第32話 ファーストキスだったんだよ?



 

 レスティア、ラミレスと5人のうち2人の眷属解放まで終えた俺は、一番問題のある第二教女リンスレットをどうするか考えていた。


 リンスレットは、この結婚は政略結婚だと断定しているし、理屈屋で争いを止めるためには5人一緒に嫁がないといけないから嫁ぐんだという、悲しい事にこれは愛のない結婚だと考えている節がある。

 

 だけど逆に考えれば、リンスレットは愛のある結婚を望んでいるという事になるのだ。


 それにリンスレットは、真剣に国の為を思って行動している。ラミレス同様にリンスレットは18歳にもかかわらず、婚約も結婚もせず姉妹が争わない道を選んだ。


 それは、とてもやさしい心の持ち主だという事に他ならない。


 リンスレットはラミレスに勝るとも劣らない美貌の持ち主だけど、短く切りそろえた髪とその男っぽい言動と、着ている服が男物という点が、彼女の評価を落としていた。


 多分、言い寄る男を寄せ付けない為の自己防衛なのかもしれない。もっと女の子を前面に出せばラミレスより綺麗になる素質は十分にある。そこが彼女の勿体ない部分だった。


 俺と婚約するならもっと可愛くしてやろうかな?絶対似合うと思う。


 リンスレットの体型は、ラミレスとほぼ同じということだったので……リンスレットの件は、ラミレスを頼ることになった。



◇◇



 俺はズボンにワイシャツを着たリンスレットを連れて、ラミレスの部屋にお邪魔した。


「ここは、ラミレス姉様の部屋ではないか?」


「さぁ、入ってくれ」

 

 リンスレットの背中を押してラミレスの部屋に押し込むと俺は外で待つことにした。


「おい!ちょっと何をするんだ?」


「いいからいいから、ちょっと着替えてくれ」


 暫く部屋の外で待っていると、赤いドレスに着替えたリンスレットが出て来た。


「うん、ドレスも似合うじゃないか?綺麗だよリンスレット♡」


「な……あたしにドレスなんか着せて何のつもりだ?アリマ……さま?」


 うん、顔を赤くした恥じらうリンスレットも美しい。


「ラミレスも綺麗だけど、リンスレットはそれ以上に綺麗で美しいという事を知ってもらいたくてね?それに……俺が素敵なリンスレットを見たかったんだ」


「あたしが……綺麗?姉様より美しいだって?そんな……」


 俺は用意してあった鏡をリンスレットに見せてあげた。リンスレットは肩までの綺麗な茶髪(ウィッグ)に、透き通った青い瞳が綺麗で、化粧もしてあるので本当に綺麗だ。


「…………これが、あたしなのか?」


「分かったかな?リンスレット?君はとても美しい。心も美しい。俺はそんなリンスレットが好きになったんだ。リンスレットがわざと自分を綺麗に見せないようにしていたのは分かってるよ?それが君の、リンスレットのやさしさだという事も」


「自分が婚約や結婚をすると、姉妹で不要な争いが起こってしまう。それを君は恐れていた。だから……君は男の恰好をしてみたり、髪を短くしていたんだよね?」


 俺がリンスレットの行動を指摘すると、リンスレットの青い瞳には涙が浮かんでいた。


「仕方が無いだろ!あたしの頭じゃ、それしか思いつかなかったんだ!」


「もう、いいんじゃないか?俺は嫌われるように作ったリンスレットではなくて、そのままの女の子のリンスレットが大好きだよ?」


 リンスレットは恥ずかしさのあまり、俯いて顔を隠してしまった。


「…………分かったよ………そんなに言うなら………////////」


「分かってくれたなら良かったよ」


「……ああ、アリマ……さまが、こっちの方がいいなら……そうするよ」


「じゃ、そういうことで出かけようか?」


「え?これで終わりじゃないのか?」


「デートって言ってなかったっけ?」


 リンスレットは、あたふたしながら外に出るのは恥ずかしいのか、俺に縋り付いて来た。


「折角着替えてくれたんだ。綺麗なリンスレットとデートしたいじゃないか?」


「き……綺麗か……なら仕方ないか?」


 そして、俺はリンスレットを連れてデートに出かけることになった。


「リンスレットのおすすめの場所ってある?」


 そもそも俺にデートスポットなんてものは知る由もない。せいぜいがレスティアに連れて行ってもらった魔法学園くらいだ。


「お勧めというか、好きな場所ならある」


 ほう、その好きな場所が知りたいんだなぁ。リンスレットが好きな場所か、どこだろう?


