アマルンの森。2
断崖を背に、森とその中に潜む魔物に囲まれた男女が4人。
囲んでいるのは毛むくじゃらの体長2mを越える二足歩行の魔物。
鋭く、命を刈り取るために伸びた爪。
太く、命を貪るための長い牙。
前足は逞しく、人間の腕と比べれば倍ほどはありそうで、後ろ足は獲物を逃がさぬために前足のさらに倍はある。
魔物の名は、
6体のライカンスロープが、じわじわと包囲の輪を狭めて追い詰めていく。
「くそっ、なんでこんな所にライカンスロープの
そう吐き捨てたのは剣を構えた男、冒険者パーティ
その隣では軽いレザーアーマーの上にローブを羽織った魔術師のクラインが杖を構えて詠唱している。
2人の後ろには負傷した治癒術師のアニーが、軽戦士のメリナに抱えられている。
ポールとクラインはアニーとメリナを庇うようにライカンスロープの前に立つが、6体を相手に庇いきれるものではない。
「
クラインの杖の周囲から10数個の拳大の火球が浮かぶ。
「お"お"ぉ!!」
クラインの火球と共に覚悟を決めたポールが気合いと共に飛び出した。
囲むライカンスロープは6体、踏み出したポールに合わせるようにライカンスロープは躍りかかってきた。
その内の1体の胴を薙ぐようにポールが両手剣を走らせる。
クラインの
残る3体のライカンスロープが手負いのアニーを抱えたメリナに襲いかかる。
アニーを抱えながらメリナがショートソードを握っているが、3方向から迫るライカンスロープに為す術なく瞳をぎゅっと瞑った。
牙と爪が届けば一瞬で終わる。
18年、短い一生だったとメリナが歯を食いしばる。
アニーを抱えた手に力がこもる。
1秒
2秒
3秒
一向に来ない牙と爪。
メリナが恐る恐る眼を開くとライカンスロープは6体全て、動きが止まっていた。
ライカンスロープの心臓には黒い矢が刺さっている。
次の瞬間、ライカンスロープは"どさり"とその場に崩れ落ちた。
状況に理解が追い付かず、メリナは眼をパチパチとしばたたかせる。
「─── たす、かった?」
他の、ライカンスロープに対峙した二人も同じように状況が分からないようだ。
振り返って、3人は顔を見合わせる。
「おーい、大丈夫か?」
3人が声の方へ目をやると、手を振りながら森から浮浪者のようにみすぼらしい格好をした男性と町娘のような格好の女性、なんともちぐはぐな二人組が歩いてきた。
───────────────
身構えた姿勢のまま、口をぽかんと開けた3人にバーンダーバとフェイが近づいていく。
《バーンダーバ、なんで我の出番を全て奪うんだ? わざとなのか?》
「そんな事よりフェムノ、怪我人がいるみたいです。 治療しましょう」
《ちっ》
フェイの言葉を受け、フェムノはバンにだけ聞こえるように舌打ちをした。
「大丈夫ですか?」
駆けつけたフェイが神官服姿の女性を抱える女性剣士に話しかける。
「へ、あっ。 アニー! アニー大丈夫?」
軽戦士の格好をした女性が思い出したように抱えている女性に呼び掛ける。
剣士に呼ばれた女性、アニーはローブの下に着込んでいたレザーアーマーごと脇腹を深く抉られている。
「フェムノ、お願いします」
フェイがフェムノに魔力を込める、銀色の光がアニーを包み込む。
荒くなっていた呼吸がゆっくりと落ち着いてくる。
「あぁ、良かった。 ありがとうございます」
《出した血液までは取り戻せん、死にたくなければしばらくじっとしておけと伝えてくれ。 後は助けてやった礼に》
「失った血は戻っていません、かなりの出血量のようですから、暫くは安静に」
フェムノが言い終える前に、フェイがフェムノの言葉をマイルドにして伝える。
「はい、本当にありがとうございます」
「あの、一体どうやって、ライカンスロープを?」
剣を鞘に戻すこともしないまま、剣士のポールがバーンダーバに聞いた。
「魔力弓で射抜いただけだ、すまない、獲物を横取りするつもりはなかったんだが。 もしかしたら助けが必要かと思ってな」
「とんでもない! 助かりました、助けて頂かなかったら死ぬところでした」
ポールが思い出したように剣を鞘に仕舞ってあわてて頭を下げる。
「ありがとうございます、素晴らしい腕ですね。 射抜いた矢がほとんど見えなかった。 私はクラインです、こっちの剣士がポールです」
「いや、助けられたなら良かった」
「私はメリナです、治療して頂いたのがアニー。 急に脇から現れたライカンスロープにやられてしまって、本当に助かりました」
メリナに抱えられているアニーがゆっくりと眼を開いた。
「良かった、気がついた」
「あれ、魔物は?」
アニーが焦点の定まらない眼で周りを見る。
「この人達がやっつけてくれたの」
地面に倒れるライカンスロープを見て、思い出したように自分の脇腹をさする。
「こっちの人に傷も治して貰ったよ」
メリナがフェイを手で示す。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お役に立てて良かったです」
フェイが恥ずかしそうに笑う。
「こんな所で何をしていたんだ? お前たちも冒険者なのか?」
バンがポールに聞いた。
「俺達は
「あぁ、すまない、私はバン、こちらはフェイだ」
「私達も冒険者なんです、ベルランの採集で」
「ベルラン? どうしてベルランの採集に?」
「私の冒険者初仕事だ」
「えぇっ! マジっすか! 初仕事!? そんだけ強くて
「ルーキーというのはなんだ?」
バーンダーバの問いに、グレイソードの面々は顔を見合わせる。
「すみません、バン、私が説明しておいたら良かったですね」
フェイが少し申し訳なさそうな顔になる。
「えっと、冒険者は色でクラス分けされてるんです。 最初が白でルーキーと呼ばれます。 次に黄、青、黒、銅、銀、金と続いて、白金が最高クラスです」
余談だが、ベルランの採集依頼は黄等級からでも受けられる初心者向けの依頼である。
「そうか、フェイはなにクラスなんだ?」
「私はハーフブルーです、半分青。 この依頼を達成出来たらブルーになります。 えーっと、冒険者は黒色になってやっと1人前と言われるので、私もまだまだですね」
フェイは胸元からチェーンでぶら下がったタグを取り出し、少し恥ずかしそうに説明した。
「依頼をこなしていけば色が変わるわけか、変わると何かあるのか?」
「難易度の高い依頼を受けれるようになります、他にも、ギルド内の宿を安く使わせて貰えたりとか」
フェイが指を折りつつ説明する。
「便利だな、私も冒険者に登録すれば良い目標になりそうだ」
「登録もまだなんですね、そうだ、助けてもらったお礼にベルランの採集手伝いますよ! あれって小さくてなかなか量が集まらないっすからね」
「本当か、ありがとう」
礼を言いながらバーンダーバが差し出した手を、ポールが笑顔で握り返した。
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