晴れ、後雨

星帽子

第1話  4月3日 出会う

 あの人と最初に出会ったのも雨の日だった。

 傘を差さずびしょ濡れになりながら雨雲を眺めていた変人でもあり恩人でもあるかもしれない人。



***********



 ここ私立立教学院。都心からのアクセツもよく周囲に程よい自然があることから勉強とスポーツの両立が可能であることを売りにしており、県外からの生徒が半数を占めている。蓋を開けてみればほぼスポーツ推薦で入ってきた生徒ばかりだが。

 4月3日は立教学院の始業式がある。クラス替えの日でもあるため電車内にいる学院生はいつも以上にそわそわしている。

 誰と同じクラスになって、誰と離れるかは今後の学校生活を送るうえでは見逃せない大きな行事ともいえるだろう。


「なあ、拓。同じクラスは避けたい奴とかいる?」

「避けたい奴?」


 河野拓こうのひらく。立教学院2年。写真同好会部長。

 ぼけ~と外を眺めていた少年は、いきなり飛んできた変わった質問に思わず聞き返してしまう。

 避けたい奴か・・・・。


「こちらに迷惑をかけなければ誰でもいいよ。逆に糸原は避けたい奴いるのか」


 糸原留春いとはらとめはる。立教学院2年。一応写真同好会所属。さらさらの黒髪に整った顔。一言で表すならカッコイイ。しかし中身は少し残念。糸原は大のカードゲーム好きだ。1年の冬休み前に何も知らない同級生に告白されたらしいが断った。

 「放課後デートや部活に行くぐらいならカードショップでストレージを漁っていたい」が糸原の主張だ。

 この主張をあの子が知ったらどんな顔をするのか想像したくない。


「ん~そうだな。僕の趣味に文句を言ってこなきゃ誰でも」

「結局誰でもいいじゃん」


 糸原とは1年の時から同じクラスだった。たまたま掃除当番が同じで掃除の時以外は接点も無かった。話すようになったのは5月の半ばごろ。Twitterで新カードの情報を見ている所を見られそこから話すようになった。


「でも、カードゲームやっている奴とは同じクラスになりたいな」

「確かに対戦相手が増えるのはうれしいけど」

「あ~小学生のころはクラスの半分は遊んでたのにな。公園に行けば沢山いたのに、今じゃ拓だけだよ」

「昔は遊んでた人は何人か知っているけど今はほんの一握りまで減ったな」

  他の立教生はクラス替えの話題なのに2人だけは思い出話をしている状態だった。

 そこからさらに思い出話に花を咲かせていたら電車のアナウンスが最寄り駅に着くことを知らせてくれた。

 

 


 駅から歩いて5分。立教学院が見えてきた。正門に入ってすぐの所に新しいクラスが発表されていた。

 友人と同じクラスになれて喜んでる人、微妙そうな顔をしてる人、離れ離れになって嘆いてる人など三者三様の反応がある。

 俺たちも自分の名前を探す。


「河野、河野。・・・お、あった」

「お、僕も見っけ。って、拓と同じだ。ラッキー」


 糸原に言われてもう一度目を通す。

 ホントだ。同じクラスだ。話し相手は出来たし良かった。

 新しく変わった下駄箱の位置を確認した後、新しいクラスである2年5組に向かう。


「そういえば1年はまだ来てないのか」

「明日入学式だから来てないね」

「入学してもう1年経つのか・・・」


 俺は立教学院は第一志望では無かった。滑り止めで受験した。入学式した頃は余り学校に行く気にもならなかったが次第にそんな気持ちは薄れていった。楽しんでいる自分がいる。住めば都とはよく言ったものだ。


 クラスにつけば半分ぐらいいた。立教学院は1学年で約250人いる。8クラスあり、クラス替えをして前回と同じクラスの人は3、4人ぐらい。卒業まで顔も名前も知らないが半数はいる。

 ホワイトボードに貼ってある座席表を確認して荷物を置く。

 運が良い事に糸原と席が近い。そしてさらに知り合いを見つける。


「糸原くん、河野くんおはよう」


 日渡砂珠ひわたりさじゅ。こっちも一応写真同好会所属。肩らへんで揃えられた白髪にこちらを覗きこめば吸い込まれそうな瞳。スタイルも他の女子に比べたらいい方だろう。しかし猫背気味だったりあまり活発ではない為目立つ生徒ではない。

 砂珠の家は書店を経営しており俺はそこでバイトをしている。糸原もちょくちょく遊びに来てそれで話すようになった。

 

「おはようさん」

「おはよう」


 あいさつを済ませホームルームまで時間をつぶす。と言っても話題はクラス替えについてだが。


「今回クラス替えは五組が一番の当たりって言われてるよ」

「どうして、どこも似たり寄ったりだろ?」

「サッカー部のキャプテン候補の柳本君や野球部エースの東篠君、学校で一番お金持ちの理静さん」

 

 そのあとも何人か名前が出てきたが半分は分からない。それにきずいた糸原が「嘘でしょ」と言いたげな顔をしている。


「拓、もしかしなくても分からない系?」

「分からない系」

「すごいよそれ。ここの生徒はみんな知ってるよ」

「いや、おれ、名前覚えるの苦手だし」

「苦手のレベル超えてるよ」


 二人の攻撃が痛い。最初の3人ぐらいしか名前は覚えてない。顔は曖昧だがこれも言えばもっと追い打ちくらうから止めといた。

 そんなに有名なら後で名簿に目を通しておこう。






 そこからしばらくしてホームルームが始まった。今日は始業式の為昼前には終わるらしいが明日入学式後に行われる部活動紹介の準備がある生徒は残るとか。

 我々は部活ではなく同好会の為参加しません、と言いたいが廃部寸前なのでそんな事言ってられない。

 本音はさっさと帰りたいが廃部阻止のために仕方ない。

 最低でも4人は必要なのだが今はオレ、糸原、砂珠の3人のみ。あと一人足りない。

 ほぼ為にならない始業式を聞き流し、あの二人をどうやって捕まえるかを考える。砂珠は家の手伝いがあるからまだ見逃すが糸原は逃がさない。


 始業式も終わりクラスでの今後の日程の予定の説明も終わり解散となった。

 とりあえず二人の机を叩いて意識をこちらにむけさせる。


「さ、部室行こうか」


 案の定2人は嫌そうな顔をしたが気にしない。俺だって嫌だ。

 

「私、家の手伝い」

「まあ、いいでしょう」

「ボクも家の手伝い」

「糸原はダメだ」


 砂珠は解放されたとたん笑顔になった。めちゃくちゃ可愛い。

それに引き換え糸原は抵抗してくる。


「なんでよ。砂珠ちゃんは良くてボクはダメなのさ」

「帰ってもカードショップ巡りだろ。いつでもできる」

「いや違う、今日しか会えないカード達があるかもしれないだろ」

「それは運が無かったと思え」

「イーヤダ。帰る」


 どちらも譲らない光景を見ていた砂珠がある打開策を提案する。


「じゃ、勝負したら?カードで」

「お、いいね。それ」


 さっきまで全く譲らなかった糸原が急に態度を変えた。

 でもこれで勝てたらあいつも諦めてくれるだろう。


「分かった。先に2勝した方の勝ちな」

「いや、ここは1回勝負でいこう」


 よほど自信があるのか、強気な糸原。勝率は糸原の方が高いがほぼ五分五分。

 勝てる見込みはある。

 1人で準備するか2人で準備するかはカードの勝敗で決めることになった。

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