新たな旅路、贖罪の門出。1
「聖剣って、あれの事を言ってるんでしょうか? お伽話の、勇者様が大魔王を倒すために神様が異世界から召喚したっていう……」
アニーが長い沈黙を破った。
どこを見ていいか分からず、剣とフェイを交互に見る。
フェイはその視線を苦い顔で受け止める。
《いかにも、我は300年の昔にこの世界へと
フェムノがドヤッと答える。
「え? でも、あれは実在しなかったって。 勇者様も大魔王は倒したけど、聖剣は持ってなかったハズだし。 どゆこと?」
メリナもフェイと剣を交互に見ながら喋る。
「えーっと、どう言ったらいいか」
それを説明すると、バーンダーバが魔族で聖剣を持って迷宮にいたことを話さなければならない。
フェイは内心、フェムノがまたペラペラと喋るんじゃないかとヒヤヒヤしている。
「おーい! 帰ったぞー!」
ポールの声が聞こえた、3人がそっちを向くとポールとクラインがそれぞれ大きな鳥を抱え、バンが肩に猪を抱えている。
遠目に見ても分かるほどにバンの顔は満面の笑みだ。
「それじゃあ、食事の支度をしましょう。 あ、アニーさんは休んでてください」
ホッとした顔でフェイが立ち上がる。
「あれって
メリナがポールとクラインの抱える鳥を見る。
「凄いんだ! バンさんが崖を見上げて矢を射ったらナイトイーグルが落ちてきた! 俺達にはナイトイーグルの姿が見えもしなかったのに!」
クラインが興奮して話す。
「それも一瞬なんだ! 狙う動作がほぼ無かった! 信じられねぇ」
クラインに負けず劣らずのテンションでポールが喋る。
「
バーンダーバが肩から、背中に茸の生えた猪を下ろす。
「ヤバかったぜ! 木々の間を縫うように魔力の矢が飛んだんだぞ! そしたら警戒心の強いマッシュルームボアが悲鳴もあげずに
「わかった、わかったよ。 そんなに興奮しないでよみっともない」
メリナが両手でまあまあと押さえる。
「たくさん獲ってきましたね、バン」
「あぁ、旨いと聞いてたから張り切ってしまった」
バーンダーバが嬉しそうにマッシュルームボアを解体にかかる。
フェイも火の準備を始め、少し離れた所で3人で騒ぎながらグレイソードの面々がナイトイーグルの羽をむしっている。
日が傾きかけた頃、鍋がくつくつと沸き、焚き火の周りでは串に刺した猪肉と鶏肉が油を滴らせていた。
「それでは、いただくとしよう」
「いえーい!」
「おいしそー!」
バーンダーバが串に刺したマッシュルームボアを頬張る、なんとも言えないさっぱりとした肉汁と、噛めば噛むほど味の出る赤身に表情が緩む。
「旨いな」
「美味しいですね」
フェイとバーンダーバが顔を合わせる。
「こっちのナイトイーグルもめちゃくちゃ美味しいですよ! バンさん」
まだ手に持った串を1口しか食べていないのにポールがバンに串を差し出す。
「まだ食べれないでしょ、やめなさいよ」
メリナがジト目でポールを見る。
「美味しいですね、なんだか生き返った気分」
アニーがナイトイーグルのスープを飲みながら息をつく。
「ホントだよな、ほんの数時間前に死を覚悟したのに、今はこんな旨い飯食ってくつろいでんだもんな」
「確かに、久しぶりに酒でも飲みたい気分だ」
クラインがしみじみとポールに賛同する。
「バンさんフェイさん、本当にありがとうございました」
ポールが深々と頭を下げる。
「串焼き持ったまんま頭下げんじゃないわよ、みっともない」
「あははは!」
「ははははは!」
アニーの笑い声に、つられて皆が笑いだした。
「良い出会いだ、人助けはするものだな」
「にしても、凄い腕ですよね。 あのライカンスロープが矢を射られても反応出来ないなんて、なんで採集依頼を受けたんですか? 討伐依頼の方が楽に稼げるでしょう?」
「そうかもしれないが、私は長く戦いに身を置いていたからな。 当分は争い事から身を引きたいんだ、まぁ、食うためには狩るし、襲われれば身を護ることはするが」
バーンダーバが頬をポリポリとかきながら答える。
フェイはその仕草をじっと見ている。
「なんか深いなぁ、元は騎士かなにかですか?」
ポールが雰囲気に酔った顔で聞く。
「…… 言いにくいが、私は、魔族だ。 魔王軍にいた」
「「「…… え?」」」
3人の声がハモる。
「…… いや、どんな冗談ですか」
なんとなく、笑うところかな? っという表情でポールが笑う。
「ホントに、バンさん冗談言うんですね。 あはは、一瞬信じちゃった」
メリナもいっぱく遅れて笑った。
《嘘ではない、それが証拠に我がここにいる。 我は異界の聖剣フェムノ! バンは私をクライオウェンの宝物庫より持ち出し、迷宮の奥底で私を勇者の手に渡らぬように護っていた》
メリナとアニーは信じられない表情で固まる、ポールとクラインは突如喋り出した剣に理解が追い付いていない。
《まあ、勇者は聖剣を必要とせずに魔王を倒したせいでコイツは魔王軍を役立たずと罵られて追放された可愛そうなやつだ。 皆で慰めてやってくれ! かははははっ》
「いやいや、その話が本当だとしてですよ? 1万以上の魔族を従えた魔王かその配下しか現界に来れないハズですよね? 魔王軍が攻めてきたって話しは聞かないですけど?」
ポールが顔の前で手を振る。
「私は、魔族とエルフの混血でな。 恐らく、そのせいで神の結界が上手く作用しないんだと思うが…… その辺りは私にも分からない、間違いないのは、今の私は魔王でも、魔王の配下でもない只の魔族だということだ」
全員が、黙ってバーンダーバを見る。
その視線は疑いよりも、戸惑いがある。
「…… 本当、なんですね」
ポール。
「あ、混血だから白くないんですね。 魔族って髪も肌も白いって聞いたし」
メリナ。
「辻褄は…… 合うのか?」
クライン。
「……」
アニー。
グレイソードの面々は、バンという存在を自分の中に消化しようと口々に誰にともなく喋っている。
「…… なんで、現界へ来たんですか?」
ポールが聞いた、その顔には若干の恐怖心が見える。
「不甲斐ない話だ、魔王軍を追われて、失意のままに彷徨い歩いていたらいつの間にか現界にいた。 命を絶とうとさえ思ったが、その時に私を止めたのが
視線が、フェイの隣に立て掛けられた聖剣へと集まる。
《ソイツが死のうとしてたのがなにもない荒野のど真中だったからな、そんな所で死なれたらまたどれだけ放置されるか分かったものではない。 だから助けたまでだ》
「……
《異界より召還され、宝物庫で300年、その後は迷宮に籠った後、浮浪者の徘徊に付き合わされた》
ポールはバーンダーバを見て「なるほど」と頷いた。
バンの格好は、当て所なく彷徨い歩いていたと言われれば納得できる説得力があった。
「貴方は、なぜ今、この現界にいるのですか? 魔王軍にいたということは、侵攻作戦にも加担したはずです。 攻め込んでおいて、のうのうと
アニーの、尖った冷たい声。
「アニー、言いすぎだろ!?」
ポールが腰を浮かせる。
「私は質問して良いハズです」
アニーの目付きは険しい。
「私は、クライオウェンの生き残りです」
刺すような視線がバンに向けられた。
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