三咲は翔也の袖を握っていた。

「まぁ、いいけど…。二人乗りは自信ないぞ」

 翔也は、頭を掻きながら言う。

「うん。大丈夫」

 二人はゲームセンターを出ると、一階の本屋に移動し、漫画や小説を買った後、駐輪場へと向かう。

 自転車の籠に、さっき買った本を入れ、その上にゲームセンターを出る前にビニール袋に入れておいたイルカのぬいぐるみを置く。

 翔也が前に座り、その後ろに三咲が座る。

(えー、二人乗りってこんな感じだったか? なんか、夏海と二人乗りした時とは、また、違うような…)

 翔也はペダルに足を載せる。

「動くぞ」

「うん…」

 三咲は自然と後ろから、翔也に抱きつき、落ちないようにしっかりと両腕で固定する。

 翔也の心臓は、ドキドキしてはち切れそうだ。

(落ち着け…たかが二人乗りだ…。そうだ、夏海と思えばいい。きっと、そうに、違いない)

 翔也は、ペダルを漕ぎ始めた。

 自転車はゆっくりとスピードを出し、西の方へと向かって走る。

 さすがの翔也も家に帰るまでの二十分程、三咲に抱きつかれたままでいると、心臓がとても苦しい。

 家に着いた頃には、どっと疲れが出た。

「ほら、着いたぞ」

 半分眠りかぶっていた三咲の腕を軽く叩く。

「ふぇ、もう、着いたの?」

 三咲は、翔也から腕を放し、自転車からゆっくりと降りる。

 翔也は自転車を車庫に入れ、籠からイルカのぬいぐるみと本を取り出す。

「ほらよ」

 三咲にイルカのぬいぐるみを渡す。

「………」

「どうしたんだ?」

「………」

 三咲は黙ったまま受け取る。

「ねぇ、翔君」

 やっと口を開いた。

「なんだ?」

「うんん。なんでもないや。また、明日ね」

「ああ、明日な」

 三咲は自分の家に帰って行った。

「何を言おうとしたんだ? あいつ…」

 翔也は自分の家に入った。


「ただいま!」

 三咲はリビングに入って来て、ソファーにイルカのぬいぐるみを置く。

「三咲、手を洗ってきなさい!」

「分かってる! 今からやるって‼」

 三咲は洗面所に向かい、手をしっかりと洗う。

 そして、再びリビングに戻ってソファーに座りながらイルカのぬいぐるみを抱きかかえ、テレビを点ける。

「三咲、何か、いいことでもあった?」

 由紀が料理をしながら言った。

「え? なんで?」

 三咲は首を傾げた。

「だって、久々に楽しそうな顔をしていたものだから」

「そう? まぁ、でも、楽しかったっていえば、楽しかったかな?」

 三咲は、大事そうにイルカのぬいぐるみを抱く。

「でも、遊びの方も程々にしなさいよ。もう、高二なんでし、勉強もあるんだからね」

「分かってるって…うるさいな。もう…」

 三咲はウトウトしながら横になる。

 すると、財布がポケットからこぼれ落ちる。

(今日は…楽し…かっ……)

 三咲はそのまま眠りにつく。

 眠ってしまった三咲に気づいた由紀は、三咲のもとに行き、テレビを消し、財布をテーブルの上に置こうとした時だった。

 財布の間に挟まっていた紙が床に落ちる。

 由紀はそれを拾い上げ、つい、見てしまった。

(あら、これは……)

 由紀は嬉しそうにそれを眺めた。

(よほど楽しかったのね…)

 翔也と三咲のプリクラ写真をそっと財布に挟んだ。


「お兄ちゃん。今日は部活じゃなかったの?」

 夏海が翔也に問いかけた。

「ああ…」

「で、今までどこに行っていたの?」

「ちょっとな…」

 と、リビングで質問攻めにあう翔也は、買ってきた漫画を読みながら適当に答える。

「ふーん」

「一人で? お兄ちゃんが?」

「ああ…」

「その本屋の袋、ショッピングモールにある本屋さんだよね?」

「そうだな」

「漫画、買うのに、そんなに時間かかるっけ?」

「昼飯も食ったからな」

「ああ…。そういう事…」

 夏海は納得した。

 キッチンからは、カレーのいい匂いが漂ってくる。

 読み終わった漫画をテーブルに置き、キッチンの方に移動する。

「どうしたの?」

「ん? 牛乳が飲みたいと思ったから…」

 冷蔵庫を開いて、牛乳パックを取り出す。

「私の分も注でおいて…」

「あいよ…」

 翔也は二人分のコップを取り出して、牛乳を注ぐ。

「ほれ、そこに置いておくぞ」

 と、コップを夏海が取りやすいところに置き、再び、牛乳パックを冷蔵庫に直す。

「ありがとう…」

 翔也はごくごくと牛乳を飲み、流し台に置く。

「今日のカレー、辛いか?」

「お兄ちゃんの口に合わせて、少し辛めに作っているよ」

「母さん達は?」

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