スターズ

阿紋

「星にはなれなかったね」

 二階のベランダで星を見ながらマチが言った。

「でも、それでよかったと思う」

 となりで僕が答えた。

 そもそも僕は星になろうとしていたのだろうか。突然降って湧いたようにあちこちのステージに引っ張り出され、何やら雑誌などにも取り上げられて、戸惑いながらずっと過ごしていた。

「忘れたかったの」

 そうかもしれない。僕は無言でマチに答えた。

 ちょうど時代が変わっていく境界で、僕は変ることを求められた。そのままずっと歌っていきたかったのに。僕は店の仕事を手伝いながらファンキーなブルースを歌っている。ギターをエレキに持ち替えて。弾き語りではなく、バンドを従えて。

「シンちゃんのバンド、カッコいいのになあ」

 歌いはじめてからずっと応援してくれていたおやじさん。

 おばさんは僕に負い目を感じていたんだろうか。

「あの子がちゃんとしていればねえ」

 家を出て行った息子のことをいつも僕に言う。

 いいんですよ。そんなこと。何度も言ったのに。僕は置いて行かれたんじゃない。そう思いたかった。

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