龍に惹かれて。2
神が世界を創造した時、世界の調停を司る9体の龍を遣わした。
世の理を担う2体。
世の自然を担う3体。
人の隆盛を担う4体。
その9体の龍の中で人間の前に姿を現した事があるのは人の隆盛を担う4体。
その中の
現在は本能である闘争を欲して魔界を根城にしている、余談だが、戦う事が好きな愚かな魔族が自分の力を示す為に戦いを挑む。
もちろん、一瞬で影すら残さず消されるが。
そんな
それは今から300年前の神が知らせた"大魔王"の予言の折。
つまり、神の命で"大魔王"と戦う勇者に加護を授ける為に現界へ来た。
そこに住まうドワーフから住みかを奪った。
そのイスラン火山で
子の名前は
それが火山地帯に生息するレッドドラゴンである。
レッドドラゴンは
最高難易度である。
その卵には凄まじい魔力と闘気が宿り、様々な霊薬や殻の一欠片が強力なマジックアイテムの材料になる。
食せば寿命が10年は伸びると言われている。
その卵の採集依頼は金クラス、相当な腕を持つアサシンなら戦闘回避も可能かもしれないが、レッドドラゴンの魔力感知を掻い潜り卵を盗むのは不可能に近い。
~~~~~~~~~~
「んなとこか、レッドドラゴンのお伽噺は」
「歴史書とか、お伽噺で出てきだしたのは確かに300年くらい前からですけど。 こないだの勇者に加護を与えたなんて話しは聞かなかったですね」
ギルドマスターの部屋で、当たり前のようにお昼の紅茶を啜るジュリー。
ギルドマスターの話を聞きながら、どこまでが本当なんだろうかと想像する。
「ところでギルドマスター、よく彼にライセンスを渡す気になりましたね。 私が言うのもなんですが」
ギルドマスターは自分の机に足を組んで乗せ、バーンダーバのライセンスを眺めていた。
ライセンスの裏面、そこにはLv666と刻まれている。
「お前の慌てた顔が面白かったからな」
「なんですかそれ」
ジュリーが呆れた表情になる。
「冗談はおいといて、まぁ、そうだな。 お前はあの男を見てどう思った?」
「そうですねぇ、魔族には全然見えないですね。 なんなら、冒険者にすら見えないです。 初めて見たときなんか、他の冒険者に絡まれて困った顔してましたし」
ジュリーが思い出してクスリと笑う。
「あぁ、あれな。 ヘレナに助けられてたな」
ギルドマスターも笑う。
余談だが、"ヘレナ"とはギルド内の宿と湯屋の受付である。
「その時もいたんですか!? 見てたんなら助けて下さいよ」
「さっきも言ったろ、冒険者同士の
「あの時はそもそも止めてくれるような男手自体いなかったんですけどね」
ジュリーがジトッとした目でギルドマスターを見る。
決まり悪そうにギルドマスターが「おほん」と咳払いを1つ。
「ま、んなことは置いといてだ。 ジュリーの言う通り、俺にもアイツが温厚に見えた。 そこらの冒険者よりよっぽどな」
言葉を切り、ギルドマスターが思案にふける。
「それだけが理由じゃないでしょう?」
ズズッとジュリーが紅茶を啜る。
「まぁな、俺はこれでも、依頼に失敗したことがない。 ちょっとした自慢だ」
ダイナスバザールのギルドマスター、イオレク。
別名、"無敗"のイオレク。
「知ってますよ、それがなにか?」
「異名の"無敗"は、気恥ずかしい物があるがな。 俺からすれば、ギリギリ自分が出来るさじ加減を見極めるのが上手いだけだ。 仲間の技量に依頼の難易度、その辺を俺は頭と肌感覚で計算出来た。 気付いたら、俺は二十数年の冒険者生活を無敗で終えた。 そんな俺の目が、コイツならやれる
「…… 彼が、魔界を豊かにして、魔族の侵攻を終わらせるって事ですか?」
「…… そっちは、ん~、無理だろうなぁ」
「え、どういう事ですか?」
「それに関しちゃ、なんかしそうだな? くらいのもんだよ。 俺が言ってんのはレッドドラゴンの卵を持って帰れそうって話だ。 魔界を豊かになんぞ、考えてもみろ、俺だって魔族の連中が飢えから解放されるなんざ胸くその悪い話だ。 魔族が今までで最大の侵攻をしてまだたったの6年だ、侵攻の爪痕がそこら中に残ってる。 怨み辛みも溢れ返ってる。 そんな中で、誰が魔族の飯を用意すんのに協力するよ? どこに行っても石を投げられるに決まってる」
「じゃあ、なんであんな条件を出したんです?」
ジュリーの言う
「ボケたアイツの頭に分からせるため、後は・・・」
ギルドマスターが天井の一点を見つめる、そこに何かがあるわけではない。
ギルドマスターの、考える時の癖だ。
「ダニの糞ほどの希望に、俺も少しかけただけだ」
「ダニの糞ですか。 それくらいの言い様が魔族の持つ希望には、丁度いいかもしれませんね」
そう言って、またズズッと紅茶をすすった。
ギルドマスターは、ジュリーに何事か言いかけたが、口を閉ざした。
彼女もまた、魔族の侵攻で大事な人を亡くしている。
「それにだ、聖剣とフェイちゃん。 3人って言っていいのか分からんが、なんとも奇妙な巡り合わせだろう? 俺みたいのが言うのもなんだが、運命を感じずにはいられん3人組だな」
「…… そうですねぇ」
「この話はこんなもんでいいだろう、さ、仕事に戻るぞ」
「そうですねー、それじゃ、失礼しますー」
ジュリーが仕事モードに入り、ギルドマスターの部屋から出た。
ギルドマスターはもう一度、バーンダーバのライセンスを眺める。
Lv666。
このライセンスは、所有者の魔力と闘気を計り数字化しているものだ。
上限はLv99。
上限と言うより、Lv99というのは全ての種族の限界値。
冒険者ギルドが今はこのライセンスを主に配布しているが、その歴史は古く数千年前にはこの力の数値化は存在する。
その長い歴史の中で、99に達した者はいない。
どころか、Lvが90を越えた者は伝説として名を残した者だけだ。
近くLv90になったと言われているのは。
3人の魔将を殺した救国の騎士。
帝国の大英雄・"魔将殺しのゲルハルト"
魔法都市を築いた魔法使い。
魔法都市の大賢者・"不死のラスレンダール"
帝王・"死戻のパラライカ"
話が逸れたが、つまり、このライセンスの計測がそれだけ正確に力を示してきた証である。
「ま、魔族なんて測った事はないんだろうし。 Lv666か、面白い冗談だ」
ギルドマスターはライセンスを引き出しに閉まった、もう1つは冒険者ギルドの本部へ送ってある。
魔族のハーフを名乗る者が冒険者になったという報告書付きで。
ライセンスが誤作動なんていうのは前例がない。
それだけに、"魔族"が冒険者になったという、突飛な内容でも信憑性のある報告書になるだろう。
ギルドマスターは、引き出しを閉めるころには今日中にこなさなければならない雑事の事に頭が切り替わっていた。
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