第39話 クラウド・ザン・スタールとの会談
俺には、親父との記憶がそんなに残っていない。
なにせ20年前の事で。当時の俺は小学校に入りたての頃だ。
ただ、優しかったのは覚えていた。
だから、死んだと思っていた親父が、実は異世界に転生して生きていましたと言われてもピンと来ないし、そうなんですか?としか言いようがなかった。
だが、それが隣国の王ともなれば別だ。
隣国であるスタール王国は、この大陸の南側全てを支配下にもつ大国らしい。
そして、大陸中央のリリアス教国と、大陸北側のエリス神聖国の王である俺と、スタール王国の王である親父だけで、この大陸全てを支配下に置いたも同然と言う事になるからだ。
言ってみれば、アリマファミリーだけで大陸を支配していることになる訳だ。
これは、今後の俺の試練にも影響してくる。
何故なら、次のエリス様の眷属がいるのがスタール王国方面だからだ。
スタール王の協力があれば、俺達の入国手続きなんかは省略出来るだろうし、いろいろと動きやすくなるかもしれない。
とにかく、今後また俺に国を任せるとかいう王が、この大陸で現れることは、無くなったと考えて良い。
親父は20歳だし、まだ若いから大丈夫だろう。将来的には分からないけど……。
スタール王とは、翌日に正式な会談が予定されている。
何といっても、今日は結婚式であったのだ。結婚式の夜は初夜と言うのが一般的であるので、スタール王との会談は余裕をもって翌日に設定されていた。
しかし、今日の結婚式は国民向けのパフォーマンスでもあったので、特に初夜というものは設定していない。
俺はまだ子供を作る気はないし、もし作るならエリス様からだ。それに……寿命の無い俺達眷属にとっては、子供を作る事は重要な事では無かった。
そして、翌日。
スタール王国の王、クラウド・ザン・スタールとの会談が始まった。
クラウド王は、金髪緑眼でイケメンだった。親父め……イケメンなんて狡いじゃないか?
俺なんて転生じゃなくて転移のようなものだったからなぁ……。でも、途中エリス様の所で結構長い時間修行したから、転移ともまた違うんだよな?身体的にも若返ったし、眷属になっていたし……。
親父のこっちの世界での新しい嫁は、アムレイシアさん。エルフで金髪碧眼、10歳年上と言っていたけど、エルフなので見た目の年齢は15歳くらいだった。
そして、親父には勿体ないくらい美人だった。
エルフは長命だし、親父が寿命で他界したら、俺が貰ってもいいかな?
エルフでこっちの世界にいるならば、アムレイシアさんは亜神の欠片持ちである可能性が高い。
そして気になったのが、護衛として付いてきていた、小さい角がある褐色の肌の女の人だ。角があるので人間ではなさそうだった。
「ああ……そうか、紹介しよう。こいつは俺の命の恩人、小鬼族のアリスだ」
「あたしの名前はアリス、一応ダンジョンに住む住人の代表という事になるわ」
「へぇ……え1?ダンジョン!?っていうか……小鬼族って?ゴブリンとかの?」
「そうだ、アリスはそのゴブリン村の出身なんだ」
へぇ……ゴブリン村?ゴブリンって魔物じゃないのか?それに、何でゴブリンが美人なんだ?
「ダンジョンには、そこを生活の基盤とする人種が住んでいたんだ。ダンジョンの中は地上と比較して魔素の濃度が濃い。そして地下深くに行くほど……その濃さは増して、魔物は進化していたんだ。魔物も進化すれば人語を解する種族となるって訳なんだ」
いや、ダンジョンすら初耳なんだけど?俺の試練はダンジョンの攻略ではなくて、眷属の解放だからなぁ。
「という事は、ダンジョンにはそのダンジョン固有の亜人種が住んでいる可能性があるって事か?」
「そういう事だ。まぁダンジョンに挑む時は気を付けろよ?」
多分行くことは無いと思うけど?
「ああ、情報ありがとう」
それから。俺は親父から親父がこっちの世界に召喚されてから今までの事を長々と説明された。やはり親父もスタール王国で勇者召喚が行われたようだ。
ただし、親父の場合は魂だけで召喚されたので、女神エメラダの介入により、新しい命を授けられ、この世界に転生を果たしたということらしい。
赤ん坊として召喚された勇者は、当時弱っていた隔世遺伝したエルフのアムレイシアさんの命を救ったという事らしい。そもそもアムレイシアさんの命を救うために勇者召喚を実施したという事になる。
エリス神聖国に比べて、スタール王国の神気濃度は低いらしい。エルフにとっては生きてい行くのは非常に厳しい環境だ。
神気の濃度に関して言うと、俺達神の眷属は神気を纏っている。そして眷属解放を行う事によって纏う神気も多くなり、周囲の神気濃度に影響してくるんだ。
だとすると……親父も勇者として神気を纏っている事になる。召喚された特にエメラダと接触していたとなると、エメラダの眷属になっているのかもしれないな。
アムレイシアさんと結婚したのも、当然のことだよな?アムレイシアさんは神気を纏った勇者がいないと生きられないんだから。
親父の20年間の勇者としての冒険譚は、終わりが見えないので……とにかく頑張ったらしい。最初は魔法が使えなかったとか、ダンジョンに捨てられたとか、ダンジョンで助けられたとか、アリスさんと一緒にダンジョン攻略したとか、ダンジョンコアを手に入れたとか、とにかく親父が勇者していた事は良く分かった。
◇◇
親父の話がひと段落したところで、俺の目的や今後の旅について、スタール王に話しておくことにした。
「俺の目的はエリス様と結婚したので、エリス様と同じ神となる事だ」
「あはは……俺の息子は神になっちまうのか?」
「今はエリス様に課せられた試練のため、旅を続けているんだけど、次の目的地がスタール王国らしい」
「ほう、俺の国に入るなら俺の紹介状と入国許可証を渡しておこう。どうせあれだろ?空飛んで行くから問題ないとか思ってるだろ?」
空を飛んで行くのは、合っているけどちゃんと許可は取っておきたい。
「王としての正式な訪問ではないから、それは助かる」
「大丈夫だと思うけど、くれぐれもトラブルは起こすなよ?」
「悪い奴以外なら手は出さないよ?」
「女にはすぐ手を出しそうだが?」
「やめてくれ、俺はエリス様の婿なんで、そんな自由は無い」
「その割には嫁の数多くないか?ハーレムじゃないのか?」
「いや、おっしゃる通りで……」
「まぁ、そっちは頑張ってくれとしか言えないが……」
親父の顔が真剣な表情に変化した。
「最近聞いた話だと魔王が復活したらしい」
「ああ、そうらしいな?」
特に後回しでいいかと思っていた件だな。魔大陸だっけ?
そして、魔大陸の魔王に関しては情報も少ないので、情報を共有することにして、魔王と対峙する時は、お互いに協力することを約束した。
魔大陸……この大陸の他にも2~3個の大陸があって、その一つが魔大陸という事らしいが、その情報は少なく……位置も知られていないらしい。
あとがき
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