03-01 『里帰り④』 Side:Asuka
彼の話を聞き終わった後、僕はあまりの複雑さに頭を抱えた。
「……えーっと、つまり、師匠と貴方は、別の人格っていう事ですか?」
「んー、まぁそんな感じと思ってくれて構わないよ」
「……」
「どうかした?」
「人格が変わっただけでそんなに変わるものなんですか……?」
さっき蹴った時は明らかに脚力も上がってたし、という部分は、聞こえないように口の中でモゴモゴと呟く。
「あぁ、ヴァイス……君の言う、師匠は、まだ完全じゃないからね。自分自身のコントロールが上手く出来ないんだよ」
そのかわり、と彼はもったいぶるように溜めてから、右手を口に当てて内緒話をするように囁いた。
「彼女が本気を出した時は、僕よりも強いかもね」
(えっ、強いって……、さっきの蹴りよりもって事?)
……もう一生師匠を怒らせないようにしよう。
そう僕は密かに誓った。
「つ、着きました…!」
男がビクビクしながら僕たちを振り返る。
彼が指を指した先は、暗い廃ビルの中だった。
「さ、行こうか」
カツカツと彼の靴音が響く。僕も後ろに付いて行くと、廃ビルの壁はカラフルなスプレーの落書きで埋め尽くされていた。
タバコの匂いが鼻をつく。
(こんな所、普段だったら絶対来ないよ……)
そんな光景にも物怖じせず彼は足を進める。
「あぁ?なんだお前ら?」
大柄な男が、暗闇の中から出てきた。
破れた服から覗く右肩には入れ墨がしてある。
眉をひそめて、いかにも不機嫌そうだ。
そんな事気にしないとでも言う様に、彼は物怖じせず笑顔を振りまく。
「こんにちは!僕、見学に来たんだけど、君たちの秘密基地を見せてもらっても良いかな?」
「見学だと……?」
アッハッハ、と腹を抱えて入れ墨の男は笑った。
「いいかい僕、ここは僕みたいなガキが来るような場所じゃねぇぜ。さ、分かったらとっととお家に帰りな」
「あれ?おかしいな……?僕、商店街の人達から、ここは安全だから見学に行っても大丈夫だよ、って聞いたんだけど」
妙にかわいこぶって彼は首をかしげる。
……いつもの師匠とのギャップでそろそろ胸焼けしそうだ。
「商店街だと?…さてはお前、山茶花の差し金だな!?」
商店街というワードがでた途端、入れ墨の男の眉がつり上がった。
先程の不機嫌そうな顔とは違って、今度は本気で怒っているようだ。
「んー?僕は彼の差し金になんてなったつもりは無いんだけど……、」
(山茶花って、どこかで聞いたような…?)
「お前ら!こいつをとっ捕まえろ!死二神から報酬が出るぞ!」
入れ墨の男が叫んだ途端、周りから彼の仲間が現れ、彼に殴りかかった。
十数人といったところだろうか。先程よりも確実に多い。
「師匠!」
危ない……!と叫ぶ僕の声が彼の耳に届くよりも早く、決着は着いた。
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