「「ああああああっ‼」」

 再び、二人は叫ぶ。

(案外、しっかりしているのは二葉だったりしてね…)

 由紀は思った。

 二葉は、重たい瞼をこすりながら、二階へと上がり、自分の部屋へと戻る。

 そして、学校に行く準備を始めた。

(あ、そういえば…翔ちゃん、起きているかな?)

 二葉は、そっとカーテンを開ける。

 すると、翔也が制服に着替えている所だった。

「——‼」

 すぐさま、カーテンを閉め、身を隠す。

 あと少しでバレるところだった。もう、何年もまともに話をしていない男子に、なんで隠れる必要があるのだろうか、と思った。

 翔也と双葉達の家は、隣同士である。

 昔から付き合いはあったが、ここ最近は縁がない。

 そして、この二人は互いに向かい側の部屋である。

 昔は、結構、遊んでいたのに、なぜ、こんなにも接点がなくなったのか、今になっては理由がわからない。

 二葉も急いで、制服に着替えて、学校に行く準備を始めた。


   ×   ×   ×


 旭ヶ丘市——

 人口、約三十万人と、県の中では、二番目に人口が多い街である。

 都会とは言いにくいが、工業団地もあれば、商業団地もある。市内の中央には、大型のショッピングモールがあり、山と海に囲まれた喉かな街である。

 市内には、高校が四つあり、東西南北と、それぞれの高校には、方角のついた名前があり、その中でも唯一、南高校だけが、商業・工業系の高校である。

 翔也の通う高校は、旭ヶ丘市立旭ヶ丘西高校である。

 旭ヶ丘西高校は、市内の四校の内の一つの進学校であり、歴史は、七十年もある高校だ。旭ヶ丘市の西側にあり、全校生徒は、約六百人。一学年、二百人程度である。

 自転車に乗り、西高校についた翔也は、校門から入り、駐輪場に自転車を置く。まだ、クラスも決まっておらず、学年・クラス、バラバラに置いてある。

 学校に着いた頃には、生徒が騒めいており、おそらく、もう、クラスの発表が学年ごとに発表されているのだろう。高校によっては、貼り出されている所と貼り出されないところがある。西高は、貼り出される方である。

 翔也は、自分がどこのクラスになるのか、自分の名前を探す。最初に二年A組から順に見続ける。

(確か、この学校、誕生日順に名前が並んでいるんだったよな……)

 A組には自分の名前がなく、B組の方を探す。

 すると、ようやく自分の名前を見つけた。

 だが、翔也は自分の名前の下に予想外もしないところに目がいった。

「あっ……」

 少しどころではない、冷や汗が出るほど驚いていた。

 自分の名前の下に、見覚えのある名前が三つ、並んでいた。

(マジかよ……。妹よ、お前の予想が当たったぞ……)

 翔也は、空を見上げた。

 空は青く、気持ちのいい太陽が、学校を光で覆い包んでいた。

 靴箱に靴を入れ、シューズに履き替える。階段を上り、二階の二年生のフロアにたどり着く。それから、B組の教室へと向かう。

 B組の教室に入り、テニス道具をロッカーの上に置く。

 教室の黒板には、席が割り振られており、ちょうど、後ろの席から二番目の席の廊下側。

 翔也は、机の横にバックを置き、時間になるまで持ってきた本を読み始める。

(まさか…。よりにもよって、あいつらと同じクラスなのかよ……)

 新しい教室になり、教室内は騒がしい。

 本に集中したいが、集中できない。

 そんな時だった。

「隣の席の有馬一花です。よろしくお願い……」

 翔也の手から本が離れた。

 そして、一花の方を見る。

 一花も驚いた翔也の顔を見て、自分も昔、仲良くしていた幼馴染の男の子にびっくりする。

「一花、行くのが早いよ。二葉が——⁉」

 後に続く三咲も翔也の姿に気が付く。

 すると、二葉もようやく教室に入ってきた。

(あっ、やっぱり、翔ちゃんと同じクラスだ)

 二葉は、内心、うれしく思った。

 四人は、膠着状態になる。

 思えば、同じクラスで、ほぼ隣同士の席、幼馴染で、家も隣同士。

 昔は、普通に遊んでいても、今は違う。

 四人は、それぞれの席に座り、翔也の隣には一花、二葉と三咲は、後ろの席に座る。

((((気まずい……))))

 四人は思った。

 チャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。

「ほら、お前らチャイムが鳴ったぞ。席に座れ」

 女性の先生がそう言うと、生徒たちはぞろぞろと、席に座り始める。教室には、約四十人程度の生徒で埋まっていた。

「さて、新学期になって、一つ上の学年になった訳だが……」

 その女性の先生は、翔也たちの方を見て、言葉を失った。

「驚いたな。同じ顔が、三人もいると、見分けがつきにくいな……」

 どうやら、三つ子の顔を見て思ったらしい。

 クラスメイト達もこっちを見て、クラス中が騒めく。

「う、うんっ……」

 先生は、咳払いをする。

「あー、そのー、なんだ? 注目、注目!」

 先生は、黒板を叩く。

「今日からこの二年B組の担任をすることになった、白上静だ。担当強化は国語。一年間、このクラスの国語を担当するからよろしく」

 白上先生は、ニッ、と笑った。

 白上先生の着こなす白衣姿は似合っているが、どちらかというと、国語の教師よりも科学の教師が、着るものではないかと、誰もが思う。

「じゃあ、出席番号順に自己紹介してもらうからな。名前、部活、一年間の目標を言ってもらうから考えておけよ」

 再び、クラス中が騒がしくなる。

「出席番号一番から順に言っていくように、お前ら、静かに人の話を聞いておけよ。特にうるさい奴は、本当に、廊下に立たせるからな」

 白上先生は、出席番号を読み上げ、生徒を順番に自己紹介させる。

 それぞれが、自己紹介していくうちに、翔也の番が回ってくる。

 そのたびに、自己紹介する生徒にクラスメイト達は注目し、翔也は、少し緊張する。

「山下翔也です。テニス部です。目標は、特にありませんがよろしくお願いします」

 翔也の挨拶が終わった。

 席に座り、はぁ、と息が漏れる。

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