「好きな場所?」


「城の中だがいいか?」


「案内はお願いするよ?」


 ドレスを着た綺麗なリンスレットに案内され、俺は城の中を後ろからついていく。デートだからと思って手を繋いでみたら、顔を赤くしていたけどちゃんと繋ぎ返してくれた。


 あまりこういった経験は無いのだろう。


 円形の広場に着き、魔法が付与された大きな円盤に乗ると、円盤は俺とリンスレットを乗せたまま上昇し、結構な高さまで上がった所で停止した。


「ここは?」

「まぁ付いてきてくれ」


 円盤を降りて、少し歩くと大きな広間に出た。


「ここだ」


「……すごい」


 リンスレットが案内してくれたのは、大きな広間では無くて、この島が一望出来る展望室だった。


 360度の大パノラマ展望室。この部屋は島全体が見渡せるように出来ていて……もう絶景と言うしかなかった。


「あたしは、ここが一番好きな場所なんだ」

 

 分かるよこの絶景を一度見たら誰もが忘れられないだろう。


「リンスレットの好きな場所を教えてくれて嬉しいよ。これで一つリンスレットの事が分かったから」 


「そうか?なら良かった」


「それに……俺はリンスレットの全てが知りたいからね?」


「す、全てって?え?あれもか?これもか?えええ?」


 リンスレットは身構えてしまった。変なことを想像したのだろう。

 こう見えて、結構純情なところもあるのかもしれない。


「リンスレット?今日はこんな素敵な場所に連れてきてもらってありがとう!」


 デートスポットとしては最高だよ?


「こんなところで良ければ、いつでも連れてくるよ?」


「ねぇリンスレット?俺はリンスレットが好きだよ?リンスレットは?」


 まだ駄目かな?リンスレットは、ガードが堅そうだ。


「あたしは、……すまない……まだ、良く分からないんだ」


「俺は、愛のない結婚は出来ない体なんだ……」


 俺はリンスレットに顔を近づけると、リンスレットの唇を奪った。


「ん!?……ん♡……んはぁ♡……はぁ……はぁ……何を?」


「リンスレットが可愛すぎて……ついキスをしてしまったよ」


「ファーストキスだった……」


「え?」


「あたしの……ファーストキスだったんだよ?今の!」


 リンスレットの顔は紅潮して耳まで真っ赤になっていた。


「嫌だったならごめんね?」


「……いやじゃ……無かった。ちょっとびっくりしただけだ。そもそも急にするもんじゃないだろ?あたしにも、心の準備ってものが……」


「準備してたら出来ないでしょ?俺の事をもっと好きになって貰いたいから、前借りさせてもらったよ?まだ良く分からないんでしょ?」


「前借りか……、ちゃんとファーストキスの責任は取って貰うからな?」


 ふむ、リンスレットは怒っているように見えて、まんざらでもなさそうな感じだ。

 もう少ししてもいいかな?


「責任は取るよ?愛してるよ♡リンスレット♡」


 俺は再びリンスレットにキスをした。今度は長く……。


「んん……ちゅ♡……んん♡……ちゅ♡んんんちゅ♡……んはぁ♡……ん♡」


「はぁ……はぁ……また♡キス……した……」


「可愛いよ♡リンスレット?」


 今日はここまでかな?あまりしつこいと嫌われそうだ。



 リンスレット攻略一日目はこうして、展望台デートで終わった。


 リンスレットの眷属解放までは、先が長そうに感じた。






あとがき


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