第4話  4月6日  入部希望者

 4月4日、土曜日。始業式が無事終わり部活紹介の時間になった。体育会系や吹奏楽部はパフォーマンスをして注目を浴びたが、我らが写真同好会はそんな元気な部では無い。1分弱のスピーチを終わらせて速攻帰る。



 休日挟んで4月6日、月曜日。授業が始まる。初日は委員長決めとかで授業は全て潰れるが。

 誰が委員長になろうが反対はしない。やりたい奴がやればいい。その気持ちは隣の糸原も同じらしい。


「拓、委員長やったら」

「オレが人前に立つの苦手なの知ってるだろ」

「でも土曜日、みんなの前で発表したじゃん。評判良かったらしいよ」



 土曜日の部活紹介、写真同好会の代表として参加していた。砂珠は家の手伝い、糸原は音信不通になり消去法でオレになった。

 人前に立つのが苦手なオレは、噛みまくったり早口で読んだりである意味印象に残ったらしい。

 

「新入生、入部してくれるかな」


 後ろの席の砂珠が話に入って来た。


「あと1人入部してくれないとアウトだっけ」

「流石に1人ぐらいは入ってくるだろ」


 現在、写真同好会は河野拓、糸原留春、日渡砂珠の3人。

 部、同好会の共通ルールとして部員が最低でも4人必要。4人以下の場合は休部、もしくは廃部になる。

 去年の先輩達は部員大量確保を目指したが、オレだけしか入部しなかった。先輩達が自由登校になった後に2人は入部してくれた。前まではオレ含めて5人いたが、その内4人が3年生で2年生はいない。

 別に廃部になるのは構わないが、オレの代で廃部になるのは気持ち的に嫌だ。

 


「ビラ配りでもする?」

「・・・作ってない」

「見学に来てくれた人の写真撮るのはどう?」

「・・・人物写真撮れない」

「何も考えてないんだね」

「どうにかなるよ、多分」


 なんて話に夢中になっていたら拍手が聞こえた。教卓のところには女子生徒が立っている。顔は覚えているが名前が思い出せない。


「この度、クラス委員長になりました理静惺りせいしずくと申します。皆さんと良きクラスにしていきましょう」


 あ〜思い出した。理静さん。金持ちの理静さんだ。初日に2人が言ってた人だ。

 

「早速ですが副委員長を決めたいと思います」


 なんかスッキリしたわ。もやもやが晴れた気分だ。


「今から私が副委員長に相応しい人を推薦しますので、異論が無い方は拍手をお願いします」


 もう決まるのか。別に誰になろうと反対する気は無いし拍手の準備でもしとこう。


「河野拓さん。そして糸原留春さん。私はあなた達を推薦します」


 ・・・うん?


 いきなり名前が呼ばれた事に理解が出来ず、同じく理解が出来なかった糸原と目が合った時、クラス中から拍手が響いた。




 *********


「いや、ひどい。アレはひどい」

「謝っていたしもう許してやりなよ」

「ムリ。シンプルに傷付いた」


 今は放課後。部室で午前中にあった出来事について不満を漏らしていた。

 午前中、金持ちの理静さんに副委員長に推薦された。糸原も困惑してどう対処したらいいか分からなかった。

 周りは拍手をして、唯一砂珠だけが心配そうな顔をしていた。

 誰に推薦されてもやりたく無い。断ろうと思い理静さんに辞退する事を伝えた。

 すると理静さんは不思議そうに「あなたは推薦してませんよ」と言ってきた。

 

 ・・・何言ってんだ、コイツ。


 お金持ちなりのギャグなのか本気で言ってるのか。分かる事はさっきまでの賑やかムードが無くなった。

 クラスの至る所から困惑の声が出てる。オレの名前を確認したり、理静さんが言い間違えたとか色々憶測が飛んでる。

 理静さんもクラスの異変を見て自分がミス犯した事に気付き、慌てて座席表を確認する。

 


「結局、座席表を逆に見ていて、本来使命するはずの人をボク達と勘違いしたらしいね」

「別に間違えるのはいいけど、その後の対応よ。オレにだけ冷たい気がする」


 間違いに気付いた理静さんは糸原にはしっかり謝罪していたが、オレに対しては本当に軽く頭を下げただけだった。


「拓、なんか前に失礼な事したんじゃない?」

「いや〜、した覚えは無いな。あの人の性格が悪いだけだよ」

「でも拓はノットデリカシーでしょ。知らない内になんかやらかしてるよ」

「イヤ、本当にあの人と関わり無いから」


 あの後思い出したが、理静さんは学校で1、2を争うお金持ちらしい。そんなボンボンと関わったら名前を覚えるのが苦手なオレでも覚えそうだが、覚えて無い事から1回も関わりは無い。


「理静さんって、どんな人にも優しく接してるイメージしか無いよ。拓の思い違いかもよ」

「思い違いね」


 そんな善人みたいな奴がピンポイントでオレに冷たくするか普通。

 

「表では善人を演じているけど、裏は想像出来ないぐらい黒いとか有り得るじゃん」

「有り得るかもしれないけど、その可能性は低いでしょ」

「それはちょっと言い過ぎだよ」


 同じクラスになって数日、確かに向こうの事を何も知らない為思い違いの可能性の方が遥かに高い。

 考え過ぎても答えは出ないし、頭を切り替えよう。


「声が聞こえ出したし、もう1年生は来ているのかな」


 ドアの方を見ながら呟いた。

 ちょっと前から声が聞こえていたのは確かだ。1年生が部活見学に来ている。大半の生徒は運動部に持ってかれる。そして文化部に入る生徒も半分は吹奏楽部に吸われる。残った奴が同好会や帰宅部になる。

 同好会は写真を含めると10ある。大抵はどこも4人入って来て、廃部休部の危機は乗り切れる。だが写真同好会はここ2年間でオレたち3人しか入部して無い。

 今年は1人入部してくれれば首の皮が繋がる。


「流石に1人は入部してくれるさ」

「随分低い目標だね」

「オレは廃部にならなきゃ何でもいい」

「私と糸原くんが居なかったら3人募集する事になってたね」

「その点は頭が上がらないです」


 糸原と砂珠は名前だけ貸してもらっている状況に近い。カメラや写真に詳しい訳では無く、カメラも持ってない。ほぼ素人だ。かと言ってオレも詳しくない。マイカメラはあるが機能が多すぎて、使いこなせてない。写真同好会はただの寄せ集め集団と表現した方が正しいかもしれない。


「別に今日見学に来なくても大丈夫だと思うよ。24日まで見学できるから」

「そうだけど毎日ここに来る必要があるんでしょ」

「え、それはちょっと。そのあたりどうなの拓」

「今のところ月水金曜日しか開く予定は無い。終わる時間も見学が始まって1時間で終わらせる予定」


 正直毎日集まるとか遅くまで残るとか面倒臭い。悪いが先輩たちみたいに本気で取り組む訳では無い。




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