」
乱れた呼吸をゆっくりと整える。
「わりぃ、今は、俺の訊くタイミングが悪かった…」
達巳は、翔也に謝る。
「でも、これだけは言わせてもらうぞ」
「あ? ああ……」
翔也はごくり、と息をのむ。
「さっさと決めろ! 親友‼」
と、達巳は勢いよく翔也の背中を叩いた。
「いってぇ~‼」
翔也の叫び声は、廊下に響き渡った。
教室に戻ると、クラスメイト達は翔也に何も注目していなかった。
(まだ、あいつらに夢中なのかよ……。ってか、俺の席…占拠されているし……)
自分の席は、誰かに座られており、チャイムが鳴るまで、戻る場所がない。
「ん? 翔也、早く席に座らないとチャイムが鳴るぞ」
「あ、ああ……。それはそうなんだが……」
達巳はちらっ、と視線を違う場所に向ける。
(ああ、そういうことね)
達巳はそれに気づき、三つ子の方へと歩いていく。
「ほら、お前ら、チャイムが鳴るぞ! 続きは後にしたらどうだ?」
達巳は、助け舟を出した。
そして、クラスメイト達はそれぞれの席に座り始める。
「ま、こんなもんだろ?」
振り返って翔也を見た。
「ありがとうございます。確か……」
一花が達巳に礼を言う。二葉も三咲も軽く会釈する。
「ああ、小学校の時からの翔也の親友の北村達巳って言っても、二葉ちゃんとは、同じ部活動生だけどね……」
そう言い残して、達巳は立ち去る。
達巳が立ち去った後、彼のおかげで席が開いたところに翔也は、自分の席に座る。
(ま、これくらいは…いいか……)
翔也にとって、達巳は唯一無二の親友であり、彼以外に自分のことを話した事がない。
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