01-02 『何でも屋②』  Side:―――

「先ずは、貴方の依頼を今一度確認させて頂いても?」


「は、はい。私は、タレント事務所であるミナモ社でマネージャーとして働く者です。

 ミナモ社では、とにかく上からの圧力が酷くて。どんな風に、という話は今は割愛させていただきますが、私の同僚も、殆どストレスから退職してしまいました。

 そこで、社内を少しでも変えられたらと、訴訟を起こす事にしたのです」


「随分と強引な手段に出たな。」


ソファーの脇に寄りかかっていたジキルさんが言った。双子なのだろうか、ハイドさんと顔立ちがそっくりだ。


「はい。知り合いに弁護士が居たというのもあるのですが、訴訟を起こせば一番手っ取り早く変化を起こせて、そして世間にも知らしめる事が出来るので。」


「それで、証拠品を集める為に俺達に依頼した、と。」


「そうです。」


緊張でパサパサになった喉を、紅茶で潤す。

鼻の奥に良い香りが広がる。なんて名前のお茶だろう。ゆっくり味わってから、私はカップを机の上にそっと戻した。


「…しかし、証拠が欲しかったのなら、社員の中からでも見つけられる筈です。どうして、社長のスキャンダルの証拠品に限定したんですか?」


「それは、例え勝訴したとしても、上の人間ごと変わらないと社内の状況もまた逆戻りしてしまう可能性があると思ったからです。社長には元々黒い噂もあった事ですし、ここで……」


自分の思いを上手く表現する方法が見つからず、言葉に詰まる。


「ここで?」


「…」


私の様子を見て、ジキルさんがフンと鼻で笑った。


「表舞台から退場していただこう、ってか。お前もその社長と同じような思考回路してんじゃねーかよ?」


「それは……」


「お前は上の人間ごと変わらなきゃダメ、と言ったな?だが、悪者だって人間だ、養わなきゃいけない家族がいる。

 お前は、退職させられた後の奴らの事は少しでも考えたのか?」


「……」


「おい、ジキル」


ハイドさんがジキルさんを呼び止める。彼は渋々といった感じで私から遠ざかった。


だが、彼から指摘されて気がついた。


「いえ、仰る通りです。」


私も少し、怒りに身を任せすぎていたのかもしれない。


「私ももう少し、冷静に考えるべきでした。」


深々と頭を下げて謝罪する。やっぱり、自分の問題は自分一人で解決しなければいけない。そう自分に告げて、その場を去ろうとする。


最初から覚悟していた事だ。


「おっと。」


ドアの間近で、ハイドさんが外に出ようとした私を阻んだ。


「どこに行くおつもりですか?」

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