パーティ結成。

「アタイはそれで構わないよ」


 ロゼが悪い顔になる。


「えぇ、ケツを蹴れキックアスですよ?」


 フェイは嫌そうな表情だ。


《我も悪くない、実際、ケツを斬ってやりたいしな》


「フェムノ、ケツを蹴れキックアスです、斬るんじゃないです。バンはどうですか?」


「私は、まぁ、別に構わないが。フェイが嫌なら別のものを考えよう」


 バーンダーバも若干だが、勇者のケツを蹴りたい気分ではある。


「えぇ~」


 なんだか、この名前に決まりそうな雰囲気にフェイがげんなりした顔になる。


「フェイ、ぶっちゃけアンタが一番蹴っ飛ばしてやりたいんじゃないのかい? いや、アンタが蹴りたいのは寝取った女か」


「もう! やめてくださいよロゼ!」


「ははは、んで。どうすんだい?」


「分かりました、それで良いですよ」


 観念したようにフェイがうつむいた。


「がははは、ひでぇ名前だが聞いたら一発で覚えるって意味じゃあ良い名前だな。ジュリー、パーティ登録もしといてやってくれ」


「はい、では、その前にロゼさん、こちらに魔力を流し込んでいただけますか」


 ジュリーが手に持っていた冒険者ライセンスをロゼに渡す。


「あいよ」


 受け取ったロゼが魔力を流し込む。


「出来たよ」


「では」


 ジュリーが受け取ったプレートを持ってきたブロンズの小鎚で叩く。


 金色の光が弾け、プレートの片面が真っ白に染まる。


 ひっくり返して裏面を見たジュリーの目が見開かれる。


 無言でプレートをギルドマスターに渡す。


「なんだよ、ん、うお…… マジか」


 プレートには


 名=ロゼ

 職=剣士

 歳=300

 種=レッドドラゴン

 Lv=90


「バンの刻印は、まぁ、魔族を測ったエラーとして。これは恐らく間違いのない数字だろう」


 ギルドマスターがプレートをロゼに渡す。


「スゴいのかい?」


「記録に残る限り、レベルが90台に載ってるのは伝説の偉人ばかりだ。ちなみに、今はレベル90を超える存在はこの世にいない。流石は闘争の龍アグレスドラゴンの第一子か」


 ギルドマスターが感嘆の息を漏らしながら、ロゼを見る。


 見た目にはエロい格好をした冒険者にしか見えない。


「ところで、パーティになったら受けられる依頼はなにかあったりするのだろうか?」


「信用が先だ、お前さんはまだ1つも依頼をこなしていないからな。信用って意味じゃゼロだ、今回の依頼も失敗だしな」


《ロゼがケチって卵をくれないからだ》


「自分の子供を"どうぞ"って出すヤツがいるわけないだろ?」


 ロゼがフェムノを睨む。


「がはは、そりゃそうか。バン、お前さんこのままずっと冒険者をやるつもりなのか?」


「ん、どういう意味だろうか?」


「魔界へ飯を送るってんなら、普通の冒険者家業じゃキツいぞ? 冒険者はとにかくもうかんねぇからな、お前さん、ライカンスロープを捕っただろう。あれでいくらになった?」


「あー、確か、3体で金貨が2枚くらいだったか」


「そうだ、ライカンスロープ3体の毛皮で金貨2枚。これをどう思う?」


「すまない、わからない」


「金貨2枚じゃ、町で暮らしてる人間ならまだしも根無し草の冒険者じゃあ1ヶ月も食っていけねぇ。なのにライカンスロープっつったら、そこそこの冒険者がパーティで命懸けで挑んでやっと狩れるような相手だ。はっきり言ってわりに合わねぇ」


