レベル666の冒険者。2


「すみません、適当に田舎者みたいな話にしちゃいました」


 フェイが素材の買い取り部屋から出たところで頭を下げる。


「いや、謝らないでくれ、全然構わない。 むしろすまないな、面倒をかける」


「いえ、それじゃあ、報酬です。 私はベルランの報酬を半分いただけますか?」


 フェイがワグナーから受け取った報酬から、銀貨を7枚左手に乗せ、残りを右手に乗せてバーンダーバに差し出した。


「いや、私はよく分からないからフェイが管理して貰えないだろうか?」


 バーンダーバがフェイの手に乗った硬貨を見ながら頬をかいた。


「ダメですよ、それじゃあいつまで経ってもお金の扱いに慣れないじゃないですか」


 フェイがぐいっと硬貨の乗った手を差し出す。


「あー、分かった。 だが、半分なら全てを半分にしよう。 明らかに私の方が多いだろう?」


「でも、私はライカンスロープとナイトイーグルの方には何もしてないので受け取れないですよ」


「いや、散々世話になっているんだ。 受け取ってくれ」


 フェイがうーんと頬をかく。


「それじゃあ、預かっておきます。 必要になったらいつでも言ってください」


 フェイが硬貨を半分にしてバーンダーバに差し出した。


「ありがとう」


 笑顔で受け取り、2人は受付嬢の元へと歩いた。


 受付嬢は相変わらずニコニコした顔で立っていた。


「仲が良いですねー、お二人とも」


 会話を聞いていたのか、受付嬢のジュリーの表情がどことなくユルい。


「からかわないで下さい」


 フェイが照れながらワグナーから預かった受理書を渡す。


「あはは、すみませんー。 ベルランの採取依頼、達成ありがとうございますー。 ライセンスをお預かりしますねー」


 フェイがプレートを首から外し、受付嬢に手渡した。


「お、おめでとうございますー。 フェイさん、ブルーに昇格ですねー」


 受付嬢がフェイのライセンスプレートを銅色の小鎚で叩く。


 パッと金色の光が弾けると、プレートが綺麗な空色に染まった。


「ありがとうございます」


 フェイが嬉しそうにプレートを受け取り、首にかけた。


「それではー、お連れ様も登録なさいますかー?」


「あぁ、よろしく頼む」


 バーンダーバが嬉しそうに答える。


「ではー、お名前に年齢にー、戦闘の上での役割ー。 書いて頂いたらー、冒険者規約とー、重要事項説明書を読んでいただいてー、最後にサインをお願いしますー。 登録料は銀貨5枚ですー」


