第3話 4月3日  出会う 3

 いきなり「私の事が見えるの?」と聞かれた事はあるだろうか。

 多分無い。いや、言い切ろう。無い。

 それでも前の女の人は意味不明な事を言ってる。

 俺の妄想が具現化して現実に出て来たのか。それだったらもっと可愛い子がいい。この人も確かに可愛いが、変な質問をしてくる子なんて妄想してない。もっと尽くしてくれる子を妄想したぞ。

 

「ねぇー、聞いてる?私の事見えるんでしょ。さっき私と目、合ったよね」


 びしょ濡れのため服は肌に付いて、透けている所もある。

 妄想ではなく現実だ。

 

「気のせいでは」

「でも君、手、振り返してくれたでしょ」


 あ〜、なんで振り返したかな俺。


「なんか誰も居ないのに手を振って可哀想だなって・・・」

「だって君に手を振っていたよ。なんですぐに振り返してくれないの。もしかして君意地悪?」

「知らない人に手を振られて、振り返すほど物好きでは無いので」

「でも私、第一街人でしょ?」

「うわぁ、聞かれてた」


 思ったより声が大きかったのか。

 マジか。聞かれてたか。めっちゃくちゃ恥ずかしい。

 なんかどうでも良くなくて来た。


「何々?1人で寂しかったの?大丈夫。お姉さんが居るから。ほらこっちおいで。ぎゅーってしてあげる」

「なんで初対面の人にそんなに馴れ馴れしいんですか。それに濡れるし。ちょ、近づいて来ないで。濡れる濡れるから」


 手を広げて今にも抱きついて来そうな勢いだ。


「そう。残念だなぁ。じゃあ代わりにお話ししよっか」

「まあ、それぐらいならいいですけど。それより移動しません?」


 手先の一部は雨によって濡れてるが、そこだけかなり冷たい。

 全身びしょ濡れのお姉さんを見ているとこっちが寒くなってくる。

 

「いいよ。場所は君に任せるね」



 公園の中心辺りには建物があり管理棟や自販機、簡易的な休憩スペースがあり誰でも中に入れるが、この格好で入ったら間違いなく迷惑なる。ので、屋根のある場所に移動して雨だけ防ぐ。

 しかしこのお姉さんすごい。腰辺りまで伸びた黒髪、モデル顔負けの綺麗な顔立ち。スタイルも良い。長い脚に引き締まったウエスト胸は、うん。アレだ、スレンダー。

 オレは大きい方が好きだが透けて下着が見え、チラチラ視線が向いてしまう。

 全体的に濡れてる事で色気がある。


「君、ちょくちょくこっち見てるのバレバレだよ。女の子は男子の視線とか結構分かるから注意した方がいいよ」


 その話は聞いた事はある。しょうがないじゃん。そんな格好では見てしまう。


「あと、胸は一瞬だよね。なんで?」

「単純に大きい方が好きなんで」

「そう?私も大きい方だから。まだ成長期だから」

「失礼ですけど、膨らみが無い気が・・・」

「そこまで言うなら触らせてあげる」

「いや、結構です。あの、ホントに冗談抜きで捕まるから。掴まないで。お願い、離して」


 手を振り払おうとするがガッチリ掴んで離さない。思ったより力あるなこの人。

 てか、冷た。どんだけ雨に濡れていたんだよ。


「別にいいよだ。次合った時成長してるから。もう触らせてあげないから」

「なんで次会う前提で話してるんですか」

「私が会いたいから会うの。理由はそれだけで十分」


 この人勝手過ぎないか。

 何とかして会わない理由を考えていると、急にお姉さんは黙って空を見上げた。つられて空を見るが青空どころか雲の薄い所も無い。さっきより勢いが増してる気もしなくはない。

 雨雲レーダーであと何分で止むか調べる。結果は夜まで降り続くようだ。


「…もう時間か」


 一瞬だけ悲しそうな表情を見せた。今までのテンションとの落差が激しい。


「雨も止みそうだし、もう帰ろっか」

「いや、結構降ってますけど。因みにどうやって帰るつもりですか」

「ん?どうって、このまま帰るよ」

「傘は?」

「あったら差してるよ」


 このまま帰るとか正気なのか。びしょ濡れだし、下着透けて見えてるし、公園内に偶然人がいなかったから良かったが外に出れば職種質問されてアウトだろ。


「そんなに心配しなくても大丈夫。私、あまり目立たないから」

「・・・その恰好は目立ちますよ」

「もしかして私のこの姿、他の人に見せたくないの?」

「じゃあ、帰りますね」


 言い方にイラっときた。心配するだけ無駄だな。さっさと帰ろう。


「待って」


 右肩を掴まれる。呼び止めるのは構わないが、もうちょい力を弱くしてほしい。


「話をしてくれたお礼に、一つ予言をしてあげよう」

「予言?」

「この雨は5分以内に止むよ」


 胡散臭い感じだと思ったら、結構現実的だった。

 しかし、雨雲レーダーは夜まで降る予報だ。


「あ、その顔、信じてないでしょ」

「信じてないですよ」


 いきなりそんな事を言われても信じれない。

 燕が低く飛んだら次の日は雨が降る、みたいな感じか?


「アレ、お婆ちゃんの知恵袋みたいなのですか」

「いや、私の勘だよ」

「尚更信じられない」


 この人、不思議ちゃんなのかな。


「お礼も済んだし、今度こそ帰ろっか」

 

 アレがお礼なのかは疑問だが、これ以上帰りが遅くなるのは嫌なので解散に異論はない。

 あの人は俺と反対の方向らしい。雨の中を軽そうな足取りで進んでいる。

 ことらも帰路に着こうと、歩き始めた時。


「あ、そうだ」


背後から声が飛んでくる。声の主は確認しなくても分かる。


「私、氷雨知衣ひさめちえ。また会おうね~」

 

 一方的に自己紹介を済ませ、どんどん遠ざかっていく。

 こちらもするべきかと悩んだが勝手に遠ざかっていくからいいや、と結論を出し帰る。







 公園から家までは約3分。自宅周辺は住宅街が広がり、仕事帰りと思われる人とすれ違うようになっていた。

 その中には傘を差してない人がちらほらいた。さっきまでは、傘が必須な量が降っていたが、今は小雨になってきた。雨雲も薄くなっていき空が若干明るい。

 家に着くころには完全に止んでいた。雨雲も無くなり、一等星が幾つか見える。

 

「ほんとに止んだ」


 あの人、知衣さんの予言が当たったことに素直に関心する。

 その時は気づかなかったが、雨がもうすぐ止む知らせの通知が来てた。時間的には知衣さんと別れた直後ぐらいだった。





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