第10話 [トビペンギン]下

 匂いを辿ると一件の大きな家があった。窓が開いているところがあり忍び込んだ。おいら、リスだから不法侵入にはならないと思う。


「おじゃましま〜す。」


 部屋に入ると、ベッドで横になっているお婆ちゃんおいらを見てニコリと笑う。


「やべっ!見つかった。」


 おいらは、すぐさま物陰に隠れるのであった。 


「ほらほら、食べたりしないからリスさんや出ておいで?」


おいらはひょこりと姿を表してお婆さんのベッドの上に乗った。


「どこからか迷い込んだのかね?ゆっくりしておゆき。」


お婆ちゃんがおいらを人差し指で撫でた。んっ。おいらはぺんぺんからハンカチは少女の物だと聞いていた。でも、ハンカチの匂いはこのお婆さんからする。


「リスさんは何しにここに来たの?」


 お婆ちゃんなら何か知ってるかも!おいらはぺんぺんから預かってハンカチを見せる。お婆ちゃんは少し驚いて、懐かしそうな目をハンカチに向けた。


「このハンカチ……フフフッ。律儀なモンスターもいるんだね。リスさんや、お婆ちゃんの昔話を聞いてはくれんか?」


おいらは頷いた。



「私がまだ若い頃。お見合いをすることになってね。まだやんちゃな子どもだったから、「絶対結婚なんかするかーー!」っ家を飛び出たの。飛び出たのは良いけどお金もなくて、毎日弓を持って森を狩りに出かけていていたわ。


 いつもの様に狩りをしていたら、遠くからこちらを伺う視線に気づいたわ。私はなにに見られてるか気になって、バレない様に近づいたの。そしたら、腕に傷を負った一匹の[トビペンギン]が空を見上げながら涙を流してたわ。モンスターなのに泣いてるなんて可笑しかしくって、少し笑っちゃったわ。


 するとトビペンギンは私に気付いてどっかに逃げて行ったの。それから毎日私を見る視線を感じながら狩りをしていたわ。


 しばらく月日が経って、私はお父さんに捕まったわ。あぁ。私はこの家から逃げられないのかって。どうしても自由に行きたくて、なんとか逃げ出して森で暮らそうと思ったわ。


 そしてたまたまお父さんが鍵をかけ忘れて家を出て行ったの。チャンスだって思ったわ。もう二度と帰って来ないって決心して、私は弓を持って森に向かったの。


 お腹が減ったから狩りをしていると近くに鋭い視線を感じて、矢を打ったわ。私は矢の回収に向かうとあの、[トビペンギン]だったの。治りかけの腕に矢が刺さって怒る様子もなく私を見つめてた。本能で死ぬ事を悟っていたんだと思うわ。


 死ぬ事を恐怖とも思っていないトビペンギンを見てたら、なんかお見合いとか馬鹿馬鹿しくなって家に戻ろうって思ったの。私はトビペンギンに刺さっている矢を抜いてハンカチを巻いてあげたわ。ハンカチは、上げたつもりだったんだけどね。

 


 家に帰ると物凄く怒られたわ。お母さんは泣き崩れ、お父さんは見合いはしなくて良いなんて言い出して大変だったわ。


 弱肉強食の世界で生きるペンギンを見て、毎日幸せに生きれられるのは両親のおかげだって気づいたの。少しくらい親孝行しても良いんじゃないかなって心境の変化があったわ。


 見合い相手は、とても優しくて良い人だったわ。頼り甲斐があって。笑顔が素敵で…一昨年死んじゃったけどね。次は私の番。もう長くはないと思うわ。」


 こう言うのお婆ちゃんは、大きな首輪をおいらに渡した。


「いつか渡そうと思っていたトビペンギンさんへのプレゼントなの。私は、もう森深くまで行ける体力は無いわ。渡して来てほしいの。」


「チュ!!」


おいらは短く鳴いて、首輪を受け取る。首輪にはペンペンと名前が彫られていた。


「ありがとう。リスさん頼んだよ。」


『スキル【恩返し】を発動しました。

恩返しの効果によりスキル【毒耐性】を獲得しました。』



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〜始まりの森に〜


「そうですか。もうそんな歳でしたか…。人間は寿命が短いのを忘れていました。」


寂しそうに笑うペンペンに首輪を渡す。少し驚いた様子で首輪をはめた。


「悔いはありません……。」


「えっ、なに?」


「フフフッ。秘密です。本当にありがとうございました。それでは私は失礼します。」


そういうとペンペンは、始まりの森を出るのであった。


『スキル【恩返し】を発動しました。

恩返しの効果によりスキル【光魔法】を獲得しました。』


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(ペンペンside)


 暴走する前に行かなければ…。暴走するぐらいなら死ぬ場所を選びたい。


〜寒冷の森〜

私が少女と出会った場所にたどり着いた。あとは死ぬだけだ。私は氷の刃を魔法で作り上げる。


ガサッ。ガサッ。


 こんな時に足音?……一体誰だ!私が振り返ると一人のお婆ちゃんがいた。  


「えっ。あっ。」


  誰だか直ぐにわかった。随分と老けたな。少女よ…


「ペンペン。その首輪には居場所特定できる魔法がかかっているのさ。今の私には森を探し回る事なんてできないからねぇ。さぁ。約束を果たそう。死ぬまで一緒にいてくれるかい?」


 暴走を抑える事ができる唯一の方法テイム。お婆ちゃんが魔法陣を組み上げる。


「テイム!ペンペン!!!」

辺りが光で包まれるのであった。


>>>>>>>>>>>>>>>>

「いや〜困ったもんですぜ旦那。」


ペンペンキャラ変わりすぎじゃないか?


「あのババァ150歳まで生きるとか言ってますぜ。旦那をパシリにさせた癖に、最低っすね!」


ペンペンは、お婆ちゃんと一緒に暮らすことになり、少しずつお婆ちゃんの言ってる事を理解できる様になっていた。


「旦那!旦那!旦那!旦那!」


「あーーもううるさい!帰れぇ!!」

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