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「おはよう」

 マチ子ちゃんが部屋をのぞきに来た。僕はあわてて起き上がり着替えはじめる。

「あわてなくていいんだよ」

 マチ子ちゃんももう女子大生か。

「昨日は遅かったんだから、無理しなくてもいいんだ」

「マチ子もいるんだし」おやじさんが笑顔で僕に言った。

 ほとんど居候している立場ではそうはいかないですよ。

「普通に戻っただけでしょ」

「シン兄は何も変わってないのに」

 マチ子ちゃんの言うとおりだよ。それはわかってるんだ。まわりが変わっても、僕さえ変わらなければ。

「なあシンちゃん、そろそろ忘れてもいいんじゃないかな」

 そんなとき、僕のとなりでおやじさんがポツリとつぶやいた。

「マチ子とあんたがいれば俺はそれでいいんだ。あいつはまだ忘れられねえみたいだけど」

 僕の部屋にロバートジョンソンが流れている。あのときのレコードだ。

「スウィート・ホーム・シカゴ」

「ダスト・マイ・ブルーム」

 彼女にきかせたくて、必死でコピーしていたあの頃。

「聴かせてあげたかった」

 僕のとなりでマチ子ちゃんが言った。いつの間に入ってきたのかな。

「私じゃダメなのよね」

「聴きたいの」

 マチ子ちゃんが黙ってうなずく。

「弾いてあげるよ」

 僕はレコードを止めて、ギターを手に取った。これで最後になるのかな。僕はそう思いながら歌っている。

「やっぱりいいよ、シン兄のブルース」

「あの人のためでも、私のためでもなく、みんなのために歌って」

「それじゃなきゃもったいない」

 気がつくと僕はギターを置いてマチ子ちゃんを抱きしめている。

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