 ギルドマスターは腕を組んで渋い顔になる。


「そうなのか?」


「そうなんだよ」


 ギルドマスターの言葉にバーンダーバも渋い顔になる。


《そんな話しをするということは、なにか良い話しでもあるのか? ギルドマスターよ》


「実はあるんだ」


 ギルドマスターが指を一本立てる。


《勿体付けてないでさっさと言え》


 ギルドマスターの首がガクッと下がった。


「全く口の悪い聖剣様だな、良い方法ってのはなバンさんよ、迷宮だ」


「…… 迷宮か」


 嫌な思い出しかない場所に、バーンダーバの表情が陰る。


「そんな顔するな、何もまた口の悪い聖剣持って籠ってろって言ってんじゃねえんだ。そういや、迷宮に籠ってたんだろ? 魔物が襲ってこなかったのか?」


「襲ってきた、逃げるか、基本は返り討ちにしたが」


「その時、魔物は死体を残さずに消えただろう?」


「あぁ、あれには驚いた」


 倒した魔物は魔力の残滓を残して煙のように消えた。


「神が勇者を鍛えるために造り出した迷宮の魔物は、致命傷を受けると依り代を遺して消える。その依り代が魔力を含んでるから中々の高値で取引されるんだ」


「依り代というのは?」


「例えば、小鬼ゴブリンを倒せば角やら骨やら。その魔物の一部分だ。神は勇者を効率的に強くするために、魔物を洞穴に大量に具現化したんだ。具現化した魔物なら腹が空かねぇから洞穴にうじゃうじゃいても飯に困らねぇだろう?」


 バーンダーバの表情が歪む、それではまるで魔界のようだと。


「ふ~ん、神の造った迷宮ねぇ」


 神の心象がすこぶる悪いロゼの眉間に皺が寄る。


「稼げるのは3階層くらいからだが、このパーティの戦力なら大丈夫だろう。やってみるか?」


《洞穴は我もあまり気乗りせんが、どの程度"稼げる"んだ?》


「リュックいっぱいに依り代を持って帰りゃあ、一年は間違いなく遊んで暮らせるな。それに、もしも踏破出来れば一生遊んで暮らせる」


「スゴいな」


 バーンダーバの表情が明るくなる、魔界へと食料を持っていく自分の姿が少しだけ見えた気がした。


「やってみるか?」


 聞かれたバーンダーバが少し考える。


「フェイとロゼと、フェムノはどう思う?」


《なんで我の名前が最後なんだ?》


 どうでもいい所でフェムノが口を挟む。


「アタイは構わないよ」


「私も、大丈夫です」


《我は洞穴はもう嫌だ》


「決まりだな、よし、迷宮探索に良い助っ人を紹介してやる」


《待てハゲ、決まってないぞ》


 断固、妨害の構えを見せるフェムノ。


「フェムノ、すまなかった。今度からは最初に聞くようにしよう」


《いいだろう、してギルドマスター。助っ人とはなんだ?》


「お、おう。迷宮はな、とにかく広大で難解だ。迷路のように入り組んでいるかと思えば、異常にだだっ広いフロアもある。しかもトラップのおまけ付きだ。そこを攻略するには戦闘力の他にペース配分や地図作り、食料の管理にトラップを見極める眼。そんなもんが必要になってくる」


「そんな事を全部出来る人間がいるのか?」


「少ないがな、誘導者ナビゲーターって呼ばれる連中だ。そういやお前さんは迷宮でどうやって過ごしてたんだ? 飯やらなんやらに困っただろう?」


「魔族は食事が必要無いからな、定時連絡の場所が決まっていて、それ以外の時はぶらぶら迷宮の中を歩き回ったりしていた。まぁ、結局は魔物に襲われるのが鬱陶しくて魔物のいない提示連絡用のフロアにずっといたんだが」


「そっか、食事がいらねぇのか。迷宮攻略には最高の人材だな」


「もちろん、食事があるなら食べたい」


 バーンダーバがすぐに意を唱える。


「飯の話しは置いといてだな、迷宮へ入るってことで良いのか?」


「ああ、よろしく頼む」


「んじゃ、明日の昼ぐらいに来てくれ。誘導者ナビゲーターに話をつけとこう」


「ありがとう」


 席を立ち、ギルドマスターに礼を言ってバーンダーバ達が部屋を出ていった。


 ギルドマスターは椅子にドカッと腰をおろした。


「ふぅ、まったく。紅い鱗の王ロッソケーニヒとはな、恐れ入ったぜ」


「そうですね、そういえばギルドマスター」


「なんだ?」


「今回のバンさんの"レッドドラゴンの卵採集"の依頼って、ギルドマスターの名義でしたよね?」


「それがどーした?」


「バンさん、失敗したからギルドマスターの"無敗"の二つ名。傷がついちゃいましたね」


 ……


 …………


「あ」


 言葉の意味を理解したギルドマスターの口が間抜けに開いた。


「残念でしたね」


「べ、別に気にしてねぇよ。ほら、お前も仕事に戻れ」


 しっしっと手で祓ってジュリーを部屋から追い出す。


「はいはーい、失礼しますー」


 ジュリーが部屋から出ていき、パタンと扉が閉められる。


「…… くそ」


 ギルドマスターの悲しそうな呟きを聞いた者はいない。

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