第4話 [古井戸]

 おいらは村の中を探索していた。村の人の悩み事を聞く為にプラプラと街を歩く。


「おい。きいたか?誰もいない古井戸から声が聞こえるらしいぜ」


「本当かよ?」


「キュピ〜キュピ〜って。古井戸に落とされた人の幽霊だってウワサだ。」


「おいやめろよ。俺が幽霊苦手なの知ってるだろ?」


「わりぃわりぃ」


男たちの話し声が聞こえた。これだ!おいらがその古井戸の謎を解明して感謝してもらおう!おいらは村の外れにある古井戸に向かう。


 古井戸に着いたおいらは辺りを探索する。雑草が沢山生えており最近使われた様子がなかった。井戸の水は枯れており利用する人が居なくなったのが原因だ。


 あとは古井戸の中だな。おいらは壁に爪を引っかけて古井戸を下る。足場が崩れやすくなっており一歩一歩安全を確認しながらゆっくりと下っていくと、奥からキュピ〜キュピ〜と鳴き声がする。


 幽霊?おいらは信じないぞ…怖くなんかないんだからな。冷や汗をかきながら地面に着いた。


「キュピ〜キュピ〜。」


 おいらの後ろから声が聞こえる。戦闘がいつでも出来るように準備をして後ろを振り向いた。


「僕は悪いスライムじゃ無いよ!」


 青い体。丸っこい見た目。スライムだ!おいらは戦闘態勢を解除してスライムに話しかけた。


「こんな所で何してるの?」


 おいらの言葉を理解したスライムがびっくりしていた。驚くスライムはピョンピョンと跳ね上がり体を壁に何度もぶつけていた。


「痛い……夢じゃ無い。言葉が通じる。」


 そりゃ通じるさ。おいらには【モンスター言語翻訳】のスキルがあるからな!効果は、王道で知能あるものとお喋りが出来ると言うものだ!


 モンスターとは種族ごとに別々の言語を話す。スライムだったらスライム語、ゴブリンだったらゴブゴブ語。職業【リス】に与えられるスキルの一つだ!


 残念な事に、このスキルはモンスター専用で人間には効果が無いんだけど……。


「僕はスライムのスムスム!喉が乾いて水を飲もうとしたら落っこちゃった。」


「幽霊が出るって聞いて調べに来たんだ。」


「幽霊?そんなの見た事ない。」


「情報ありがとう。」


 どうやらここには幽霊は居ないらしい。おいらは壁を登ろうとするとスムスムが声をかけた。


「僕も一緒に外に連れてって。」


「もしかして、自分で外に出れないのか?」


「うん。僕スライムだから引っかかる手足がなくて登れないんだ。だから必死に助けを求めて鳴いてたの。」


「ん?どんな感じで?」


「キュピ〜キュピ〜って。」


 幽霊の犯人お前かよ!助けを求めた声が、人間たちには幽霊に聞こえた訳だな。さて、どうやって助け出すか。おいらの方が小さいし持ち上げる力も無いぞ。


「そんな小さいリスさんじゃ無理だって分かってるのに、ごめんね。気にしないで帰っていいよ。他の人が来るまで待つから。」


悲しそうに喋るスムスム。おいらこのスライム助けたい。でもおいら一人で持ち上げられないし……そうだ!一人じゃなければ良いんだ!


「スムスムさん。井戸の丘の中に入って待ってて貰える?」


「何かいい案思いついたの?!わかった。待ってる。」


おいらは古井戸を駆け上がる。待ってろ、スムスム今助けてあげるからね。古井戸を出たおいらはチョコレートを探す。家に戻るが誰も居なかった。


 どこだ。どこにいる?ここか?


 おいらは布団の中を探すが見当たらない。チョコレート出て来てくれ〜。


カランカラン。


 ドアが開く音がした。おいらは急いで玄関に向かう。玄関に現れた少女。チョコレートだ!


「お出迎えしてくれたの?ありがとう!ただいまポン太。」


おかえりチョコレート。って今はそんな事どうでも良い。おいらはチョコレートのスカートの裾を引っ張った。


「ポン太、お出かけしたいの?」


「チュ!」


おいらは短く鳴いて、急いで古井戸に向かう。そんなに急がなくてもスムスムは怒らないと思うが、一人で暗闇で待たされるなんて、おいらなら心細くて死んじゃう。スムスムも本当は不安で堪らないのだろう。おいらが古井戸を出る時にチラリと、震えているのがわかった。


「ポン太どうしたの?そんなに急いで」


 チョコレートが走りながら着いて来てくれる。後でお礼しなきゃな。村を駆け抜け、おいら達は古井戸に着いた。


「古井戸?」


 おいらは桶の紐を引っ張るジェスチャーをする。


「あっ!桶の紐を引っ張って欲しいのね!」


やった!一発で伝わった。チョコレートが古井戸の紐を引っ張った。


「あれ、少し重いわね。なんか居るのかな?」


 カラカラと音を立てながら紐を引っ張るチョコレートにおいらは応援を贈る。しばらく経つと桶が地上へ姿を表した。


 中からスムスムがピョーンと飛び出した。スムスムがピョンピョンと辺りを跳ね回る。


「スライム?」


 スムスムがおいら達に近づいた。


「助けてくれてありがとう!これで群れに帰れるよ。」


「おいらだけじゃない。チョコレートのおかげだよ。」


「チョコレート?あっ!?そこのお嬢ちゃんだね。ありがとう。」


スムスムが頭を下げる。チョコレートは何が起こっているのよくわからず、頭の上にハテナマークが現れていた。


「僕はもう行くね。リスさんありがと。もし良かったらコレ。井戸の中で拾ったの。」


 スムスムは自信の身体から花柄の髪飾りをおいらに渡した。宝石が埋め込まれていて凄い高そうだ。


「ありがとう。気をつけて帰れよ。」


「うん、またね〜」


 スムスムは、村の外の森へ姿を消した。チョコレートが不思議そうな目でおいらを見ている。そしておいらを持ち上げて人差し指でおいらを撫でた。


「ポン太は、優しいんだね。」


 おいらはチョコレートの肩に乗って家に帰るのであった。



『スキル【恩返し】を発動しました。

恩返しの効果によりスキル【抽出】を獲得しました。』


【抽出】草や木などからエネルギーを抜き出すことができる。


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 家に帰りご飯食べみんなが寝静まった夜。おいらはそっとチョコレートの枕元に髪飾りを置いた。


「助けてくれてありがとう。」


 おいらは自分の用意されたベッドに戻るのであった。

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