第3話:酒に合わせて
私は次なるターゲットを見る。
そう彼、友広(仮名)は日本酒をこよなく愛する。
ともなれば脂っこいものなどはそろそろ限界だろう。
日本酒と言えば和食が合うのだが……
「冷蔵庫の中身が乏しい……」
冷蔵庫の中身を見て思わずうなってしまう。
しかし奴はこの中で一二を争う酒豪。
こいつの飲むペースを何とか速めなければならない。
「うーんどうしたものかな…… ん?」
そう言えば割引セールの買い物袋をまだ開けていなかった。
冷蔵庫の横に置きっぱなしのそれを冷蔵庫に入れながら食材を再確認するとネギトロがあった。
私は思わずそれを掴み、冷蔵庫から他の食材を引っ張り出す。
まずはネギトロを小鉢に入れる。
そして冷蔵庫から引っ張り出した納豆にチューブニンニク、少量のごま油と醤油を混ぜたものを添える。
そして実家からもらって来た山芋を少量すりおろしその上にかける。
テイクアウト時に多めにもらってきていた生わさびを最後にその上に載せて完成。
「よっし、『パワーマグロ』の出来上がりっと!」
私は次なるつまみを奴等の前、特に友広の前に置く。
「ふむ、この私を試そうと言うのか? これはただの山かけでは無いな?」
「流石だ、見ただけでその違いに気付くか? だがこの味の謎に迫れるかな?」
「いいだろう!」
がっ!
友広はそれに箸をつけ口に運ぶ。
そしてカッと目を見開く。
「なんだと!? これはネギトロ!! しかもそこへ山かけだけでは無く納豆が入っているとは!?」
言いながらおちょこでくいくいと日本酒を口に運ぶ。
だが奴はまだその味の真価に気付いていない。
「むっ!? この風味豊かな味わい、わさびの辛味の中に溶け込むこれは…… これはニンニクか!?」
「raison (正解)だ。しかし謎はそれだけではないぞ?」
「なんだと!? この私にまだ分からぬ謎があると言うのか!?」
くいくいとおちょこで日本酒を口に運ぶスピードが上がる。
それは奴、友広が焦っている証拠。
「ふははははぁ! 貴様は既に私の術中にはまっている! 分からぬだろう、この隠し味が!!」
「ぬぅうううぅぅ、この謎さえ解き明かせれば勝てると言うのに!!」
とんっ!
私はおちょこより大きめのコップを置く。
そして奴のおちょこを奪い取り一気にあおる。
日本酒もたまには旨いものだ。
「お、教えてくれ! 一体何がここまで豊かな風味にしているのだ!?」
「では教えよう、貴様は最初の『ビール加速ザーサイ』に含まれるごま油により味覚が鈍っているのだ。しかも日本酒は油を流し込むには不向き! 故に納豆に含まれたわずかなごま油の味に気づかなかったのだ!!」
ずぎゃぁーん!!
びしっと指をさし種明かしをすると友広は震える手でコップに日本酒を注ぐ。
そしてそれを一気にあおり干す。
だんっ!
「おのれ、図ったな!! 最初のごま油はこれが狙いだったか!!」
「ふっ、まだまだこの私には届かない、你再来吧 (出直して来い)」
悔しがる友広を背に私は次なるつまみの作成に入るのだった。
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