第5話 愛の女神アウラ


 そこには金髪の、座っているので分かりにくいが長身で清楚な服を着た、目を血走らせ鬼の形相をして男を睨み付けている女がいた。


(あれは係わったらダメなヤツだ……)

 

 レイモンドはそう思うが、あれが愛の女神アウラであるのはほぼ間違いないだろう。もういっそのこと後はディアに任せてそのまま帰ろうかと本気で思ったが、

 

「あ、アウラ様いたぁぁぁぁぁぁ~!」

 

 ディアが大声で叫び、アウラの目がこちらを向いてしまった。

 

「……あら? ディアじゃない。どうしたの?こんなところで」

 

 きょとんとした顔でディアに問う。その顔は先ほどの鬼とは異なり、確かに絶世の美女と言えるだろう顔をしていた。

 

「どうしたじゃないですよっ! アウラ様が下界に降りちゃうから探しに来たんじゃないですかっ!」

「ふ~ん、そうなの。ご苦労様。で、その隣にいる男は誰……?」


 しかし、ディアの話を軽くいなし鋭くなった目付きでレイモンドを射抜く。

 

「この子はアウラ様を探すの手伝ってくれたレイだよ!」

「……レイモンド……です」

「へ~、そうなの。よく見ると良い顔してるじゃない。どう、私と良いことしない?」

「12のガキを誘惑するなっ!」

「あら、私くらいになると12歳だろうと100歳だろうと大した違いはないわよ」

「人間基準で違いを判断してくれ……はぁ」

 

 心底疲れた顔でレイモンドは嘆息する。もう関わらずに帰りたいと思うも、両親のことを思い浮かべ現状打破の為に話を進めようと腹を括る。

 

「何で下界に降りて来たん……ですか?」

「別に敬語何て無理に使わなくて良いわよ? こっちに来た理由はねぇ……」

「理由は?」

「ちょっと聞いてよぉ。酒神の所に行ったら酒蔵閉められてるし、他の神の所に行ったらみんな今は忙しいとかなんとか言って全然相手にしてくれないのよ!? 酷いと思わない!? だからこっちに降りて良い男がいないか探してたのよ。でも、みんな私と目も合わせようとしないの!」

「そりゃ、あんな顔で見られたら目も合わせられんだろ…」

 

 レイモンドの呟きはヒートアップしたアウラの耳には届かなかった。そして、これ以上愚痴に付き合わされるのは堪ったものじゃないと本題に入る。

 

「この街の状況どうにかしてくれないか?」

「ん~? この状況って何かしら?」

「アウラ様がこの街に降りた影響で、みんなの愛の感情が消えちゃってるんですよぉ!」

「あ~、なるほどねぇ。道理でみんな私を見ようとしないはずだわ!」

「いや、それはちが……、まぁいいや。それで元に戻せるのか?」

「ん~、一週間くらいで元に戻ると思うわよ?」

 

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