夜空の下。

「ここはどこだ?」


 バーンダーバが起き上がり、回りを見る。


 バーンダーバを囲うようにセルカとロゼが立っている。


「荒野の端、山脈の麓あたりだ」


 答えたセルカが地面に座り込んだ。


「いやぁ、今回の探索は異常に疲れたぜ」


 ため息混じりに呟く、身体は疲労感で鉛のように重い。


「アタイも疲れたよ」


 ロゼもすぐ側に座り込んだ。


「…… そうですね、あれ!? 私、腕が!?」


 失くしたはずの左手を見て閉じたり開いたりしながらフェイが目を見開いた。


「良かったな、迷宮の支配者ラビリンスマスターの落とした迷宮の遺物ラビリンスレリックがたまたま大霊薬エリクサーだったんだ。そのお陰で助かった、それがなかったら腕どころか死んでたよ」


 セルカがどさくさで拾っていた小瓶をフェイに見せる。


「そうだったんですね…… え? それじゃあ、迷宮の遺物ラビリンスレリックを使ってしまったんですか?」


「…… 当たり前だろう? 命に変えられるわけがないじゃないか」


「スゲーよな、本当に大霊薬エリクサーかどうかも分かんなかったのにノータイムで瓶割って使ってたよ。ありゃカッコ良かったぜ」


「…… すみません、迷宮の遺物ラビリンスレリックがあればバンの夢が叶ったかもしれないのに」


 また、自分が誰かの足を引っ張ってしまうのか。フェイは後ろ暗い気持ちになる。


「確かに夢は叶ったかもしれないが、とにかく、今はフェイが無事で良かった。フェイが死んでいたら、私はもう立ち直れなかったかもしれない。フェイが死んだかと思った時は本当に絶望した、今はみんなの無事を祝いたい。だからそんな悲しい顔をしないでくれ」


 バーンダーバの言葉にフェイが顔を上げる。


「フェイ、悪かったね。そもそもはアタイが余計な事を言ったせいだ」


「そんな、私が勝手に罠を起動させてしまったんですから。自業自得ですよ」


「あぁ、それに関しちゃ俺の落ち度だな。俺がしっかりトラップの場所を把握して言えてたらあんな事にはならなかった、申し訳ねぇ」


《うむ我も少々、力を過信しすぎていたな。我がついていながら不甲斐ない、フェイを死なせるところだった》


「…… ははははっ、どうしたみんな。珍しくしおらしいな、全員がいたからあそこから脱出出来たんだ。そうだろう?」


 バーンダーバが笑いながら全員の顔を見る。


「フェイがいるから私は冒険者になれた。フェイがいたから迷宮にも来れた、それなのに、フェイのせいで大霊薬エリクサーが無くなったと言うのは話しの根底がおかしくなるだろう」


 言われたフェイは"そうだろうか?"と首をかしげる。


 だが(せっかく助けて貰ったのに、自分が暗い顔をしていたら申し訳ない)そう思い笑顔を作った。


「セルカがいなければそれこそ迷宮の1階層も抜けれなかっただろう。なんなら、過ごすこともままならなかったはずだ。あの転移罠だって、離れた位置から見つけろという方が無理な話しだ」


 セルカは少し不服そうに下唇を出した。


「ロゼ、私はロゼが運び出してくれることを前提に天井に穴を開けた。ロゼがいなければ全員死んでいた、ありがとう」


 ロゼは照れ臭そうに頬をかいた。


「フェムノ、お前がいなければフェイも今頃ここにいなかったかもしれない。お前にはなんやかんやと世話になりっぱなしだな」


《なんで貴様は全員に声をかける時、いつも我が最後なんだ? 気に入らんぞ》


 良い雰囲気を当たり前のように断ち切る。


「それは、今はいいだろう」


 困ったような疲れた顔でバーンダーバが笑った。


「良い感じの雰囲気が台無しだな、さすが聖剣様だぜ」


 ゲタゲタ笑いながらセルカがごろんと横になった。


「あぁ~、疲れた。今日はもうここで寝ようぜ」


「そうだね、景色も悪くない」


 夜空に浮かぶ月は欠けたところの無い満月、他の星の煌めきを呑み込んで輝くそれを3人で横になって眺める。


「全員、無事でよかった」


 バーンダーバがボソリと漏らした。


「そうだな、見せたかったよフェイ。フェイが転移罠で消えた時のバンとロゼの慌てようをさ」


「今だから笑えるけどね、ありゃ生きた心地がしなかったよ」


「そうだな、バンがこっちの声が聞こえないくらい考え込んだ後にあっちこっちに矢を射ちまくりだした時は気でも狂ったのかと思ったよ」


《そういえば貴様、どうやってあそこの場所を特定したんだ?》


「フェムノの言葉がヒントになった、自分の魔力に臭いや色を付けて周囲を感知すると言っていただろう。あれをどうにかやってみた」


《…… よく出来たな》


「火事場の馬鹿力というやつだな、やらねばフェイが死ぬと思ったからな。夢中だったよ」


「あの、皆さん」


 寝転がったまま、全員が「ん?」っとフェイに注意を向ける。


「助けて頂いて、ありがとうございました」


「当然だ」


「当たり前じゃないか」


「ははは」


《……》


 4人は夜空を見ながらいつの間にか眠っていた。

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