紅髪の冒険者。2
「冒険者になりたいんだけど、アンタにお願いすればいいのかい? 可愛らしいお嬢ちゃんだね」
バーンダーバがギルド内に入ると、ロゼが受付のカウンターに肘を置いてまるで酒場の酔っぱらいがウェイトレスに絡むようにジュリーに喋っていた。
「はいー、冒険者登録の方ですねー。ではー、こちらの用紙の確認と必要事項の記入をお願いしますー」
見上げるような長身のロゼに絡まれても表情を変えずにジュリーが応対している。
ジュリーに渡された用紙にサッと目を通してロゼが羽ペンを走らせる。
「はい、出来たよ。これでいいのかい?」
返された用紙を上から確認していくと、途中で視線が止まりジュリーがいつもの細い目を大きく見開いた。
「あの、この、種族は?」
羊皮紙の種族の部分に指を差す。
「あん? レッドドラゴンってちゃんと書いてあんだろ?」
ジュリーがロゼの返答に困惑していると後ろに立つバーンダーバとフェイを見る。
「バンさん、フェイさん。お知り合いですか? どういう事でしょう?」
「あー、成り行きで一緒に旅をすることになったんだ。まずかっただろうか?」
「まずいって言うのは?」
「彼女はイスラン火山のレッドドラゴンだ」
ジュリーの表情が固まる、バーンダーバ達の行っていた場所を思い出し、バーンダーバの「
ジュリーの額に汗が滲む。
「…… ちょっとスミマセンね、ギルドマスターにお会いいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わない」
バーンダーバの返事を聞く前にジュリーは階段の方へと歩いていた。
ついていくとジュリーがギルドマスターの部屋の扉を"ドカンッドカンッ"とやや乱暴に叩いていた。
「ギルドマスタァー! いるのは分かってます! 開けて下さいっ」
扉に向かって叫ぶようにジュリーが言うと、また中からいつか聞いた眠たそうな声で「おお、入れ」と返事が返ってきた。
ジュリーが扉を開くと、ギルドマスターが前と同じ机に足を上げた姿勢で出迎えた。
「ん? バンじゃねーか。イスラン火山へ行ったんじゃなかったのか?」
寝ぼけ眼でギルドマスターがバーンダーバを見る。
「眠そうな顔してないで、これを見てください」
ジュリーがギルドマスターの顔に付くくらいにロゼの書いた羊皮紙を突きつける。
「んな近かったらなんも見えねぇだろ、どれ。あぁん?」
書類を眺める顔が怪訝な表情に変わる。
「なんだ? この、レッドドラゴンってのは」
羊皮紙から目を離し、間抜けな顔でギルドマスターがジュリーを見てからバーンダーバを見て、視線をロゼで止める。
「アタイの事だよ、なんなら龍に姿を戻そうか?」
ロゼがあからさまに悪い顔になる。
「待てロゼ、そんなことをしたら建物が崩れ去ってしまう」
「…… おいおい、バンさんよ。ちょっと説明してくれ、どういうことだよ」
《それは我がしてやろう》
バーンダーバはもはや諦めた。
~~~~~~~~~~
「ぎゃははははっ、マジかよ。勇者はなんてひでぇ奴なんだ! あっちこっちで置き去りにしすぎだろ!」
「ぎ、ギルドマスター。そんなに笑ったら、悪いですよ」
腹を抱えて爆笑するギルドマスターに注意するが、注意しているジュリーも顔を伏せて笑いを堪えきれてはいない。
ロゼが苦り切った顔で笑う2人を眺めている。
「フェイちゃんがそろそろ勇者を名乗ってもいいかもしんねえなぁ、聖剣に
そう言ってギルドマスターがまたゲタゲタと笑う。
《我々は勇者が世界を救うためのささやかな犠牲だ、きっと勇者は神の言い付けを守らない事にしたんだ。なんとなくな》
