Ⅱ
「「ああああああっ‼」」
再び、二人は叫ぶ。
(案外、しっかりしているのは二葉だったりしてね…)
由紀は思った。
二葉は、重たい瞼をこすりながら、二階へと上がり、自分の部屋へと戻る。
そして、学校に行く準備を始めた。
(あ、そういえば…翔ちゃん、起きているかな?)
二葉は、そっとカーテンを開ける。
すると、翔也が制服に着替えている所だった。
「——‼」
すぐさま、カーテンを閉め、身を隠す。
あと少しでバレるところだった。もう、何年もまともに話をしていない男子に、なんで隠れる必要があるのだろうか、と思った。
翔也と双葉達の家は、隣同士である。
昔から付き合いはあったが、ここ最近は縁がない。
そして、この二人は互いに向かい側の部屋である。
昔は、結構、遊んでいたのに、なぜ、こんなにも接点がなくなったのか、今になっては理由がわからない。
二葉も急いで、制服に着替えて、学校に行く準備を始めた。
× × ×
旭ヶ丘市——
人口、約三十万人と、県の中では、二番目に人口が多い街である。
都会とは言いにくいが、工業団地もあれば、商業団地もある。市内の中央には、大型のショッピングモールがあり、山と海に囲まれた喉かな街である。
市内には、高校が四つあり、東西南北と、それぞれの高校には、方角のついた名前があり、その中でも唯一、南高校だけが、商業・工業系の高校である。
翔也の通う高校は、旭ヶ丘市立旭ヶ丘西高校である。
旭ヶ丘西高校は、市内の四校の内の一つの進学校であり、歴史は、七十年もある高校だ。旭ヶ丘市の西側にあり、全校生徒は、約六百人。一学年、二百人程度である。
自転車に乗り、西高校についた翔也は、校門から入り、駐輪場に自転車を置く。まだ、クラスも決まっておらず、学年・クラス、バラバラに置いてある。
学校に着いた頃には、生徒が騒めいており、おそらく、もう、クラスの発表が学年ごとに発表されているのだろう。高校によっては、貼り出されている所と貼り出されないところがある。西高は、貼り出される方である。
翔也は、自分がどこのクラスになるのか、自分の名前を探す。最初に二年A組から順に見続ける。
(確か、この学校、誕生日順に名前が並んでいるんだったよな……)
A組には自分の名前がなく、B組の方を探す。
すると、ようやく自分の名前を見つけた。
だが、翔也は自分の名前の下に予想外もしないところに目がいった。
「あっ……」
少しどころではない、冷や汗が出るほど驚いていた。
自分の名前の下に、見覚えのある名前が三つ、並んでいた。
(マジかよ……。妹よ、お前の予想が当たったぞ……)
翔也は、空を見上げた。
空は青く、気持ちのいい太陽が、学校を光で覆い包んでいた。
靴箱に靴を入れ、シューズに履き替える。階段を上り、二階の二年生のフロアにたどり着く。それから、B組の教室へと向かう。
B組の教室に入り、テニス道具をロッカーの上に置く。
教室の黒板には、席が割り振られており、ちょうど、後ろの席から二番目の席の廊下側。
翔也は、机の横にバックを置き、時間になるまで持ってきた本を読み始める。
(まさか…。よりにもよって、あいつらと同じクラスなのかよ……)
新しい教室になり、教室内は騒がしい。
本に集中したいが、集中できない。
そんな時だった。
「隣の席の有馬一花です。よろしくお願い……」
翔也の手から本が離れた。
そして、一花の方を見る。
一花も驚いた翔也の顔を見て、自分も昔、仲良くしていた幼馴染の男の子にびっくりする。
「一花、行くのが早いよ。二葉が——⁉」
後に続く三咲も翔也の姿に気が付く。
すると、二葉もようやく教室に入ってきた。
(あっ、やっぱり、翔ちゃんと同じクラスだ)
二葉は、内心、うれしく思った。
四人は、膠着状態になる。
思えば、同じクラスで、ほぼ隣同士の席、幼馴染で、家も隣同士。
昔は、普通に遊んでいても、今は違う。
四人は、それぞれの席に座り、翔也の隣には一花、二葉と三咲は、後ろの席に座る。
((((気まずい……))))
四人は思った。
チャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。
「ほら、お前らチャイムが鳴ったぞ。席に座れ」
女性の先生がそう言うと、生徒たちはぞろぞろと、席に座り始める。教室には、約四十人程度の生徒で埋まっていた。
「さて、新学期になって、一つ上の学年になった訳だが……」
その女性の先生は、翔也たちの方を見て、言葉を失った。
「驚いたな。同じ顔が、三人もいると、見分けがつきにくいな……」
どうやら、三つ子の顔を見て思ったらしい。
クラスメイト達もこっちを見て、クラス中が騒めく。
「う、うんっ……」
先生は、咳払いをする。
「あー、そのー、なんだ? 注目、注目!」
先生は、黒板を叩く。
「今日からこの二年B組の担任をすることになった、白上静だ。担当強化は国語。一年間、このクラスの国語を担当するからよろしく」
白上先生は、ニッ、と笑った。
白上先生の着こなす白衣姿は似合っているが、どちらかというと、国語の教師よりも科学の教師が、着るものではないかと、誰もが思う。
「じゃあ、出席番号順に自己紹介してもらうからな。名前、部活、一年間の目標を言ってもらうから考えておけよ」
再び、クラス中が騒がしくなる。
「出席番号一番から順に言っていくように、お前ら、静かに人の話を聞いておけよ。特にうるさい奴は、本当に、廊下に立たせるからな」
白上先生は、出席番号を読み上げ、生徒を順番に自己紹介させる。
それぞれが、自己紹介していくうちに、翔也の番が回ってくる。
そのたびに、自己紹介する生徒にクラスメイト達は注目し、翔也は、少し緊張する。
「山下翔也です。テニス部です。目標は、特にありませんがよろしくお願いします」
翔也の挨拶が終わった。
席に座り、はぁ、と息が漏れる。
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