◆3
翌朝、僕と相川は神社に向かって走っていた。少し前を行く相川が半ば声を尖らせる。
「日和が寝坊するからだぞ!」
「ごめん! でもお前が遅くまでゲームに付き合わせたのも原因だからな」
今日僕たちは、神社で森本と落ち合う約束をしている。昨晩相川が森本に電話をして、話をつけておいてくれた。倉田とも現地集合と連絡し、時間も決めたまでは良かったのだが、僕が寝坊したせいで朝から全力疾走するはめになっている。
葉月神社は、山の入り口に石鳥居を構えている。教室ほどもないくらいの狭い敷地に、社と手水があるだけの小さな神社だ。宮司が常駐していないのであまり手入れされておらず、そして周囲は林に囲まれていて常に薄暗い。少し不気味な場所だが、子供の頃は数少ない遊び場のひとつだった。
神社の鳥居が見えてくると、その向こうの社の傍に、人影がふたつ見えた。社の乗った石畳に腰掛ける倉田と、もうひとり。仁王立ちで腕組みをする、眼鏡の女性が立っている。
「相川、日和! 五分遅刻!」
怖い顔で僕らを出迎えられ、僕と相川がびくっと怯んだ。久しぶりに会っても、この生真面目さは全然変わっていない。
「ごめん、遅くなりました」
鳥居を潜って、僕はぺこりと頭を下げた。倉田が苦笑いし、森本は組んだ腕を解いた。
「全くもう。成瀬先生だったら、遅刻一分につき漢字の書き取り一ページ、宿題に追加されてるところだったわよ」
低い声でそう言って、僕らに詰め寄ってくる。そして手前で立ち止まり、にこっと微笑む。
「久しぶりね。元気だった?」
この女性こそ、森本早苗である。小学生当時から典型的な委員長気質で、クラスを取りまとめていた。今も相変わらずなようで、こうして叱られるのも当時をリアルに思い出す。
そしてそんな変わらない森本を見て、僕はほっと胸を撫で下ろした。昨日の谷口との電話が、頭の中に蘇る。なにかに怯え焦燥しきって、当時の面影が感じられないあの様子に、驚かされた。宮崎は火事でなくなり、笹山も当時の彼女とは変わってしまった。そんな中、あの頃のまま元気そうな森本の姿に、妙に安心したのだ。
神社は今日も、林の影になっていて薄暗かった。木の葉の囁きを蝉の声が邪魔をする。古い木でできた社は、苔と黴が目立ち、腐りかけていた。
森本が賽銭箱に寄りかかる。
「日和くんも倉田さんも、こっちに遊びに来てたのね」
「うん、昨日からな。日和は俺ん家に泊まってるんだぜ」
走り疲れた相川が、石畳にしゃがみこむ。森本は彼を見下ろし、ふうんと鼻を鳴らした。
「日和くんと倉田さん、今は東京でひとり暮らしだっけ。すごいわね」
「森本さんだってしっかりしてるんだから、ひとり暮らし、できると思うけど」
倉田はそう言うと、森本は困ったように苦笑した。
「都会もひとり暮らしも憧れるけどね。私はしばらくは、この村から出る気ないから。おばあちゃん残しては、どこにもいけない」
相変わらずではあるが、その笑顔にはどこか疲れが滲み出していた。
森本の家には、認知症で介護が必要な祖母がいる。森本の母が介護しているらしいが、それだけでは手が足りず、森本も手伝っている。彼女は介護が必要な祖母、介護疲れする母を置いていけず、この村を離れないのだ。
さて、と、森本は仕切りなおした。
「あなたたち、私になにか話があるんじゃなかった?」
「あ、そうだ。遠子のことなんだけど……」
森本をわざわざ呼び出したのは、単に再会を喜び合いたかっただけではない。幼い頃に亡くしたクラスメイトの名前を聞いて、森本の顔が強ばる。
「遠子ちゃん……早坂遠子ちゃんよね」
「そう。クラスでいじめに遭ってて、六年生の夏、川で死んだ、遠子」
「いじめ……。酷いものだったわよね」
