第2話 絡みつく視姦の目

「困るんだよなぁ。あっ?」

「すみません」

 机を挟んで向かい合う太った警察官の、その脂ぎったぶよぶよの顔の中央に二つ盛り上がる、重そうに見開かれた細い目が、蠢く線虫のようにいやらしく私の胸の辺りを、ジロジロと無遠慮に見つめ続ける。

「どうせお前みたいな女は、ろくな仕事してねえんだろ?あっ?」

 そう、高圧的に言いながら、脂ぎった細い目が、さらにねとねとと絡みつくように私の全身を舐めまわす。

「あの骨、お前の男だろう。あっ?」

「えっ?」

「男なんだろう?あっ?」

「は、はい・・」

「よかったか?あっ?」

「えっ?」 

 脂っこい焼きそばを食べた後みたいに、ギラギラした口元から、よだれが滲んでいた。

「良かったかって聞いてるんだよ?あっ?」

「はい?」

「あっちはよかったかって訊いてんだよ。あっ?」

「・・・」

 戸惑う私を、警官のそのねっとりとしたいやらしい目が、這うように見つめ蠢いて行く。

「お前はずべこうだ」

 そう言って口元に、ドブ川に浮かぶ正体不明の汚物のような汚い笑いを浮かべた。

「俺には分かる」

 そして、気持ちの悪い巨大なナメクジのような太い舌を出して、ギトギトの唇を舌なめずりをした。

「お前は最高のずべこうだ」

 むくんだか顔がニタニタと笑う。そう言って、視線が私の全身を舐めていく。

「・・・」

 警官のいやらしい目が、私を犯していくのが分かった。顔から首筋、胸、下半身、足と、ナメクジが這うようなねっとりとした視線が下りてゆく。その後ろで若い細目の警官がニタニタと、そんな私をやはりいやらしく見つめている。

「お前は好きもんなんだよ。そうだろ。あっ?」

「あの、それとこれと何の関係が・・?」

「関係あるだろ。あっ?」

 太った警官は突然怒声を上げた。私はビクッとなる。

「関係大ありなんだよ。お前のそのスケベな体が、根っからの好きもののそのいやらしい精神が、大問題なんだよ。あっ?たまんねぇんだよ。あっ?分かるか?あっ?たまんねぇんだよ。あっ?」

 言っていることが無茶苦茶だった。

「何回やったんだ?」

「えっ?」

「その男と一晩に何回したかって聞いてんだよ。あっ?」

「・・・」

「何回したんだ。あっ?」

 警官は怒鳴った。

「い、一回・・」

「一回?嘘つけ。このずべこうが。そんなんで満足するたまか。あっ?」

「二、二回です」

「・・・」

 警官は私を睨みつける。重厚なその目は私を犯し続けている。

「五回はしました」

「朝までか」

「えっ?」

「朝までかって聞いてんだよ。あっ?」

「は、はい」

 警官が勃起しているのが分かった。再び巨大なナメクジのような舌がにょろりと出てきて、うれしそうな笑みを浮かべたギトギトの唇をゆっくりとぬめっていく。

「胸は」

「えっ?」

「胸はいくつかって訊いてんだよ。あっ?はあはあ」

 警官の息遣いが荒くなっていく。

「・・、ええっと、八十五です・・」

「あっ?はあはあ」

「九十あります」

「何カップだ。あっ?はあはあ」

「え、Fです・・」

「ヒップは?」

「えっ?」

「お前のそのいやらしい大きなお尻はいくつかって訊いてんだよ?あっ?二度言わせんな。あっ?はあはあ」

「九十です・・」 

「うっ、ううっ」

 私が九十という、きゅうじゅうのうのところで太った警官は、突然低く呻くと、警官の目は急に力が抜けたようにトロンとした。そして、警官はしばらく放心したように、虚脱して動かなくなった。

「あ、あの・・」

「もういい」

 放心状態から目覚めると、突然、太った警官はうっとうしそうに言った。

「えっ?」

「もういい。行け」

「あの遺骨は・・」

 私は後ろの細目の警官を見た。

「あれはこちらで捨てといたよ」

「えっ?」

「また海に捨てられたら困るからね」

 そう言って、若い警察官はニタニタと笑った。

 私は慌てて交番を飛び出すと、近くのごみ集積場に走った。丁度ゴミ収集車が走り去るところだった。私は走った。必死で走った。しかし、ゴミ収集車は速度を上げ、行ってしまった。

「・・・」 

 私は力なくその後ろ姿を見つめた。


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