第2話 4月3日 出会う 2
「疲れた」
学校を出る頃には日が傾いていた。
あの後糸原と対戦したが先行ワンターン特殊勝利と今までに体験した事のない敗北を味わった。
約束通り2人は帰宅して1人で準備することになった。準備といっても事前に撮った写真を印刷してそれをファイルにまとめたり、軽い年間予定表を作ったりする程度だが。
聞いただけだは余り時間が掛かりそうには感じないがそれは間違いだ。
まず立教学院には部、同好会合わせて40以上ある。部と同好会の大きな違いは部費が出ないこと。生徒会に申請すればいくらか出るらしいが基本的にもらえることは無い。
ゆえに写真の印刷も生徒の自腹で行わなければいけない。だがそんな為に金を払いたくない。
そこで図書室に生徒共有のプリンターを使う。ちなみに予約制だ。
早く予約すればいい話だがそうはいかない。なんでも去年、写真同好会の先輩たちも共有のプリンターを予約して一番最初に使えたらしい。だが、異常としか思えない量を印刷してインクを空にしそのあとに予約を入れていた部や同好会に迷惑をかけた。
そのペナルティーとして一番最後に回された。
なんでそんなに印刷したのかを聞くと「いっぱい写真を飾れば一年生がたくさん来ると思った」と先輩は話していた。
結果貼りすぎて不気味な感じに仕上がり、新入部員は俺しかいなかった。
すべては部に昇格する為に行ったらしいが全て裏目に出た。
要は先輩達の負の影響をもろに喰らった。
作業時間よりも待ち時間の方が長い状態だ。
肉体的疲労よりも精神的疲労の方が大きい。
1人でも十分に出来たが、待ち時間の話し相手が欲しかった。
駅に着き電車を待っている最中にスマホに雨雲が近づいてきている通知が来た。確かに学校を出た時より雲が占める割合が広くなっている。
「折り畳みあるし、平気か」
そう結論付け、すぐそばにある自販機でカフェオレを買う。
「あぁぁ、ウマい」
疲れた時はカフェオレを買う自分ルールがある。この甘さが身に染みる。
味わっていたら電車が来た。
雨が降る予報を知っているからか普段より人が多い気がする。
席は空いていたが座らないで吊り革を掴む。座ると外の景色が見にくいから余程疲れてない限り座らない。
子供の頃は電車が好きで、将来は電車の運転手になるとか言っていた。今でも好きだがあの頃程熱量はない。でも、電車に乗るのは好きだし根は変わってないのかもしれない。
ぼ~っと景色を見ていたら窓に水滴が付いた。道路の色も変わっている。
本格的に降ってきたようだ。
家の最寄駅に着いた。ホームに出ればまだ雨こそ降って無かったが雨が降る前にする特有の香りがする。後数分もすれば降ってくるだろ。
改札を抜け、空になったカフェオレを捨て外に出る。
外ではすっかり雨が降っていた。
今は4月だが、今日はやけに寒く感じる。折り畳み傘があるが正直使いたくない。傘の骨に髪の毛が巻き込まれて痛い。
だが差さないで帰ったら多分風邪を引く。
少量の髪の毛を犠牲に傘を差さす。
中学2年の時に買った為か小さい。身体全部を傘に入れれば鞄が濡れる。さっさと帰ろ。
自宅は駅から約10分の所にある。駅と家の間にスーパーや大型の商業施設があるため、自宅周辺でほぼ済ませられる。近くには大きな公園があり家族連れに嬉しい立地でもある。
この公園を突っ切る事で駅まで10分のタイムを叩き出せるのであって、公園をさえれば約20分かかる。
普段なら公園でキャッキャ遊んでいる子供にすれ違うが今日は違う。流石に雨の日に外で遊ぶ奴はいない。
普段賑やかな風景が当たり前になっており、静かな公園の姿が新鮮に感じた。雨の音がクリアに聞こえる。
人の気配が無い公園の半分を通過し階段を登ろうとした時、人影が見えた。傘を差してない。見た感じ女の人だ。
「ここで傘を差してない第一街人発見」
近くには誰もいないし、どうせ聞こえない。さらに保険をつけて小声でテレビのナレーションの真似事をする。聞かれていたら滅茶苦茶恥ずかしい。
すると女の人がこちらを向いて大きく手を振って来た。
ドキッ⁈
聞かれていたと思い心臓が飛びそうになる。手を振って来た事により、さらに心臓が飛びそうになる。2コンボ。
こちらの独り言が聞こえて振り向いたのか。それとも偶然振り向いて俺の後ろに友人でもいたのか。あれ?2コンボ以上では?
だが雨の音と俺の足音以外音は無い。周りがこんなに静かなら誰かの足音にも気付きそうだ。
恐る恐る背後を確認するが、誰もいない。
(え?怖っ)
この辺りは遮蔽物は無い。だが女の人の方が高い位置にいて、ここよりも遠くを見る事が出来る。でも明らかに視線はこっちらに向けてある。
女の人を見れば、さっきより大きくは無いがまだ手を振っている。
もう一度背後を確認したが誰もいない。
本当に怖い。違う意味で心臓がドキッとする。
まだ手を振ってくる。怖いと思いながらも小さく手を振り返す。
すると階段を降りて来た。後ろに行ってくれと願いを込めて右に寄り道を譲る。
しかし願いも虚しく、こちらに向かってくる。
(もう何々⁈怖いんですけど)
思わず一歩後退りしてしまう。
こちらに近づいてくる女の人。見た目は1つか2つ年上な感じのお姉さんだ。
よくよく見れば綺麗な人だが、よくよく見過ぎたせいか全身がびしょ濡れであるのが分かった。傘を差してなかったなら当然だが。
こちらが色々恐怖を感じていると、近づいて来たお姉さんの第一声。
「キミ、私のこと見えるの?」
ホントに怖い。
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