当時いじめを見て見ぬふりをしていた森本が、ここへきて認めた。今更か、と、僕は少しむっとする。だが森本は、僕の気持ちを先に汲み取った。
「助けてあげられなかった。私、谷口くんたちを注意できる立場だったのに。これじゃ私も、あの子をいじめていたのと同じだわ」
僕は、子供の頃に感じていたもやもやを言い当てられたみたいで、ちょっと面食らった。森本がため息をつく。
「知ってる? あの子、いじめられて苦しかったのを誰にも相談できなくて、ノートに書いて吐き出していたの」
「ノート?」
それは、初めて知った。でも遠子の性格を考えると納得だ。あの子は自分の抱えた負の感情を人に伝染させない。自分の中に溜め込んで、消化しようとする。ノートに書き出して気持ちを整理していたというのも、彼女らしい。
「私、偶然そのノートを学校で見てしまったことがあって……そこに書かれていた酷いいじめの実態に、反吐が出そうだったわ。どうにかしないと、って、思った」
森本が顔を顰める。
「でも、どうにもできなかったのよ。担任の成瀬先生どころか、学校が、いじめを放っておいてるんだもの。私が動いたところで結局もみ消される。むしろ下手に余計なことをすれば、遠子ちゃんも私もさらに追い込まれる。現状維持がいちばんマシだった」
それを聞いて、僕は妙に納得した。森本だって、胸を痛めなかったわけではない。僕と同じで、彼女も無力な小学生のひとりだったのだ。
森本は、小学生の頃から賢かった。勉強ができるという意味でもそうだが、とにかく、要領が良いのだ。周りをよく見ていて、なにが最善か判断できる子だった。遠子のいじめの件も、先生に解決する気がないと見込み、自分にはどうにもできないと受け止めた。彼女もまた、遠子を見捨てるしかなかったのだ。
森本が下を向く。
「まさか死んじゃうなんて。分かってたら、もっと優しくできたのかな……」
そして今も、後悔に苛まれている。僕と、一緒だ。
「もう、遠子に謝罪すらできないけどさ。せめて、彼女のお母さんに会いに行きたいんだ」
僕は昨日から抱えている問題を、森本にぶつけた。
「遠子のお母さん、いつどこに引っ越したか、なにか知らないか?」
「ごめん、彼女のお母さんのことは、私も知らないの。遠子ちゃんが亡くなった頃から村の会合に顔を出さなくなったのは知ってるんだけど……」
森本は目を伏せ、眼鏡を指で押さえた。
「姿も見なくなって、気がついたら家ごともういなくなってた、っていう感じ。村の仲間なんだから、ちゃんと気にかけていればよかったんだけれど」
「そうか……」
遠子の母親はきっと、娘を喪ったショックで塞ぎこんでしまったのだろう。村の会合になど行く元気はなく、外を歩く気力もなくした。そして住民から忘れ去られたまま、村を去ったのだ。
だが、なにかひっかかる。姿を見せなくなった住人がそのままフェードアウトするようにいなくなるなんて、ありうるだろうか。
僕はしばし、頭上を見上げた。木々がざわざわ、葉を揺らしている。隙間から真夏の日差しが差し込み、石畳に不規則な模様を作る。ひとつ、僕の中に仮説が浮かんだ。
「……村八分?」
「え?」
相川と倉田、森本の三人の視線が、僕に集まる。僕は顎に手を置いた。
「住民同士の関わりがこれだけ密接な村で、誰かが人知れずいなくなるなんて考えられない。まして、娘を亡くして弱っている人を、放っておくわけがない。むしろお節介なほど気にかける方がまだ分かる」
それなのに誰も気にせず、気がついたらいなくなっていたなんて、どう考えても不自然なのだ。
だが、村の住人全員が無視していたのなら辻褄が合う。こういう古い村だ、結びつきが強い分、共通の敵を作って追い詰めるような馬鹿げた陋習が残っていても不思議はない。遠子の母親は、意図的に存在を消されたのかもしれない。
「ま、待てよ! そんなわけないだろ!」
