第9話 彼氏を寝とった女
「お姉さま」
街を歩ていた時だった。聞き覚えのある声に私は振り返った。
「お久しぶりです」
よりちゃんだった。
「・・・」
私は絶句してよりちゃんを見つめる。しかし、よりちゃんは、なんの悪びれた様子もなく、そんな私を見ている。
「お金貸してくれませんか」
「はい?なんであたしがあんたにお金貸さなきゃなんないのよ」
「ダメですか」
「当たり前だろ。どこに自分の彼氏寝とった女に金貸すバカがいるんだよ」
「そうですよね。そうですよね」
「っていうか、肩代わりした借金返せよ」
「そうですよね。そうですよね」
よりちゃんはしくしくと泣き始めた。
「泣いたってダメだからな」
しかし、私はこのよりちゃんの泣き方に弱かった。こういう時、よりちゃんに唯の面影がちらつく。
「そうですよね。すみませんすみません。こんな事頼めるわけないですよね」
「なんで金がいるんだよ。そんなに」
「私入院するんです」
「入院?」
「はい、私病気になってしまったんです」
「そんなの親とかなんとかに頼めよ」
「私、親も兄弟もいなくて、天涯孤独の身なんです」
「友達とかいるだろう」
「私友だちも知り合いも一人もいないんです。生まれて初めて出来た友だちがメグさんだったんです」
「その生まれて初めて出来た友だちの彼氏を寝とったのかよ」
「すみません」
「すみませんじゃねぇよ」
「そうですよね。勝手ですよね。私、彼氏寝とって自殺にまで追い込んで、それで、自分が病気になったら、それで看病してくれなんて」
「看病まで頼む気だったのか」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
よりちゃんはまたしくしくと泣き始める。
「本当に私って嫌な女ですよね。だからいつもみんなに嫌われちゃうんです」
「そら嫌われるだろ」
しかし、なんかそこまで言われると、さすがになんだかかわいそうになって来る。よりちゃんの泣き方にもどうしても、なんか弱い。それに、天涯孤独と言われると、やはりどうしても唯の面影が、親近感を持たせてしまう。
「分かったよ、いくら?」
「とりあえず三十万」
「三十万?とりあえず?」
驚く私を、また悲しげな憐みを誘う目で見つめて来る。
「分かったよ。そんな目で見るな。なんとかするよ」
「ありがとうございます」
「しょうがねえなぁ」
三億と家の借金で、三十万どころの話ではなかったが、もうなんとかするしかない。
「あの病院ここです。病室は・・」
よりちゃんは、病院の住所の書かれた紙を私に差し出した。
「もう最初から頼む気満々じゃねぇか」
私はそれをひったくるように受け取った。
「ありがとうございます」
よりちゃんは涙の溜まった輝くような目で、私を見上げた。
「そんな目で見るな」
「はい」
イラつく私に、しかし、よりちゃんはうれしそうに微笑んだ。
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