03-01 『里帰り⑤』 Side:Asuka
「ん……」
眠たそうに目をこすって、まるでベットで眠っていたかの様に、ゆっくりと師匠が上半身を起こす。
「師匠!良かった、やっと起きた……突然倒れたからビックリしましたよ」
とりあえず、起きたのが先程のやんちゃな彼では無かった事にホッと胸を撫で下ろす。
「これは……」
記憶が無いのだろう、師匠は周りの光景を眺めてぎょっとした。
はぁ、とため息をついて頭を抱える。
「……シュヴァルツの仕業か。迷惑をかけたな」
「あ、あの子、シュヴァルツっていうんですか?」
「別に私が名付けた訳でも無いんだが、いつもハーゼとして活動している私が
「なるほど」
僕が感心していると、さて、と呟きながら師匠が立ち上がった。
「こんな所で話し込んでないで、早く事務所に戻ろう」
「結局の所、あの廃ビルにいた人達は誰だったんですか?」
今度こそ本当の帰り道(だと願いたい)の途中で、僕は師匠に尋ねた。
空は既に橙色に色づき始めていて、遠くからはカラスの鳴き声がカァカァと聞こえる。
僕が持っていた箱は商店街の人達に頼んで、台車に乗せてもらった。
担がなくて良いだけでも、随分と楽だ。
「あぁ、実は先日、山茶花珈琲店の店主に、ジキルとハイドの調査協力を頼んでおいたんだが……」
「えっ、そうだったんですか?」
「おや、君には伝えてなかったか?……まぁいい、それで、店主から交換条件を出されてな」
「それが、さっきの人達…ですか?」
「そうだ」
前を歩いていた師匠がコクリと頷いて、ふと歩みを止めた。
「彼らは、最近商店街に現れては、万引きや強盗を繰り返していたらしい。そんな事しても、何の得にもならないっていうのに、……頭の悪い奴らだ」
師匠の右手がギュッと固く握りしめられる。余程悔しかったのだろう、噛み締められた唇からは血が出そうな勢いだ。
これ程までに感情を剥き出しにした師匠を、僕は初めて見た。
「事情は分かりましたけど、どうして珈琲店の店主がそんな問題を請け負っているんですか?」
「あの店は私の出身地だからな。商店街の人達は頼めば何でも解決してくれると思っているんだろう。それに、珈琲店という場所は、情報収集に最適だからな」
ふむふむ、と僕は相槌をうつ。表向きは珈琲店、裏向きは商店街の何でも屋、といった所なのだろう。
……ちょっとカッコいいな。
そこまで思ってから、遥か上空に飛ぶカラスが視界に入る。
僕はふと先程の光景を思い出した。
「……そういえば彼ら、殴りかかってくる前に『シニガミから報酬が出るぞ』とか何とか言ってましたよ」
どういう意味だったんでしょうね、と冗談混じりに師匠の方を向くと、驚いた顔で見つめ返された。
少しおいて、今度は真面目な顔で考え込む。
本当に、表情がコロコロと変わる人だ。
「死二神?……そうか、また調査ノートに書く事が増えたな」
「ですね」
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