叫んだのは相川だった。座り込んでいた彼は、立ち上がって僕と目線の高さを合わせた。
「この村の住民が、遠子の母ちゃんをいないものとして扱って、追い出したって言いたいのかよ。俺がそんなことすると思うか?」
「あっ……ごめん」
僕ははっとして咄嗟に謝った。そうだ、相川もこの村の住人のひとりだ。なんの根拠もないのに、村の人が悪いような言い方をしてしまった。
「気を悪くさせてごめん。でも、ありえなくはないじゃないか。追い出したのは大人たちなら、当時子供だった相川や森本が気づかなかったのだって仕方ない」
子供たちが遠子の母親から目を背けるよう、大人が上手くコントロールしていたのだとしたら。相川は口を半開きにし、反論の言葉を剥がしていたが、やがてそのまま押し黙った。しかし倉田が、相川に代わって言った。
「でも日和くん。仮に村八分があったとしても、村の人から嫌われない限り、村八分になんかされないんじゃないかな……。遠子ちゃんのお母さんが村八分にされるような理由、思い当たらないよ」
そういわれてみればそうだ。村の人々は本来、情に厚い。追いやられるようなことをしない限り、同じ村の仲間として大事に接する。
考えれば考えるほど、分からなくなる。僕はまた、虚空を仰いで考えた。
「せめて、近くに住んでた谷口がなにか分かれば良かったんだけどな……」
「谷口くんねえ。彼もなんだか、おかしくなっちゃったわね」
森本も、谷口のあの様子を知っているらしい。心配そうに俯く森本を横目に、僕は言った。
「谷口に、会いに行ってみようかな」
「えっ」
相川が目を瞠る。
「でもあいつ、もうこの村にはいないぞ。関わりたくないって言ってるし……」
「そうだけど生きてはいるし電話だって繋がる。調べれば、今どこにいるのか辿り着けそうじゃん」
「捜し出すの大変だと思うし、居場所が分かっても会ってくれないかもしれないし、会っても遠子の家のことは覚えてないかもしれないだろ」
「でも、唯一の手がかりだよ。たとえ遠回りでも、他に突破口がない」
すると森本が、重たそうに口を開いた。
「やめた方が……いいよ」
僕と相川が目を向けると、森本は一瞬口を結び、言いにくそうに切り出した。
「遠子ちゃんの件には、踏み込まない方がいいんじゃないかなって」
彼女は眼鏡の奥で目線を泳がせ、ぽつぽつ話した。
「谷口くんも、宮崎さんも、笹山さんも。それぞれみんな、不幸になったでしょ」
「……そうだな」
「こんなこと言ったらバカだと笑われるかも知れないけれど……。私、あれは遠子ちゃんの呪いだと思うの」
「呪い?」
僕は思わず繰り返した。
「呪いなんて、そんなのあるわけないだろ。映画じゃあるまいし」
急にこんな非現実的な発言をして、しっかり者の森本らしくもない。森本が早口になる。
「だってその三人とも、遠子ちゃんをいじめてた。いじめられたまま無念の死を遂げた遠子ちゃんが、復讐してるのよ」
彼女は難しそうに、言葉を選んだ。
「私だって、幽霊も呪いも、フィクションのものだと思っていたわ。でもここまで続いたら、私にはもう、そうとしか思えない」
遠子の呪い。そんなの、考えてもみなかった。しかしたしかに、村から逃げるようにいなくなって、思い出すことすら怯える谷口は、まるで霊にでも苦しめられているかのようだった。宮崎なんか死んでしまったし、笹山も、心を壊してしまった。偶然とは思えないくらい、不幸が連続している。
森本は言いづらそうに続けた。
「あなたたちは、遠子ちゃんと仲良しだったものね。あの子が呪うなんて信じたくないよね。私だって、あの子を悪霊扱いなんてしたくない。でも、それでもね。下手にこの件に踏み込んで、あなたたちにも万が一のことがあったらと思うと……」
