三章・開拓、開墾、解放。
活動報告。
「卵持ってこいって言ったらドラゴン連れてきて、今度は迷宮でお宝持ってこいって言ったら迷宮崩壊させるってどうなってんだ。わざとか? わざとなのか?」
昼下がりの冒険者ギルド、椅子に座って困り顔でスキンヘッドの頭を撫で回す男を前に、バーンダーバが申し訳なさそうな顔で平謝りしている。
「すまない、そんなつもりはなかったんだが」
「……はぁ~。まぁいい、とにかく無事で何よりだ」
迷宮の依り代は冒険者ギルドの貴重な財源である。
本来なら、迷宮を踏破というのは冒険者ギルドとしても非常に嬉しい報告だ。
迷宮内の最深部に新たな
つまり、高額な魔力媒体が
本来なら。
「んで、セルカ。本当にもう迷宮は入れそうにないのか?」
「あぁ、完全に崩壊してる。一応、入り口も確認してきたけど跡形も無かったよ。もしも
セルカの報告に、また大きくため息をついて頭を抱える。貴重な財源が消し飛んだのは相当な痛手である。本来なら拾えるはずの物が全て埋まってしまった……
「全く、この街から一番近い迷宮が失くなるなんてな。セルカ、持ってこれた依り代を見せてくれ」
セルカが背後に置いていたリュックから中身を取り出してテーブルに並べていく。
「こんなもんかな」
並んだのは2階層から先の依り代、その端に置かれた小瓶をギルドマスターが取り上げる。
「これが、
セルカがどさくさで持ち帰っていた首の折れた小瓶を目線よりも高く掲げて角度を変えながら眺める。
「白金貨100枚は下らねぇ
「見れるとしたら、王様か勇者か、だよな? 一生に一度も見れないもん見れたと思ったらすげえよな、しかも、使う所まで見れたんだから。カッコ良かったぜ、本当に
興奮気味にセルカが捲し立てる。
「ほ~ん、愛されてんなぁ、フェイちゃんよぉ」
ギルドマスターが真剣な顔を作ってフェイを茶化す。
フェイはなんと言ったものか、顔を耳まで真っ赤にして視線を下に向けて口の中でモゴモゴと言っているが言葉にならない。
「そんなに照れんでも、見ててこっちまで恥ずかしくなる」
ギルドマスターは「がはは」っと笑いながらテーブルに並べられた依り代を手に取る。
全てをあわせて、麻袋2つ分程度の量がある。
「こりゃなんだ?」
ギルドマスターがつまみ上げたのは黒光りする石。
「それは
少しと言いつつ、リュックに入るだけの量が入っている。テーブルに載っているのは一部分だけだ。
「あの状況でよくそんな物まで持ってこれたね」
ロゼが本気で驚いた顔をしている。
「まぁ、それが俺の仕事だからな」
「ほう、流石はセルカだ。
テーブルの上の依り代を眺めて、ギルドマスターが腕を組んで考え込む。
「どうしたもんか、とはどういう事だろうか?」
バーンダーバの言葉にしばらく返事をせずに黙り込む。
「……依り代は魔法使いが加工するんだが、それぞれの特性を活かして加工するんだ。例えば」
ギルドマスターが
「これなら、数を集めて首飾りなんかにするんだが。身に付けると
「希少価値が付くのか」
ギルドマスターの言葉尻をセルカが捕まえる。
「ん、そういう事だ」
ギルドマスターは依り代を難しい顔で見つめる。
「希少価値、というのはなんだろうか?」
ギルドマスターが難しい顔のまま、目だけでバーンダーバを見る。
「希少価値、例えるなら、ここに
割れた小瓶を取り上げて、バーンダーバの視線まで上げる。
「コイツは一個しかない、金額は白金貨100枚だ。だが、これが10万個あったらどうだろうか? なんなら泉からじゃぶじゃぶ湧いてたらどうだ? 同じ白金貨100枚の価値になると思うか?」
「いや、それならもう少し安くなりそうな気がするな」
「逆もまた然り、今まで沢山あった物がこれ以上手に入らなくなるなら価値が上がる。なんとなく分かったか? それが希少価値だ。ここにある依り代はもう手に入らねぇ、だから普通よりも高い値段が付くはずだ。だが、ギルドで引き取るんなら一律の値段で引き取る事になる」
そこでまたギルドマスターは顎髭を弄くって考えるポーズになる。
「よし、お前さんにギルドお抱えの商人を紹介してやろう。そいつと一緒に魔法都市まで行ってこれ全部売ってこい、その代わり、売れたら金額の一割をここへ持ってきてくれ。それが紹介料だ」
セルカがなにかを言いたそうに眉根を寄せたが、何も言わずに黙った。
「魔法都市か、面白そうだな」
バーンダーバは他の事に気を取られている。
「決まりでいいのか?」
「もちろんだ」
「よっしゃ、明日またここへ来い。段取りをつけといてやる」
「わかった」
「話しは終わりかい? んじゃ、アタイは風呂に言ってくるよ」
返事も待たずにロゼが部屋を出ていった。
「あ、待ってくださいよロゼ。私も行きます」
フェイが挨拶もそこそこにロゼを追いかける。
「んじゃ、俺も帰ろっかな。報酬は依り代が売れたらでいーや、バン、メシでも食いに行こーぜ」
「分かった、それじゃギルドマスター、また明日」
「おう」
二人の出ていった扉を何の気なしに眺めるギルドマスター、その後ろには受付嬢のジュリーが立っている。
「ギルドマスター、迷宮が崩壊したのは上へなんて報告するんですか?」
「するわけねーだろ、知らぬ存ぜぬで通すさ、めんどくせぇ」
立ち上がり、自分の椅子へ座ると机に足を乗せていつものリラックスしたポーズになる。
「えぇ~……大問題になりますよ?」
「むしろ誰が信じるんだよ、この間だって魔族が冒険者になりましたって報告は(下らない冗談で手紙を送った始末書を送れ)って来たんだぞ。魔族が迷宮を崩壊させたなんて報告書を送ってなに言われるか、たまったもんじゃねぇよ」
「あ、なるほど。だからギルドで依り代を引き取らなかったんですね」
ジュリーが納得したように人差し指を立てた。
「そういうこった、崩壊した迷宮の依り代なんぞ引き取ったらなに言われるかわかんねぇからな。バーンダーバにゃ自分で処理して貰って、それでこっちに分け前も入るんなら願ったり叶ったりだ」
ジュリーが何度も頷いて感心したように息を漏らした。
「ずる賢いですね」
「生き汚いんだよ、俺は。さぁ、仕事に戻るぞ」
「はーい」
ジュリーが出ていき、扉が閉まるのを見るとギルドマスターは大きくため息をついた。
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