01-03 『お守り①』  Side:Ivy

 「貴方は、貴方だけは、お兄ちゃんみたいにならないようにしなさい」


うるさい。私がどう生きるかは、自分で決めるんだ。


 「もうあんな子と関わるのは止めなさい。悪影響だわ」


どうして私が指図されなきゃいけない。友達を作る権利さえ私には無いのか。


 「もっとお母さんの言う事をちゃんと聞きなさい。……ね、分かるでしょ、白愛ちゃん?」


嫌だ、私はお母さんの着せ替え人形じゃない。


何かを言おうとして開いた口に自分の意思など無く、ただ「はい」とお手本通りの答えが流れる。

心に強烈な違和感を残したまま、自分が自分じゃなくなっていく。



「……!」


ゲーミングチェアの上で目を覚まして、少しホッとする。

視界に入ったのは束縛されてばかりだった自分の部屋ではなく、付けっぱなしのパソコンのスクリーンだった。


画面には今日のニュースが所狭しと並べられている。

特に何か情報が欲しい訳でも無いが、暇つぶしにと私はマウスを取って画面をスクロールし始めた。


 『グラフィア市市長、独占インタビュー』

 『海岸公園にて少女が溺れる、記憶喪失か』

 『××社と×××社が記者会見』


ふと、画面に現れたヘッドラインに息が止まる。


 『行方不明の少女 今日で三ヶ月』


タイトルの隣に置かれているのは数年前の私の写真。お花畑の横で、不器用に笑っている。

こうやって自分の写真を見るのも、変な事だが、慣れつつある。


記事の文章は……今更読む程の物でも無いだろう。


(……一旦外の空気を吸いに行くか)


椅子から立ち上がって大きく伸びをする。


数時間ぶりに動いたせいか、バキバキと体中の関節が音を立てる。


エレベーターが一階に着く。


ドアが開くと、グゴーッと大きな寝息を立てながら寝ているジキルと、その傍らで静かに眠っているハイドが目に入った。

ジキルの寝相は布団からはみ出て、ハイドの顔に殴り掛かりそうな勢いだ。

対して、ハイドの寝相は寝た時の体勢のままだ。逆に動かなさすぎて、本当に寝ているのか不安になってくる。


二人の寝相が予想通りすぎて、少しだけ元気を貰いながら、私は外へのドアをくぐった。

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