04-01 『なんでもない日常③』 Side:Ivy
「お待たせ致しました」
店員さんが大きなお皿と、コーヒーの入ったマグカップを机の上に置く。
大きなお皿には、メニューの通り、チーズケーキ、バニラアイスクリーム、そして生クリームがたっぷりと乗ったいちごパンケーキが乗っていた。
美味しそうだ。
折角なのでパシャパシャとカメラで写真を撮る。
どれから食べようかな。
フォークを握ってワクワクしていると、机を挟んでフリーズしたジキルが見えた。
「あれ、哉太さん甘い物嫌いでしたっけ?」
今度は私がニヤニヤしながら彼を見つめる。
「逆だよ。美味しそうでウズウズしてただけ」
ふわふわとしたパンケーキにジキルがナイフを刺す。
「あっ、ちょっと私のパンケーキ!」
私も慌てて少しでも多くパンケーキを得ようとフォークを刺す。
ほわぁっと、甘い香りが辺りに漂った。
「……?」
ふと、フォークが何かに当たった気がして眉を潜める。
パンケーキをゆっくりと端に寄せると、お皿の底に白い紙が被せられていた。
「何だそれ?」
ジキルが身を乗り出してお皿を覗く。
紙を引っ張り出そうとしたが、パンケーキの重さで動かない。
「とりあえず、食べてから見てみよ」
「おう」
パンケーキを口の中に突っ込む。
普段なら思いっきり楽しめるスイーツ類だが、今は緊張のせいで七割といったところだろうか。
いずれにせよ、美味しい事には変わりないが。
「そんな緊張すんなって。めちゃくちゃ顔に出てるぞ」
「え、嘘」
「ま、嘘だけどな」
コイツ……いつまで私をからかうつもりだ。
何か言い返そうとするが、パンケーキが喉の奥に詰まって咳き込む。
慌ててメロンソーダに手を伸ばす。
炭酸が口の中でパチパチと弾けた。
ふと、ジキルが隣で笑った。
「何?」
「お前の表情、本当コロコロ変わるなって思って」
「それでさっきからからかってた訳?」
「……まぁ、その……すまん」
申し訳無さそうにジキルがそっぽを向く。
しゅんとしたその横顔が昔飼っていた犬に似ている気がして、今度は私が笑う番だった。
「何だよ?」
「哉太、私が昔飼ってた犬に似てる」
「あぁ?誰が犬だ」
「ま、嘘だけど」
私の言葉にジキルはプク―ッと頬を膨らませた。
その姿がどこか可愛らしく見えて、少しだけ、私をからかうジキルの気持ちが分かったような気になる。
「……ちゃんと、笑うようになったな」
「え?」
彼の声に顔を上げたが、視界に入ったのは黙々とパンケーキを頬張るジキルだった。
私が怪訝な目で見つめると、ジキルは「どうした?」とでも言うように見つめ返してきた。
「……いや、別になんでもない」
気のせいだったのかもしれない。そう思って、私は食事に戻った。
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