森本は不安なのだ。いじめていた三人と同じく、助けられなかった自分も、恨まれているかもしれないから。僕たちも、例外ではないかもしれないから。
「忠告ありがとう、森本。頭に入れておくよ」
僕は森本に会釈して、踵を返した。
「じゃあ、僕は行くところがあるから、これで。またゆっくり話そうな」
「あ、待てよ日和。俺も行く」
神社を出て行く僕に続いて、相川もついてくる。倉田も追いかけてきた。
「どこ行くの?」
「学校の近くの鉄工所。谷口と仲が良かった、職人のおじいちゃんがいただろ。なにか知ってるかも」
「え、さっき忠告されたばかりなのに」
倉田が目をぱちくりさせる。それでも僕は、鉄工所の方角に向かって歩き出していた。
「遠子は優しい子だ。どれだけ意地悪されてもやり返さないような子だ。そんな子が、恨みから人を呪うなんて、ありえない」
たとえ怒っていても悲しんでいても、それを人にぶつけるような子ではない。それは、僕がよく知っている。
それに、もしも呪いだったとしたら、僕が最初に呪われているはずだ。
「まず職人のおじいちゃんを訪ねて、訊くだけ訊く。それでも分からなかったら、とりあえず近所の人に訊いて回る。そんで谷口の居場所を特定して、会いに行く。自由に動ける夏休み中の今の内にケリつけるぞ」
頑なな僕に、相川が呆れ顔になる。
「なにもそこまでしなくても」
「別に、相川が付き合ってくれなくても僕ひとりでも捜す。世話になったな」
「ああもう、付き合わないとは言ってないだろ。仕方ないな」
半分困りながらも、相川も倉田も同行する。僕らは蒸し暑い田畑の道を抜けて、鉄工所へ急いだ。
*
三十分後、僕らは葉月商店の前のベンチにぐったり腰掛けていた。アイスを咥えた相川が、地を這うような声を出す。
「収穫なし、かあ」
神社をあとにした僕たちは、学校の近くにある鉄工所を訪れた。もうとっくに閉鎖していたが、職人のおじいちゃんは今も、隣接している家に住んでいた。しかし認知症が始まっているのか、谷口の存在すら覚えていなかった。なんとか話を引き出そうとしてあれこれ訊いてみたのだが、「そんな子は知らない」の一点張りで、まるで会話にならない。僕なりに粘ったが、ついに相川の心が折れてしまい、これ以上は無駄だと切り上げる結果になった。
鉄工所の近所の人に訊いてみたりもしたが、誰も谷口の引越し先は知らない。もちろん遠子の母親の行方も知らない。口を揃えて、「気がついたらいなくなっていた」と言う。駄目もとで村役場も訪ねたが、やはり他人である僕らに個人情報は教えてもらえなかった。
外を歩き回った僕らは、暑さでふらふらになった。相川が「アイスでも食べよう」と提案し、今に至る。
「谷口は同級生である俺にも、今の住所を教えてくれなかった。年賀状のひとつ出せない」
相川がメロンソーダのアイスキャンディを舐める。
「電話番号は、中学の連絡網の関係で知ってたけどさ。それも日和のせいで着信拒否された」
「悪かったよ」
「ともかくあいつは、村と縁を切りたがってる。懐いてた職人のおじいちゃんが分からないんじゃ、他は誰も、谷口の新しい住所なんて聞いてないだろ」
投げやりに言う相川の横で、僕は手に持ったソーダのアイスを睨んでいた。
「そもそも、それが気になるんだよ」
僕はぽつっと、呟いた。
「なんでそんなに、村と絶縁したがってるんだよ。仲良しのおじいちゃんもいて、楽しそうにしてたのに。谷口の身になにがあったんだよ」
単純に、こんな田舎とは見切りをつけて再出発したいだけ、という雰囲気ではない。電話で聞いた彼の声は、村に対する恐怖心すら感じた。考えていると、倉田が小さい声を出した。
「呪い……」
森本の口からも聞いた、その単語が蘇る。
「この村にいると、遠子ちゃんの霊に取り憑かれたんじゃないかな。ここにいたら逃れられない、だから遠くへ逃げたんじゃ……」