 バーンダーバが用紙を渡され、困った顔でフェイを見る。


「あの、記入やサインは私が代筆しても大丈夫でしょうか?」


 察したフェイが受付嬢に聞いた。


「はい、大丈夫ですよー。 ではー、規約と重要事項は私から説明しますねー」


「すまない、読み書きが出来ないんだ」


「いえいえー、種族や産まれた場所で字なんていくらでも変わりますもんねー。 では読み上げますねー」



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 冒険者規約

 冒険者ギルドへ登録した者は冒険者ギルドの利用を可とする。


 冒険者登録出来るのは"魔力""闘気"を扱える者のみとする。


 深い専門知識を持ち、冒険者組合の定める体力試験を受かった者は"魔力""闘気"を扱えなくても採用するものとする。


 冒険者ギルドの提供する利用内容。

《仕事の斡旋》《宿・湯屋・飲食の提供》《貨幣の両替》《素材の買取り》《素材の販売》


 1、冒険者組合は国の法律に準ずる物とする、国を移って活動する場合、国の法律を遵守されたし。


 2、国の法律を犯した場合、冒険者資格を剥奪する場合がある。


 3、他の冒険者の依頼を妨害する行為を禁じる。


 4、受領出来る依頼は、ランクに準ずる物とする。


 5、冒険者ランクは冒険者ギルドへの貢献度及びギルドライセンス記載の戦闘力を表すLvによって可変する。


 6、ギルドの発行する依頼を金銭・素材等により売買、譲渡、冒険者ギルドライセンスを持たない者への斡旋を禁止する。


 重要事項説明


 1、魔族による侵攻があった場合、冒険者組合に所属する冒険者はこれに対して防衛、交戦を義務とする。


 2、魔族による侵攻があった場合、一時的に冒険者組合からの脱退を受理できない場合がある。


 3、国の軍に入る場合、上記の義務を免除される。


 4、依頼中の怪我や死亡に関して、ギルドは責任を負わない物とする。


 5、魔族侵攻時における防衛、交戦における怪我や死亡に関してギルドは責任を負わない物とする。



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



「とー、なりますー。 よろしければフェイさんに代筆をー」


 バーンダーバは聴きながらどんどん表情が固くなっていった。


《バンよ、前へ進むのだろう? ならば、嫌なことを避けてばかりでは進めないぞ》


 フェムノの、いつものおちょくるような口調ではなく、真面目な声が頭に響いた。


 フェイが不安そうな顔で見つめている。


「分かった、フェイ、署名を頼む」


「はい」


 フェイが書類に書き込む。


「バン、年齢は?」


「すまない、分からない。 100は過ぎているはずだ」


「長命な種族さんは分からない人が多いですからねー」


「では、戦闘の上での役割は? 弓士にしますか? 剣士?」


「長命な種族さんほど戦い方が固有化しますもんねー」


「あー、弓士で頼む」


「では、これで」


 フェイがサインを終え、書類を受付嬢に渡す。


「はいー、少々お待ち下さいー」


 書類を持って受付嬢が奥へと入っていく。


「よかったんですか? バン」


「あぁ、前へ進むよ」


 今のフェムノの言葉はバーンダーバにしか聞こえていなかった。


 それでも、フェイはバーンダーバが前向きに考えている様子が見て取れたので、なにかはよく分からなかったが黙って頷いた。


「それではー、こちらのライセンスに魔力を流していただけますかー」


 冒険者ライセンスがバーンダーバに手渡された、バーンダーバが魔力を込める。


「ありがとうございますー」


 魔力を込めたライセンスを受付嬢が先程のブロンズ色の小鎚で叩くと金色の光が弾けた。


 片面が白に染まる。


 白になったのを確認すると、受付嬢がひっくり返して裏の印字を見ると首を傾げた。


 ライセンスをブンブンと振る、もう一度見る、首を傾げる。


 小さな声で「なんだこりゃ?」との呟き。


「すみませんー、ちょっと不具合みたいでー、もう一度お願いしてもいいですかー」


 奥へと引っ込み、また新しいライセンスを持ってきた。


「もう一度魔力をお願いしますー」


 笑顔でライセンスが渡され、バーンダーバが魔力を込める。


「すみませんねー」


「いや、なにか不具合か?」


「裏のLvの部分が変になってしまって」


 言いながら、小鎚でライセンスを叩く。


 先程と同じように、光が弾ける。


 白に染まったライセンスの裏面を見ると、また首を傾げる。


 ライセンスをコツコツと叩いて、振って、見つめる。


 首を傾げる。


「おかしいですねー、反応は間違いなくいつも通りなんですがー」


 フェイとバーンダーバが顔を見合わせる。


「すみませんー、もう一度お願いしますー」


 また受付嬢が持ってきたライセンスに、バーンダーバが魔力を込める。


 小鎚で叩く。


 裏面を見た受付嬢の表情が曇る。


「えぇーっと、すみません。 どうしてもこうなるのですが、なにか心当たりはありませんか?」


 見せられたライセンスには


 ・・・・・・・・・


 名=バーンダーバ

 職=弓士

 歳=100

 種=エルフ

 Lv=666


 ・・・・・・・・・


「レベルの部分がおかしいんですよねー」


 バーンダーバはなんの事か分からず、受付嬢と一緒に首を傾げる。


 フェイが表情を固まらせている。


「あー、すまない、もしかしたらだが」


 バーンダーバには、思い当たる節が1つしかない。


「私は、エルフと、魔族の混血なんだ」


「まぞっ!」


 受付嬢の声がひっくり返り、いつもの細い眼が目一杯見開かれる。


 額に脂汗がみるみる浮かぶ。


「ぎ、ギルドマスターに、ちょっと、会っていただいても?」


 受付嬢が二階への階段を手で示す。


 バーンダーバとフェイは、不安気な表情で見つめあった。

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