第16話 三年振りのカティの村

 三年振りのカティの村だった。

「・・・」

 そこで見た光景は、以前私が滞在していた時の村とはまったく別の村のような、変わり果てた村の姿だった。

 あの謙虚で素朴だったカティの両親までがド派手な服に身を包み、キンキラのネックレスに腕時計、指輪をぎらつかせていた。ニカッと笑った歯には金歯まで光っている。

「てめえらぁぁ」

 私は怒りに震える声でうなった。私の姿を見とめると、カティの両親は慌てて逃げ出した。

「まてぇ~」

 私は追いかけた。

 散々追い掛け回して村はずれの麦畑の畝で、カティの両親を捕まえると、それぞれに往復ビンタをたらふくくらわせた。

「私がどんな思いでその金稼いだと思ってんだ」

「すみません、すみません」 

 謝る両親に、有無を言わさずさらに往復ビンタをくらわせ、一蹴りした後、顔を上げると、以前よりもさらにド派手に着飾ったカティがいた。

「あっ」

 私と目が合うと、カティは逃げ出した。

「まてっ」

 私は追いかけた。

「ぎゃああ」

 すぐに追いついた私は、そのパーマのかかった品のない茶色く染めたカティの髪を掴むと、そのまま引きづり回し、その勢いで肥え溜めにたたき落とした。

「ぎゃあああ」

 肥溜めに沈んでいく、カティの断末魔の叫び声が、村に響き渡る。

 そこで振り返るとティマがいた。ティマも頭を安っぽく金色に染め、金のピアスなんぞをつけている。

「てぇめぇええ」

 ティマも私と目が合うと即、逃げ出した。私は獲物を狩る獣のように冷徹に追いかけた。そして直ぐに追いつくと、必死で走るティマの背中にドロップキックをかまし、そのまま倒れたティマの背中に馬乗りになって、キャメルクラッチを決めた。

「うっ、ううう、ご、ごめんだざい・・」

 背を反らし、苦しそうにティマがあやまるが、私は容赦しなかった。

「そんなんで、許すかコラッ」

 私はさらに首を持つ手に力を込める。

 よく見ると、村中の人間全員がド派手な服にキンキラの装飾品を身に付けている。ヴィトンのバックを持つ奴や、エルメスのサングラスをかけてる奴までいる。以前は徒歩で何百キロ先まで歩いて行った人たちが、今や車やバイクまで持ち、すぐの隣り近所にそれで行く。ほぼ自給自足だった村の生活だったのに、そこら中に、食い散らかしたスナック菓子の袋やらペットボトルの空きボトルが散乱している。昼間から酒を飲みぶっ倒れている奴までいる。

「てめえらぁ」

 私は近くの家の壁に立てかけてあった農作業に使う三メートルほどもある丸太を掴み、思いっきり振り回しながら、村人全員を追いかけ回した。

「きゃああ」

 村人が叫ぶ。

「待てこらぁ~」

 私も叫ぶ。

「きゃあああ、ごめんなさ~い」

「許すかこらぁ~」

「きゃ~」

「ぎゃああああ」

「すいません、すいません」

 阿鼻叫喚響き渡らせ、村人たちは、鬼の形相で丸太を振り回す私から逃げまどった。

「オラぁああああ」

 私はそれを容赦なく執拗に追い掛け回し、順番にぶちのめしていった。

 

 他の村人全員を散々ぶちのめした後、村人全員を村の広場に集め、正座させ並べた。

「どいつもこいつも」

 私が腰に手を当て睨み渡すと、誰も罰が悪そうに下を向いた。

「甘えてんじゃねぇ」

 私が怒鳴ると、カティの家族や親せき、村人たちがびくっと姿勢を正し、頭を落とした。そして、私をおずおずと下からのぞき見る。

「お前ら農作業はどうした」

 田畑は荒れ放題荒れまくっていた。私の送金したお金におんぶに抱っこで、たかりにたかり、贅沢三昧暮らしていたのだろう。

「お前らぁ~」

 私がうなると、全員、私の目も見ることも出来ず、下を見る。

「・・・」

 そして、全員誰も何も言えない。

「今日から私が村長だ」

 黙っている村人に、上から叩きつけるように私は言った。

「えっ?」

 顔を伏せていた村人全員が顔を上げ、驚いた顔で私を見る。

「村長は今日から私だ。いいな」

「・・・」

 村人全員の目が点になる。

「いいな!」

「は、はい」

 村人全員は慌ててひれ伏す。

「私はコメが食いたい」

「えっ?」

 再び村人全員が顔を上げ私を見る。

「私は上手い米が食いたい」

「は、はい?」

 村人全員が驚いて私を見る。この地域では、雨が少なく、米の栽培は無理だった。大麦を栽培するのが精いっぱいだった。

「川から水を引く」

「えっ?」

 さらに村人全員が目をむき出して驚く。

「いいな!」

「は、はい」 

 しかし、私は有無を言わせなかった。

 次の日から、灌漑用水路の建設に村人総出で取り掛かった。

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