01-03 『お守り②』  Side:Ivy

 「よっと」


階段を使い、上がりきった先にある屋上に腰掛ける。


屋上と言っても、塀で囲まれただけの小さなスペースだが。


それでも、地下室よりかは随分と眺めが良い。


丁度日の出の時間らしい、上を見上げると、東の方で赤く色づき始めた空が新しい日の始まりを告げていた。

綺麗な景色につられるようにして、自然と私の思考ももう数ヶ月間と会っていない家族へと移る。


(お兄ちゃん、元気にしてるかな……)


私の周りでたった一人、私の努力を認めてくれた人。

数年前、私にコンピューターを教えてくれたのも、お兄ちゃんだった。


……今は、連絡がつかないけど。


彼も、私が行方不明になった事を知っているのだろうか。

もしも知っていたとしたら、どう思っているのだろうか。


 「よっ」

 「うわぁ!?」


突然後ろから声をかけられ、背筋が凍る。悪いことをしている所を親に見られたような、そんな恥ずかしさが胸を覆う。


 「悪い悪い、驚かせたな。」

 「あ……ハイド。おはよう。もしかして起こしちゃった?」

 「おはよう。いや、丁度起きたらお前が外に出る所が見えてな。」


いつも通りの会話を交わしながら、背後に居たのがジキルではなかった事に安堵する。

間違えてもジキルにこんな姿は見られたくない。


 「ところで、お前はこんな朝っぱらから屋上で悩み事か?」

 「うん……ちょっとね」


俯いた私の顔を覗き込んで、ハイドは真面目な顔で頷いた。


 「俺に相談してみないか?」


確かに、いつまでも一人で悩んでいても解決するとは限らない。

悩みを聞いてもらうのなら、ハイドの方がジキルよりも良さそうだ。

あくまでもイメージだが。


それに、彼らは私を信頼してくれている。

悩みを聞いてもらう事で、私もその信頼を返す事にはならないだろうか。


 「じゃあ、聞いてくれる?」

 「おう」


ハイドが頷くのを見てから、空を仰いで、私は話し始めた。

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