フェムノが物悲しそうな声音を出す、フェイが冷たい視線で腰の聖剣を見下ろしている。
「ひでぇ勇者だ」
ギルドマスターが瞳に浮かべた笑い涙を拭う。
「それで、アタイは冒険者になれるのかい? ギルドマスターさん」
ジト目でロゼが口を挟む。
「あぁ、もちろんだ。ジュリー、ライセンスにレッドドラゴンと刻印して持ってきてくれ」
ジュリーが羊皮紙を受け取り「はいー」と返事をして部屋から出ていった。
「にしても、バンさんよ。レッドドラゴンの卵を取ってくる依頼でなんでレッドドラゴンを連れてくるかね?」
ギルドマスターは言いながら、スキンヘッドの頭をかいて呆れたように笑う。
「私もこうなるとは思わなかったが、旅は道ずれと言うしな」
それは魔王の言葉だった。
「旅は道ずれ、ねぇ。お前さんが言うと不思議と腑に落ちるな、これからは3人で冒険者家業をするのか?」
「もちろんだ」
「ならパーティ名を付けなくちゃな」
ギルドマスターが前屈みになる。
「パーティ名、そういえば前に会った冒険者達が"グレイソード"と名乗っていたな」
バーンダーバはいつか会った彼らの事を思い出す。
「おう、パーティ名ってのは言わば冒険者の看板だ。冒険者ってのは1人2人じゃ危険ばっかで全然金にもならん、だから大抵が3~6人くらいでパーティを組んで依頼をこなす。多少活躍すれば先ずはパーティ名が知れてくる、個人で名が売れるのはその後だな」
「ふーん、名前が売れてなんか良いことでもあんのかい?」
ロゼが質問したが、したわりに興味無さそうに自分の髪の毛をいじくって枝毛を探している。
「わりの良い仕事が名指しで入ってきたりするし、ギルド側も掲示板へ貼れないような依頼を斡旋したりする。冒険者もある意味、人気商売だからな。名前は覚えやすいのを考えるんだな、まぁ、武器の名前を入れんのが習わしみたいになってるが。決まりはない」
「それじゃ、
ロゼの一案にフェイが吹き出した。
《おい、誰の事だ?》
「いいかもしれないですね」
《酷いぞフェイ! 我は絶対に嫌だ!》
「では、なにが良いか?」
バーンダーバがアゴに手をやって考える。
《
「嫌に決まってるじゃないですか!」
「却下」
「……」
《では、
「フェムノはなんでそんなのばっかりなんですか!」
「フェムノ、パーティ名は看板なんだぞ。なんで自虐的な看板にする必要がある?」
「がはははっ、俺は良いと思うがな」
外野でギルドマスターがテーブルのナッツを食べながら楽しんでいる。
「お待たせしましたー」
ジュリーがロゼの冒険者ライセンスを持って戻ってきた。
「おう、ジュリー。お前もコイツらのパーティ名を考えねーか?」
「パーティ名ですか? あ、3人だからパーティ登録出来ますもんねー」
「ジュリーがパーティ名を考えた連中は結構売れるパーティが多いんだ、だからゲン担ぎにジュリーに名付けを頼む奴らも多いんだぞ」
「それなら、まだマシな名前になりそうだね」
バーンダーバが少しホッとした顔になる。
「今まではどんな候補があったんですかー?」
「
「あはは、酷い名前ばっかりですねー」
「なにか良い案はあるか?」
《気の効いた物を頼むぞ、
「フェムノ! ケツを蹴っ飛ばすよ!」
《残念だったな、我にケツはない》
「ならへし折ってやる!」
ロゼがフェムノに手を伸ばす。
「あはは、あ、良い名前を思い付きましたよー」
怒るロゼとは対照的に、ジュリーがなんとも呑気な雰囲気である。
「なんだ?」
「
バーンダーバとフェイとロゼ。
それに、目の無いはずのフェムノが見つめあった。
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