勇者にフラれて。4
《ほほう、すべき事とはなんだ? 言ってみろ》
「魔王様の願いだ。 魔界は高濃度の魔力が渦巻くせいで何も実らない不毛な大地、いくら魔族が食事をほとんど必要としない種族と言っても食料が少なすぎる。 特に、子供が成長するにはある程度は食わねばならない。 魔族は食えずに死んでいく子供が大勢いる、そんな魔界の状況を変えたいというのが魔王様の願いだった。 私は、魔王様の意思を継ごうと思う」
《おぉ、意思を継いで現界を征服するか! 面白い、力を貸すぞ!》
聖剣の魔剣的思考がとどまることをしらない。
「お前はどれだけ血の気が多いんだ」
フェイが青い顔で見ている。
「いや、私はそんな事はしない! 元に魔王様も最初は人間の王と協定を結び、交易を図って魔界を豊かにしようとしていたんだ」
《なんだ、つまらん》
「え? 大魔王ダーバシャッドは宣戦布告も無しに王都クライオウェンを襲ったと私は教わりました」
バーンダーバは沈んだ表情になった。
「いや、最終的にはそういう形になってしまったが…… 最初は確かにクライオウェンの王と交易を行っていた」
「初めて聞きました」
「そうか、では、少し詳しく話そう。 まずは魔界の成り立ちからになるが」
───────────────
魔界。
そこは遥か太古の時代に現界から次元ごと切り離された世界。
そこに住まうのは戦闘を好み、戦いに明け暮れた白き民。
世界が1つだった頃は人々からその血と争いを好む性質から"魔族"と恐れられ、自分達もその呼び名を気に入りいつの間にそれがそのまま呼称となった。
魔族達は力を信奉し、力のままに暴虐の限りを尽くし、散々に暴れまわった。
見かねた神々は闘争の龍を遣わして魔族全てを魔力渦巻く不毛な大地に追いやった。
そして次元を切り裂き、絶対に出られないように閉じ込めた。
罰として、食わなくても死なない体と。
強い空腹感が与えられた。
作物の育たない不毛な大地に押し込められた魔族は悲嘆にくれ、神々にどうか元の世界に戻してほしいと願った。
食事がしたいと神にすがった。
そして神は魔族に試練を与えた。
『また豊潤な大地に戻りたければ他の種族と友好を結ぶことを覚えよ、友好を結ばずに糧を得ようとすれば必ずまた現界への道は閉ざされる』
そして、現界へ行く方法は1万の魔族の長になること。
魔族達はそれを魔王と呼んだ。
魔王となれば、現界への道が開ける。
そして魔王とその配下のみがその道を通ることができた。
神は魔族の事を深く理解していた。
魔族は力の強い者ほど争いを好む、魔族は争いを好み強い者に忠誠を誓う。
魔王とその配下が現界へ行けば、争いしか起こらない。
魔族が富と糧を奪いに現界へ現れるたびに勇者が遣わされ、魔族を束ねる魔王を討ち取った。
魔王が倒れれば神の制約により、配下の魔族も全て魔界へと転移させられた。
魔王が産まれ、現界へ攻め入り、勇者に殺される。
この流れが何千年何万年と繰り返された。
そこへ現れたのが我が魔王ダーバシャッド様だ。
ダーバシャッド様は凄まじい力と統率力で数十年をかけて魔界全土を制服した。
魔界全てを制服したのは勝手に他の魔族が魔王となって現界に攻め入らないようにするためだ。
そして、魔界を制服すると現界へと入り、現界最大の王都クライオウェンの王と交渉した。
これから先、絶対に現界には攻め入らない。
だから現界の1部分の土地を貸し与えてほしい、そこで作物を育て魔界へ送りたい。
魔王様は現界の王に切に願った。
だが、魔王様の頼みは却下された。
それでも、魔王様は諦めなかった。
代わりに魔王様が出した材料は貿易。
現界の食料と、魔界から豊富に産出される魔石との物々交換。
クライオウェンの王はそれならばと承諾した。
魔王様は交易を続けてだんだんと信用を勝ち得、最終目標を現界に農園を持つことに定めた。
クライオウェンの王にも、いずれはそうしようと約束を取り付けた。
魔界は歓喜した、永遠に続くかと思われた食料問題が解決したと。
1年。
2年。
3年。
長くは続かなかった。
クライオウェンの王から要求される魔石の量は年々増えていった。
そして、送られてくる食料は年々減っていった。
魔族達は食料をもっと寄越せと魔王様に詰め寄った。
現界から送られてくる食料を魔王様が独占していると思われた。
魔王様の中に人間への不信感と怒りがどんどん募っていった。
いくら魔石を渡しても、クライオウェンの王は現界に魔族の領土を持つことを、農園を開くことを先延ばしにするばかり。
考えれば、クライオウェンの王に領土を持たせる気など無かったのかもしれない。
領土を持ち、魔族が自分で食料を手に入れる事が出来れば、クライオウェンの王は魔石を手に入れる事が出来なくなる。
そして、5年が経った。
あることをきっかけに、魔王様の怒りが限界を向かえた。
魔王様は四天王と共に現界へと一気に攻め込んだ。
標的は、王都クライオウェン。
そして、現界最大の都を一夜で攻め滅ぼした。
────────────────
「その後も、元々が魔界に魔王として君臨していた3魔王の力もあり、中央大陸を瞬く間に制圧した。 いや、ここからはフェイさんもよく知っているか」
バーンダーバは大きく息をつくと、ほとんど燃えきってしまって燻っている焚き火に視線を移した。
なんだか、バーンダーバは攻め入った理由を言い訳しているように感じた自分が少し嫌になった。
仕方がないと言っているが、それでも、攻め入って殺していいという理由にはならない。
バーンダーバは今も攻め入った時に殺した人間の顔を思い出していた。
先ほどまでの、魔界を豊かにしようという気持ちは火が消えたように冷めていた。
敬愛し、誰より尊敬する魔王でも無理だった。
それなのに、自分に出来るはずがない。
虐殺に手を貸しておいて、平和の為にという自分が無性に滑稽にも思えた。
「そんな話は初めて聞きました、魔界の王が最初は平和的に交渉を行っていたなんて……」
《戦争の理由なんぞ、聞いてもしょうもないとしか思えんな。 所詮は欲の産物よ》
「ちょっと、言いすぎですよフェムノ」
フェイが傍らの聖剣に顔をしかめる。
聖剣の言い様に、少しムッとなったバーンダーバだが、その言葉は言い得て妙と言えなくもないと思い、ふっと笑った。
「そうだな、聖剣の言う通りだ」
先に手を出したのは魔族。
現に、神々も魔族を排除するために勇者を遣わした。
排除されて然るべき、といったところかとバーンダーバは思った。
「勇者が来て、魔王様を討ち取った。 神の意思だ。 それに、私も大罪人だ。 平和の為になど、バカな考えだったな」
「でも、最初の数年間、勇者は現れなかったんですよね。 魔王さんが、平和的に魔界を豊かにしようとした数年間は。 じゃあ、そのやり方が正解ってことじゃないですか。 バーンダーバさんの魔王様は、最後は間違えてしまったかもしれないですけど。 正しかったんですよ」
フェイの励ましに、バーンダーバが顔を上げる。
「あぁ、だが、魔王様でも出来なかったんだ。 私に出来るはずもない」
「そんなこと無いですよ! 魔王さんの事は私はよく知らないですけど、バーンダーバさんは少なくとも、私は、出来るんじゃないかなって思います」
バーンダーバはきょとんとした顔でフェイを見つめる。
「だって、全く関係ない、無関係な私を助けてくれたじゃないですか! 一緒にご飯食べて、下らない話も聞いてくれて。 バーンダーバさん1人じゃ無理なら、私もお手伝いしますよ! ほら、フェムノもいますし!」
《平和に手を貸すなんて我はお断りだ、つまらん》
もはや魔剣である。
「そんなこと言ったら荒野に埋めますよっ」
《な、何て事を言うんだフェイ! 酷すぎるぞ!》
「じゃあ手伝うって言ってください」
《ぬ、ぬぅ。。。 いいだろう、フェイがやると言うならちょっとだけなら手伝ってやろう》
「ほら、バーンダーバさん! やりましょうよ! 魔王さんの願いを叶えてあげましょう!」
フェイの明るい言葉に、バーンダーバはもう一度、瞳に火が灯った。
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