有馬家の三姉妹と一匹狼

佐々木雄太

第1章  春来て、噂の三姉妹

 高校に入学してから二年目の春が来た。

 山下翔也の朝は、いつも通り変わらない。

 朝の六時半ごろに目を覚まし、自分の部屋を出る。一階の洗面所へと階段を降り、顔を洗う。その後、リビングに向かう。

 母親の料理を朝食で食べるのが、普通の一般的な過程で生まれた高校生であるが、翔也の家庭は違う。

「お兄ちゃん、おはよう…」

 と、朝から自分よりも早起きしている人物の声がリビングのキッチンから聞こえた。

「ああ、おはよう…」

 翔也は返事を返した。

 そのままソファーに座り、朝食ができるまで、テレビをつけ、新聞を広げながら朝のニュース番組を見る。

「ふわぁああ…」

 と、朝のちょっとした何かしらの疲れと欠伸が共に流れる。

「お兄ちゃん、朝から欠伸って珍しいね。疲れているの?」

 さっき、キッチンから声を掛けてきたのは、翔也の妹の夏海である。

 夏海は翔也の四つ下の中学一年生である。

「まあな。人間、朝、起きた後の欠伸くらいはするだろ」

「ま、私も起きた時はするからそういうことか」

 夏海は料理を終えて、皿に盛り付けをしながら話をする。

「ほら、朝食が出来たから座って、座って!」

 盛り付けた皿をテーブルの上に置いて、翔也を椅子に座らせようと急かせる。

 翔也は、朝からなまっている体をゆっくり動かし、椅子に座る。

 皿はいつも通りに目玉焼きとウインナー、キャベツ、トマト、他にはみそ汁とご飯がそれぞれ置いてある。

「いただきます…」

 手をしっかり合わせて言う。

「はい、どうぞ!」

 と、夏海は返事を返す。

 二人は箸を持ち、食べ始める。

 二人は朝食をとりながらテレビを見る。

 すると、夏海は口を開く。

「そういえば…お兄ちゃんの学校って今日からだよね?」

「ああ、そうだな……」

「じゃあ、今年こそあの三人と一緒のクラスになれるといいね。まあ、私の勘では、八十パーセントそうなると思うよ!」

「………」

 翔也の手が止まる。

 夏海が口にした言葉が頭の中で引っかかっていた。

「どうしたの?」

 夏海は、手の動きを止めた翔也を見て、不思議に思っていた。

「え⁉ あ、うん……。何でもない、何でも……」

 翔也は、再び手を動かして、食べ始める。

 妹の手料理はいつも通りのおいしさだったが、どこかしら、翔也の胸の内で、物足りなさを感じていた。

 二人は、朝食を食べ始めてから二十分くらいで食べ終えた。

 時刻は七時を回っていた。

 翔也は、食べ終えた食器を流し台に持って行き、リビングを出て、洗面所で歯磨きを終えると、二階の自分の部屋へと戻る。

 部屋に戻ると、窓の近くに行き、カーテンを開け、窓を開ける。

 春の朝の冷たい風が、部屋の中に入ってくる。

 空気の入れ替えをしながら、学校に行く準備を始める。昨日の夜になんとかやり終えた春休みに出された課題、文房具、新品のノートなどをバックの中に入れ、部活の練習着を一緒に用意する。

 春風が、部屋に入ってくるたびに体がぶるっ、と寒気が走る。

 翔也は、勉強机に置かれた写真立てに目が留まる。

 そこに幼いころの自分と誰かが一緒に写っている写真。

「ま、そんなに…簡単にうまくいくわけがないよな……」

 そして、高校の制服に着替えた。


   ×   ×   ×


「ああああああ⁉ 寝坊した‼」

 と、朝から女の子のうるさい声が家中に響き渡った。

 ダダダダダダッ‼

 と、階段を勢いよく降りる音が響く。

「朝から騒がしい……」

 セミロングの朝から眠そうな少女が、目の前で朝食をとっているロング姿の少女が入れてくれたお茶を飲みながら言う。

 その騒がしい足音はやがてリビングの方に向かってくる。

「二葉! なんで、起こしてくれなかったの⁉」

 寝ぐせのついたショートカット姿の少女が、乱れたパジャマ姿で、お茶を飲みながら一息ついているセミロングの少女・二葉に怒鳴った。

「起こしたよ…。でも、三咲がもうちょっとって言ったから…」

 二葉は、欠伸をして言った。

「三咲、人に八つ当たりするくらいなら、一人で起きられるようになったらどうです? 今日から私たちも高校二年生なんですし……」

 朝食をとっているロング姿の少女・一花が、朝から人のせいにしている少女・三咲に少し、イラッ、としていた。

「まあ、それはそうだけど……。人には苦手なものがあるの! 一花みたいに完璧じゃないもん‼」

 ダンッ‼

 一花は食器を勢いよく置き、三咲をジロッ、と睨みつける。

「三咲! 努力しなかった者が、努力してきた者に完璧にできないのは当然よ‼」

「私だって! 一花みたいに器用だったら苦労しないもん‼」

 二人は言い合いになりながら、二葉は何も止めに入らない。

 だが、キッチンの主は黙っていなかった。

「二人共! いい加減にしなさい‼」

 その鶴の一声で、リビングは静まり返る。

 その主はにっこりと笑っているが、笑っていない。そんな怒り方すれば、誰もが恐れなす。二人を黙らせるほどの人物がこの家には、一人だけいる。

 彼女らの母親・由紀である。

「「はい!」」

 二人はびっくりして、思わず返事をした。

「それと、もう七時過ぎているけど、急がなくていいの?」

 由紀は二人に言った。

「え?」

「はい?」

 そして、二人はいつの間にか、二葉の姿が消えたのに気が付く。時計を見ると、午前七時に十分を過ぎていた。

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