2
「おはよう」
マチ子ちゃんが部屋をのぞきに来た。僕はあわてて起き上がり着替えはじめる。
「あわてなくていいんだよ」
マチ子ちゃんももう女子大生か。
「昨日は遅かったんだから、無理しなくてもいいんだ」
「マチ子もいるんだし」おやじさんが笑顔で僕に言った。
ほとんど居候している立場ではそうはいかないですよ。
「普通に戻っただけでしょ」
「シン兄は何も変わってないのに」
マチ子ちゃんの言うとおりだよ。それはわかってるんだ。まわりが変わっても、僕さえ変わらなければ。
「なあシンちゃん、そろそろ忘れてもいいんじゃないかな」
そんなとき、僕のとなりでおやじさんがポツリとつぶやいた。
「マチ子とあんたがいれば俺はそれでいいんだ。あいつはまだ忘れられねえみたいだけど」
僕の部屋にロバートジョンソンが流れている。あのときのレコードだ。
「スウィート・ホーム・シカゴ」
「ダスト・マイ・ブルーム」
彼女にきかせたくて、必死でコピーしていたあの頃。
「聴かせてあげたかった」
僕のとなりでマチ子ちゃんが言った。いつの間に入ってきたのかな。
「私じゃダメなのよね」
「聴きたいの」
マチ子ちゃんが黙ってうなずく。
「弾いてあげるよ」
僕はレコードを止めて、ギターを手に取った。これで最後になるのかな。僕はそう思いながら歌っている。
「やっぱりいいよ、シン兄のブルース」
「あの人のためでも、私のためでもなく、みんなのために歌って」
「それじゃなきゃもったいない」
気がつくと僕はギターを置いてマチ子ちゃんを抱きしめている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます