第45話 我は、今日から再生神じゃ!


 

 ミファイラが教祖として率いていた魔神教は、破壊神エメラダを信仰する宗教であった。


 そのため、俺が封印を解いたエメラダを連れて行けば、こうなる事は自明の理だった。


「ところで、魔神教の目的はエメラダの復活じゃなかったのか?」


 エメラダが復活した今、既に魔神教の目的は達成している訳だ。

 

 もう、解散してもいいんじゃないか?


「魔神教の本質は、エメラダ様への崇拝です。封印を解くのはエメラダ様をお助けするという悲願でした。目的とは異なります」


「なるほど?それで、こいつらが俺を拝んでいるのは?」


 さっきから、魔神教の信者達が俺の事も拝んでいるのが気になった。


「そのエメラダ様の封印を解かれたアリマ様は我らにとって、もはや英雄。さらに創造神様のご寵愛を受けておられるならば、もはや信仰の対象としか成りえないかと?」


 なるほど?それでいいのか?俺を拝んでも何も出ないぞ?


「分かった。で、ミファイラ……この大陸には、他に何も無いのか?」


「無いと言えばないし、あると言えばあります」


「どっちだよ?」


「この大陸に、我ら魔族は住んでいるけど、ごく少数でしかないので……」


 この大陸には、見どころ無しか……。


「未開の地という事か……でも、魔神教はなぜこんな辺鄙な所に?」

 

「魔神教は破壊神を崇拝するので、邪教扱いされて……」


 邪教なのか?エメラダは悪い奴では無いぞ?


 そもそもなんで、エメラダは破壊神なんだ?


「エリス様?エメラダは、何故破壊神を自称しているのですか?」


「エメラダ姉様は、わらわの前任の創造神じゃったのじゃが、創造するより、これからはリサイクルじゃと言い出してのぅ……。破壊しては再生を繰り返しておったのじゃ。魂の再生もその一つじゃ。例えば、異世界の魂をリサイクルして再生させるのじゃ」


「それって、異世界転生神じゃないですか?ああ……それで、親父は転生したという事か……」


「その破壊だけを見れば、破壊神じゃろうが、本来は再生神じゃ」


 それならば、再生神でいいんじゃないか?


「エメラダ?再生神を名乗ったらどうだ?」


 俺は、俺の上着の裾を掴んでいたエメラダに提案してみた。


「破壊神の方が、カッコいいんじゃが……ご主人様が、その方が可愛いと言ってくれるなら考えてもいいのじゃ」


「再生神の方が可愛いぞ?エメラダ♡」


「我は、今日から再生神じゃ!ふふん!」


 いいのか?それで?


「ミファイラ?という事なんだけど?魔神教も名前を変えたらどうだ?ついでにエリス様と俺も一緒にすれば、リリアスでもエリス神聖国でも行けると思うぞ?」


 魔神教は邪教とされているなら、名前ごと変えてしまえばいい。


「そもそも、何で魔神なんだ?」


「我は、破壊神の前は魔神を名乗っておったのじゃ」


 そうですか……。どうせ、カッコいいからとか言うんだろう?


「ならば、アリマ教はどうじゃ?アリマは、我のご主人様じゃ♡」


 なんで、俺!?


「そうじゃの。旦那様はエリス神聖国の王でもあるし、リリアスの王でもある」


 エリス様まで!?そこは、エメラダじゃ駄目なのか?駄目なんだろうなぁ……。


 えっと、アリマ教で決まりそうなんだがいいのか?


「あー、ミファイラ?」


「はい!アリマ教頂きました!」


 本当に……それでいいのか?


 こうして……魔神教改め、アリマ教が誕生してしまった。


 

◇◇



 日も暮れていい時間だったので……俺達は、神殿内部へと案内された。


「この辺は、居住区か?」


 外見は神殿だったが、神殿の内部は幾つもの小部屋があり、人が住めるようになっていた。 


「この部屋をお使いください。こちらは神の寝所となります」


 神の寝所?ああ……寝室の事か?


 王宮のような豪華な造りではなく、神を迎える為だけに作られた部屋らしく、装飾は細かく芸術作品のような趣きがあちこちに見られた。


「ありがとう」


「アリマ様は、別の部屋になります……」


「ならば、わらわ達は先に休んでおるぞ?」


「はい。エリス様」


 ミファイラは、俺だけ別の部屋に案内するようだ。


「どうぞ……こちらです」


「うん、なかなかいい部屋じゃないか?」


 食べかけの食器や、畳んでないベッド。さっきまで寝てましたかのような脱ぎ散らかされたパジャマなど、そこは生活感溢れる部屋だった。


「あの……散らかっててすみません……私の部屋です……」


 ミファイラに案内されたのは……ミファイラの自室、教祖の部屋だった。


 え?どういう事?


「おじゃまします……でいいのか?」


 ミファイラは、最初に出会った時はオレ様とか言っていたけど……俺達の正体が分かってからは、しおらしくなってしまったな……。あの性格は、教祖として振舞う為に無理して作っていたのかもしれないな……。


「はい……どうぞ……散らかってて、汚い所ですが」


 それにしても、ミファイラが俺だけを自室に入れたのには、何か理由があるに違いない。


「あ、飲み物でもお出ししますね?」


「うん、ありがとう」


 ミファイラは、そう言うと茶器と茶葉を戸棚から取り出して、お茶を入れてくれた。


「それで、俺をここに連れてきた理由を教えてくれないか?」


 ミファイラは、部屋の扉を開けて左右を確認すると、また扉を閉めて鍵をかけた。


「すみません……女神様やエメラダ様には、聞かれたくないんです……」


 いや、それは無理だと思うよ?


「私は、今まで……エメラダ様の復活のために……とても人には言えないくらい酷い事を行ってきました。たとえ、エメラダ様復活の為とはいえ……許される事では無いでしょう」


 おいおい……それこそが、邪教じゃないのか?


「例えば?それは、俺が聞いてもいいのか?」


 ミファイラは、ぽつぽつと自分の過去を話し始めた。


「私は、エリス神聖国の初代国王の側近でした」


「ええ?リリムとは顔見知りという事か?」


 リリムは、エリス神聖国初代国王の妃だったはずだ。


「ええ……リリム様には、大変お世話になりました」


 なら、リリムを置いて来たのは失敗だったか?


「当時、エリスラーダ様と、エメラダ様を巻き込んで大きな戦争がありました」


「聞いたことがあるな」


 エリス様は、姉妹喧嘩といっていたけど、そんな生易しいものでは無かったはずだ。


「その時に、私はエメラダ様の封印に手を貸したのです」


「エメラダの封印だって?だって、お前は封印を解くために……」


「そして、エメラダ様が封印された事で怒ったエリスラーダ様は、世界を二つにして、我ら眷属から力を奪いました。我ら眷属も封印されたのです」


 なんか聞いていた話と違うな……。


 眷属から力を奪ったなら、俺が今していることは……眷属解放は、封印解除という事になる。


 エリス様自ら封印した自分の眷属を、俺に解放させているのは……俺への試練と言っていたが、過去の清算か、又は……俺に未来を託したという事なのか?


 眷属解放の条件に、俺の事を心から好きである事という条件があるが、俺が眷属を纏めろという事なのか……。


「初代国王亡きあと、私は封印したエメラダ様に会いに行きました。そして、自分の過ちに気付かされたのです」


「エメラダは、あれでいい奴だからな」


「そうなんです。私はエメラダ様に忠誠を誓いました。そして魔神教を作ったのです」


「人には言えない事は、出てきていないな?」


「それは……今からお話します……」


 ミファイラは、かなり落ち込んでいる。


「魔族にはもう一人、エリスロード様の眷属がいまして、名をマニエラと言います。マニエラはエメラダ様の封印を解くには、大きな亜神の欠片が必要だと、そうです私達眷属も持っている物です。眷属からは奪えないので……民間人から集めました」


「まさか……殺したのか?」


「ごめんなさい……でも、それはマニエラの策略でした」


「策略?」


「マニエラは、私達を裏切っていたのです!魔王を復活させるために!」


「裏切っていた?では、集めた亜神の欠片は?」


「魔王の復活の儀式に……」


 マジか……。一歩間違えればマリ姫や、アンリ、レスティア達が犠牲になっていたかもしれないのか……。


「ミファイラ……お前……何人やったんだ?」


「……言い訳にはなりませんが……私は、手を出せませんでした」


「私は……か?」


「下部組織のものが……最近だと3人ほど……全て身寄りのない男性だったと聞いております」


「だが、責任は組織の上にあると……」


「私は、教祖としてその責任があります」


 ミファイラの行いは許されることではない。だが、裏で操っていた奴!マニエラに唆されたのであれば、話は別だ。


 見方を変えれば、ミファイラは利用されただけの被害者という事になる。


 はぁ……どうしたものかね。ミファイラは巨乳でとても色っぽい。俺の嫁になって欲しい。


「ミファイラ?お前に男はいないのか?」


「私を何歳だと思っていますか?500年は超えていますよ?いる訳がありません」


「そうか……それは良かった。これからは俺が守ってやる。俺を好きになれ。お前が欲しい」


「え?え?アリマ様?それって……どういう事でしょう?」


「お前の全てを受け止めてやるよ。お前が好きだ」


 俺は、困惑していたミファイラの唇を、俺の口で塞いだ。


「ん……んん……ちゅ♡……ちゅ♡……アリマ様……私でいいのですか?」


「ここには、お前しかいないだろ?」


 ミファイラは、顔を赤くして俯いていた。







あとがき


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