第10話 看病
「ありがとうございます」
よりちゃんが本当にうれしそうに私にお礼を言う。
「気にすんな」
「私こういうの憧れてたんです。リンゴとか剥いてもらうの。ドラマとかであるじゃないですか」
よりちゃんは病院のベッドの上で、フォークに刺さった八分の一に切られたリンゴをうれしそうにかじる。
「ああ、そうなんだ。リンゴくらいいくらでも剥いてやるよ」
「私風邪とかひいても看病とかしてもらったことないんです。いつもほったらかしで」
「そうか、お前も苦労してんだな」
「私よくなりますよね」
よりちゃんが私を見る。
「ああ、絶対大丈夫だよ。人間そうかんたんに死にゃしねぇよ」
「私、腎臓が悪いみたいなんですよね」
「うん」
「もう、移植しかないって」
「そうなのか」
「でも、ドナーは順番待ちで・・」
「そうか・・」
「・・・」
「なんだよ。そんな目で見て」
よりちゃんはじとーっと、物欲し気に私を見つめてくる。
「腎臓って二つあるみたいなんですよね」
「ああ、そうだな」
「一つ取っても問題ないみたいなんですよね」
「まあ、生きてはいけるだろうな」
「・・・」
そして、またその大きな丸い目で、私を物欲し気に見つめてくる。
「・・・」
「・・・」
「分かったよ。いざとなったら、私の腎臓一個やるよ。だからそんな目で見るな」
「ほんとですか」
「ああ、だからそんな目で見るな」
「ありがとうございます。お姉さま」
キラキラとした目でよりちゃんは私を見る。
「やっぱりお姉さまはやさしいなぁ。だから私好きなんです」
うれしそうによりちゃんは言う。
「お姉さまはやっぱり本当にやさしいです」
「ほんと、やさし過ぎるよ私は・・」
私は自分に呆れながら、ため息交じりに呟いた。
「お前は本当に人が良いな」
マコ姐さんが呆れ顔で私を見る。
「お前の大事な彼氏寝とった女の看病までして」
「もう、なんだか、しょうがないですよ。自分でも呆れちゃいますけど」
私は自分で笑ってしまう。私たちは、いつもの居酒屋池田屋にいた。
「入院費用まで出してやってんだろ」
「はい」
「まったく、お前らしいよ」
マコ姐さんは呆れながらそこで笑った。
「なんかもう腐れ縁ですよ。もう何でも来いって感じですね」
「強いな」
「もうヤケです」
「両親はもういいのか」
「ええ、父がまだ、酒、酒、言ってますけど、母はもうだいぶ良くなりました。後は借金さえなんとかなったら・・」
「そうか・・、あたしも金はないからな・・、その相談にはのれんな」
マコ姐さんは渋い顔をして、ストレートの焼酎をすする。
「私も、もうこれ以上は・・」
これ以上はどうしようもなかった。返すあてもなくほんとに困っていた。
「自己破産はダメなのか」
「家が取られちゃうんです。母が・・」
「そうか・・」
やっぱり、私の苦しみに出口はなかった。
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