第9話 絶対に驚かないでくださいよ?



 桃色の可愛らしいショートカットをふわっと揺らして、第三王女マリーシャは獣人御用達の大衆食堂「猫の爪亭」に足を踏み入れた。


 ナポリたんの捜索のお陰で、この大衆食堂に勇者様がいるかもしれないという事まで分かったのだ。


「勇者様がこの宿にいる事は分かっているわ!隠しても無駄よ?」


 ウェイトレスの猫獣人が対応するが、そもそも勇者と言う人は泊まっていないのだ。


「あんた誰にゃん?」


「私は、この国の第三王女マリーシャよ!」


「王女様にゃ?勇者様と言う名前の人はいないにゃ」


「え?確かにここにいるはずなんだけど?」


「知らないにゃん」


「もう!勇者は名前じゃないのよ!?」


「では、お探しの人の名前はなんにゃ?」


「知らないわ!」


「なら……他をあたるにゃ」


「な、名前は分からないけど……匂いなら分かるわ!」


「匂いフェチにゃ!?変態は、おととい来るにゃ!」


「だから、匂いしか分からないのよぉ~!!」



 騒々しくしていたからなのか店の奥から店長のパーラが顔を出した。


「どうしたのかしら?」


「店長!変態にゃ~匂いフェチにゃん」


「あら~?マリーシャ王女殿下?こんな獣臭い食堂に何か用かしら?」


「やっと、話の通じる人が出てきたと思ったら、棘あるわね」


「勇者様がこの宿にいるはずなんだけど?」


「勇者様と言う人は見たことないわ?」


「もう、このくだり何回やらせるのよ?名前は分からないの!」


「だから、宿泊者の匂いを嗅がせて!」


「困ったわねぇ」


「もう、ナポリたん!突撃よ!」


「はいはい!それじゃ勝手に入りますよっと!」


「あ、勝手に入っちゃだめにゃあ!」


 ナポリーネとマリーシャは猫の爪亭に何とか潜り込むことに成功?したのだが。


 一階の食堂では、丁度アリマとリリムが、朝の食事をしている所だった。



◇◇



「クンクン、!!いた、この人勇者だよ?」


 犬耳の獣人が俺を嗅ぎながら、勇者と断定してきた。あの召喚に関係してたやつらか?


 俺は勇者じゃないって、何度も言ってるんだけどなぁ?


「き、君が勇者なのか?」


「え?違いますよ?」


「あ、ごめんなさい人違いでした?」


「クンクン、やっぱりこの人だよ?」


「え?やっぱり貴方!勇者様ですよね?」


「違うって言ったの聞こえなかった?耳遠い人ですか?」


「ごめんなさい……って違うでしょ!?耳は遠くないわ!」


「分かった、聞き方を変えるわ。精霊の森でミルラルネ姉様と会った事はある?」


「精霊の森?ああ、あのおっぱいが大きかったミル姫のことかな?」


「お、おっぱいが、小さくて悪かったわね!」


 マリ姫はおっぱいは小さいけど、短く切り揃えられたピンクの髪の毛が似合うとても可愛い美少女だった。見かけは中学生くらいだ。


「別に君の胸が小さいとは一言も言ってないけど?あ、ごめん今言ったね」


「と、兎に角来てちょうだい!貴方の力が必要なのですわ!」


 マリ姫は可愛い顔を必死な表情で見つめて来て、右手を俺に差し出すようにして訴えかけて来た。


 俺の力が必要な程?何か事情があるのかな?


「話を聞こうじゃないか」


 俺は彼女の手を取り、話を聞いてみることにした。


 実は俺、貧乳美少女に弱いんだよなぁ。……はい!エリス様は大好きです!


 でも、彼女の必死な姿に、何とかしてやりたいと思ってしまったのは確かだった。


「え?あ、はい!ご、ご案内しますわ!」


 マリ姫は、手を握られてびっくりしたのか、ちょっと顔が赤くなっていた。



◇◇



 エリス神聖国の聖都、エルスハイムの北部にあるエリス聖城は、中世ヨーロッパの映画のモデルにもなりそうな聖なる城で、ファンタジー感溢れる白を基調とした荘厳な佇まいは、そこに神様が住んでいても可笑しくないような気さえしてくる。


 まぁ、エリス様が住んでいる訳ではないんだけど。



 俺とリリムは、第三王女のマリ姫に案内され、エリス聖城に足を踏み入れた。


 案内された場所は……やっぱり王様の玉座がある謁見の間だった。こういうのは苦手なんだけどな。


 玉座から見て正面近くまで進んでソワソワしていると、玉座に座って白ひげを生やした叔父さんが早速話しかけて来た。


「よく来てくれた。儂はこの国の聖王、エイジス・ディン・イスラグネだ。で、隣にいるのが……」


「初めまして、この国の聖女をしております、メルシア・ディン・イスラグネと申します」


「はぁ……どうも?」


「そう警戒しないで欲しい。まず確認したいのだがミルラルネよ、この者が召喚術にて召喚された人物で間違い無いか?」


「はい、間違いありません……お父様」


「そうか、本当に見つかって良かった。まずは謝罪をさせて欲しい。娘がしでかしたこととは言え、責任は儂にもある。勝手に勇者様を召喚した事、更には呪いまで掛けてしまった事、誠に申し訳なかった」



「あのー、何度も言ってますけど俺は、勇者では無いんですよ?」


「ふむ、だが、召喚術でここに来た事は間違いは無かろう?」


「そうなんですねぇ」


「まあ、それでも良い。召喚者である事が重要で、勇者は後付けの二つ名に過ぎないからな」


 勇者って、二つ名だったんですか?


「はぁ……」


「それならば、其方の名前、呼び方を教えてもらえぬだろうか?」


 えーこれって言っていいんだろうか?ここってエリス神聖国だよね?神敵とか言われたら困るんだけど?


「言ってもいいですけど……?絶対に驚かないでくださいよ?」


「ん?良く分からぬが良いだろう」


「アリマ?いいのか?」


 もう、何とでもなれかな?


「俺の名前は、アリマ・エリスロード!」


「「「「「「はぁ!?」」」」」」


「女神エリスロード様の婿です!」


「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???」」」」」」


 だから、驚かないでって言ったんだけど?






あとがき


続きが気になる。更新頑張ってと思っていただけましたら

☆☆☆、♡で応援よろしくお願いします。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る