迷宮に惹かれて。3
迷宮。
地底の魔石が意思を持ち、欲望にかられた人間を誘き寄せる為に自らの魔力を注いだ宝を生み出し、それを欲して入ってきた人間を喰らう迷宮という名の巨大な
意思を持った魔石の名は
迷宮と言っても最初は、
それを神が弄くり、空間をねじ曲げて膨大な亜空間を造り出した。
迷宮の深さは迷宮を創り出した
浅い物なら5階層。
深い物だと10層を越えるものもある。
その最深部には必ず
神々が迷宮を造り出して300年。
人類が迷宮を踏破したのはほんの数回。
持ち出された
装備者に仕掛けられた全ての魔術を無効化する指輪。
装備者の魔術を十数倍の威力に高める杖。
装備者は千里を見通す事が出来るようになる。
装備者に未来を見せる。
身体に魂さえ残っていればどんな傷も病気もたちどころに、完全に癒す。
どんな姿にもなることが出来る。
全てが凄まじい性能、効果を備えている。
そしてどれもが王侯貴族が欲しがる程なので、凄まじい高値で取引される。
その値段は低くても白金貨100枚は下らない。
だが、何人もの冒険者が挑んだが踏破した者は皆無と言っていい。
数少ない、迷宮を踏破したのは英雄・魔将殺しのゲルハルトを覗いては全員が時の大神の加護を受けた勇者だけ。
浅いと言える5階層でも広大なフロアに際限なく溢れるように出現する魔物。
1層につき、攻略には数時間から10数時間、中には数日かかる物もある。
1番浅い5階層の迷宮でも最深部までは3日は掛かるのだ。
レベル40を超えたパーティが幾人も挑み、誰もが道半ばで散っていった。
最下層まで到達しても、
それでも、迷宮に挑む者は後を絶たない。
踏破せずとも迷宮の魔物が落とす依り代は高い魔力を帯びており、高値で取引されるせいだ。
今日も迷宮は冒険者の命を啜る為にその口を広く開いている……
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「俺の知ってる迷宮のこぼれ話はこんなもんかな」
手元を動かしながらセルカが語る。
朝食を準備していると、バーンダーバが「なぜ迷宮を踏破すると一生遊んで暮らせるのか?」という質問の答えが今の語りである。
「
セルカからスープを受け取り、啜りながら話を聞く。
「
迷宮は勇者を鍛えるために神が用意したと聞いた、確かに、迷宮内は魔物で溢れ、魔力に満ち満ちている。
セルカは魔力濃度が濃い場所では体内の魔力を溜め込む器官が発達しやすいと言っていた。
加えて、魔物と戦闘を繰り返せば確かに戦闘の技能は格段に上がるだろう。
勇者を鍛えるための迷宮、よく考えられている。
「それだけ今回の魔王がやばかったんじゃないか? 実際問題、滅んだ国も1つ2つじゃねえしな。あ、わりぃ」
鍋から目をバーンダーバに向けると、彼の表情が凍りついていた。
「いや、謝らないでくれ。悪いのは魔族で、私だ」
「んまぁ、今はそれは置いとこう。要はそんだけ現界の種族は弱くて魔族が強ぇんだよ、だから現界の種族全体を鍛えるためにこういう場所が必要だったんだ。一歩間違えりゃ死ぬような危険な場所でもな」
「ごちそうさんセルカ、さ、お話はその辺でいいだろ? さっさと次に行こう」
ロゼがセルカにスープ皿を渡しながら立ち上がる。
「そうだな、行こう」
セルカがリュックを片付け、先頭に立って階段へ向かう。
3人が後について階段を下り始める、相変わらず、階段は不気味に光を放っている。
階段を下りていくと先の方が随分と明るくなってくる。
「どうなっているんだ?」
床が光を放っているにしても、前方がいやに明るい。
「見てのお楽しみだ」
誰に聞くでもないバーンダーバの呟きにセルカが嬉しそうに答える。
なんで嬉しそうなんだろうかという疑問は階段を下りきった所で分かった。
迷宮内部とは思えない、見渡す限りの草原が広がっている。
空には太陽が浮かび、雲まで漂っている。
「…… なんだこれは」
「すげぇだろ、神の
《ふん、階段を下りきるまで魔力感知が効かなかったのはこういう事か。中々だな》
階段は草原の中空に浮かぶ黒い渦のような場所から延びている。
黒い渦の後ろは平凡な空がある。
「ほんと、どうなってるんですかね?」
下りてきた階段を見上げ、フェイが黒い渦の回りを歩いている。
「ちょっと空を飛んでみても良いかい?」
聞いたわりに、ロゼは返事も待たずに龍に姿を変えて飛び上がっていた。
どこまでも空へ舞い上がり、小さな点になるまで上空へと登っていった。
「天井は、ないのか?」
「なんなら回りに壁もない、この草原は無限に続いてるって話だ」
《確かに、魔力感知を直線にめいいっぱい伸ばしたが終わりはなかった。相当な空間だな、小僧、どうやって出口を探すんだ?》
「バンがいるから楽勝だ、バン、魔物はどっちに多い?」
「あっちだな」
バーンダーバが迷いなく一点を指す。
「即答かよ」
《小僧、魔物の感知なら我も出来るぞ》
「張り合わなくていいですよ、フェムノ」
フェイが剣柄を指先でコツコツと叩く。
「気になっていたんだが、フェムノの魔力感知と言うのはどうやっているんだ?」
《教えて欲しければなにか面白い事でも言ってみろ》
「フェムノはすごいな」とフォローを入れようと思ったバーンダーバの気持ちをフェムノがあっさりと踏みにじる、
「フェムノ、口が悪いですよ。そうだ、貴方をこのなにもない空間に埋めてしまうのはどうですか?」
《フェイ、勘弁してくれ》
「じゃあ教えて下さいね」
フェイのフェムノの扱いがだんだんと
口には出さないが。
《ふむ、魔力に匂いや色を付けて伸ばすようなイメージだ。その魔力に触れたら、触れた物の詳細を感じ取れる》
「色や匂いか」
バーンダーバはイメージするがピンとこない。
《我は魔力の思念体だ、そも、魔力に対する造詣が生物とは違う。我が呼吸するように大気中に漂う魔力を吸い取る行為も人間には難しかろう》
「そんな事が出来るのか」
《無論だ》
ドヤァとフェムノが胸を張る、実際には張る胸はないが。
話していると、ようやっとロゼが下りてきた。
地面に脚がつかない内に紅い光と共に人の姿に戻る。
「スゴいね、かなり高く飛んだけど空の果てが無かったよ。飛んでて気持ち悪い空だった」
「気持ち悪いって?」
「何てったらいいかな、空気や風が外と一緒なようで違うんだよ」
言いずらそうに首を捻る。
「さぁ、そろそろ進もう」
セルカがバーンダーバの指差した方へと歩き出す。
バーンダーバ達はセルカの後に続いて歩き始めた。
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