倉田が手に持つチョコレートアイスの棒が、微かに震える。僕は少し、語気を強めた。
「倉田。遠子の呪いなんて、本気で信じてるのか?」
遠子がそんなことするはずない。大体、非現実的だ。しかし倉田は、ぎゅっと棒を握って言った。
「私だって信じたくないよ! でも、森本さんも言ってたでしょ。私も、そうかもしれないって思っちゃったの」
彼女の手に、溶けたアイスがぽたっと落ちた。
「だって、私がもし、遠子ちゃんの立場だったら……呪ってしまうかもしれないもの」
倉田の言葉に、僕は思わず言葉を呑んだ。遠子は優しい女の子だ。人に攻撃するような子ではない。でも、それはあくまで僕が見てきた一面のひとつに過ぎない。頑張って耐えてきた遠子だって、抵抗できなかっただけで、平気だったわけではないのだ。胸の中では憎悪が渦巻いていたのかもしれない。
呪いなんて非現実的だ。でも、現実では考えられない、僕の知らない世界があるとしたら。遠子は生きている間、あんなに苦しんだ。その上、志半ばでこの世を去ったのだから浮かばれない。彼女のやり場のない怒りや悲しみは、どこへ消えるのだろう。そう考えると、死者の強い情念が、生者に干渉できても仕方ない気すらする。
なんだか、分からなくなりそうだ。僕は手の中のソーダアイスを見つめ、それから相川に目を移した。
「相川は、どう思う?」
「え、俺?」
相川がびくっと肩を弾ませる。彼は困った顔で倉田を見て、そして項垂れた。
「俺も……呪いかな、って、思う。遠子がそんな化け物になったと思うとすげえ嫌だけど、遠子がそうなっちゃう気持ちも、分かるから」
たどたどしくそう言って、相川はサク、とアイスをひと口齧った。
「だからさ、日和。森本の言うとおり、手を引いた方がいいかもしれないぞ。俺たちだって、呪われたっておかしくないんだ。俺、まだ死にたくないな……」
うだるような蒸し暑さの中、蝉の声が騒がしい。相川も倉田も、弱気になってきている。僕は溶けかけてきたアイスの最後のひと欠片を口に放り込み、ベンチから立ち上がった。
「なあ。笹山の家って、どこだっけ」
「お前な。俺と倉田が止めたの聞いてた?」
相川が呆れ顔になる。
「呪いかもしれないんだ、もうやめにしよう」
「だから、笹山の家族に話を聞くんだよ。呪いかどうか、確かめるために」
僕はまだベンチに腰掛けている幼馴染みふたりを見下ろした。
「入院する前の笹山がどんな感じだったか、なにか言ってなかったか、訊いてみる」
谷口は一家で引っ越していて、宮崎の家なんか誰も残っていない。今もこの村にいて話を聞けそうなのは、笹山の家族だけなのだ。
相川と倉田がぽかんとしている。僕はアイスの棒を店の入り口のゴミ箱に入れた。
「仮に呪いがあるとしたら……遠子が自分で自分を制御できないくらい、苦しんでる証拠だ。その呪い、一秒でも早く解いてやりたいだろ」
幼い頃、僕は遠子を救えなかった。彼女が今も苦しみ続けているのなら、せめて、できることはしたい。
僕が呟くと、しばらくして、倉田が腰を上げた。
「ずるいなあ。そう言われちゃったら、手伝わないわけにいかないじゃない」
「倉田が行くなら、俺も。全く、日和は頑固な奴だな」
相川もうんざりした声を出しつつも、ベンチを立つ。
「笹山の家、今ならお兄さんがいるはずだ。麓の町の小学校の先生で、この間から夏休みに入ったって聞いてる」
僕はふっと笑って、ふたりの顔を交互に見た。
「呪いが怖いなら、無理しなくていいんだぞ」
「怖くねーし」
相川が捨て台詞みたいに言って、アイスの棒をゴミ箱に突っ込んだ。
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