第14話 借金返済

 借金を支払うその日、私は少しドキドキしながら、銀行の窓口に立った。

「あの・・」

 私は通帳を差し出す。

「少々お待ちください」

 私が説明すると、窓口の若い女性は、奥へと消えた。

「これで借金問題が終わる・・」

 これで終わる。私は今までの苦しかった日々を振り返り、深い感慨をもった。長かった。とてつもなく長った。そして苦しかった。お金のない苦しみは経験した者でないと分からない。

「あの、申し訳ありませんが・・」

 窓口の女性が戻ってきた。そして、窓口の女性が、顔を曇らせて私を見る。

「残高が・・」

「はい?」

 通帳を私に見せる。開いたところを見ると、残高がゼロになっている。

「なんで、ないんですか・・」

 私には何が何やら訳が分からなかった。

「はい、あの、全額引き出されております・・」

「はい?」

 訳が分からなかった。

「・・・」

 何度見ても、確かにあるはずの三億円が消えている。

「どういうこと・・」

 何度見ても、通帳に書かれている数字は0だった。1円残らず消えている。

「・・・」

 どうなっているの?・・。訳が分からなかった。

「いったい・・」

 何が起こっているの・・。私は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。


 家に帰って私は茫然としていた。

「愛美」

「何?」

 そこにおやじがやって来た。

「愛美、今夜の晩飯はなんだ?」

 おやじが呑気に私に訊ねる。私はそれどころではなかった。

「ん?」

 ふと見るとおやじがなぜか銀行のカードを持っている。私はそれをひったくるようにして奪った。そして、それをマジマジと見る。

「・・・」

 何度見ても、繰り返し見ても、それは私の銀行のカードだった。

「これどうしたの」

「ああ、ちょっと借りたわ」

「借りたわって・・」

「もしかしてお金下ろした?」

「ああ、下ろしたよ」

「暗証番号は?なんで分かったの?」

「ふっふっふっ、お父ちゃんに分からないことがあるものか」

 おやじは得意げに私を見る。

「もしかして・・」

「そう、お父ちゃんはちゃんと覚えているぞ」

「うううっ」

 私は自分の誕生日を暗証番号にしていた。

「うかつだった・・」

 銀行の人などに誕生日などは暗証番号にしないでくださいと、再三再四言われていたのに・・。

「一発で当てたぞ」

「うううっ、一発で当てられたのか。なんて軽率なんだ。私・・」

 死ぬほど後悔したが後の祭りだった。

「あの・・、お金どうしちゃったの?」

 私は恐る恐る訊いた。

「使った」

「使った!」

 私は天地がひっくり返ったような気がして、気絶するかと思った。

「なんに使ったの?」

 私はさらに恐る恐る訊いた。多分・・、多分あれだ。

「競馬」

 やっぱり。

「あああ」

 それを聞いた瞬間、私は崩れ落ちた。全身から力が抜け、目の前が真っ暗になった。そして、さらにその場にへなへなと崩れ落ちた。

「絶対当たるレースがあったんだ」

「しっかり、外しているだろ」

 と、ツッコむ気力もなかった。

「絶対当たるはずだったんだ」

 おやじは まだ言っている。絞め殺してやりたい衝動を感じたが今は立ち上がる気力すらがない。

「ほんとおかしいよな」

「おかしいのはお前だ」

 私は心の中で叫んだ。

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