第7話 順番は守ってくれないかな?




 エリス神聖国の首都エルスハイムの聖城では、重大な会議が開かれていた。派閥が違うとは言え狂信派と呼ばれていた派閥と組織が消滅したからだ。


 更には勇者召喚により、神気減少による神聖国の破滅は切り抜けられたものの、折角召喚した勇者には逃げられる始末。勇者の名前すら知らないのであるから、全くとんだ失態であった。



 その上、この所の魔物増加によるスタンピードの兆候に加え、災害級の魔物の目撃情報まで出ていて既に被害が出ているのだ。


 狂信派の武闘派、暗殺部隊は壊滅。聖王直属の神聖騎士団は狂信派の武闘派と比べても人数も少なく、戦闘力よりも回復を重視した部隊であった。



◇◇



 白い顎髭あごひげを蓄えた聖王と呼ばれるエリス神聖国の国王エイジスが口を開いた。


「レオボルトよ、今回の一件、お前が推し進めた勇者召喚の儀が失敗したからでは無いのか?」


「聖王様、勇者召喚は確かに成功しておったのじゃ」


「100万人に及ぶ神罰による被害が出ている事について、お前がエリスロード様を怒らせたのではないかと噂になっておるぞ?」


「それは、滅相もございませぬ」


「悪事に手を絞めた奴らが一掃出来たんだ。膿も出し切って良かったんじゃねーか?」


 口が悪いが本当の事を指摘するのは、赤髪短髪の神聖騎士団副団長のバックスで……。


「貴様!奴らはエリスロード様の敬虔な信者だったんだぞ!」


 副団長に貴様呼ばわりするのは、青髪をだらしなく伸ばした若くして神聖国宰相にまで上り詰めたマラタイト・アズリアだ。


「信者であろうがなかろうが、悪に手を染めれば神罰が下るという事がなぜ分からぬ」


 モンクーレ公爵の言葉に、聖王はため息を付きながら答える。


「全ては自業自得と言うことよ」


「俺は何故貴様に神罰が降らなかったのか不思議でならないがな。いっそのこと一緒に死んどけば良かったんじゃねーか?副団長殿?はは!」


 と、マラタイト宰相は吐き捨てるように言った。


「黙らぬか!今は起こってしまったのを嘆くより、今後どうするかを決めねばならぬのだ」


「モンクーレ公爵の言う通り、今はこの窮地をどう乗り切るかを考えねばならぬ」


「やはり……今回の件は勇者様しか、この事態を解決できるお方はいないかと」


「神聖騎士団は使い物にならんからな」


「聖王様、まずは失態を犯したミルラルネ王女とレオボルト枢機卿の処分を行わなければ、下に示しが付きませぬぞ」


「二人には責任を取らせるが、勇者の捜索は第三王女マリーシャに任せる。勇者の顔はミルラルネが見ているから手伝うように。良いな?」


「分かりましたわ。お父様。ミル姉さまは私の指示に従うように」

「分かったわよマリーシャ。はぁ……」


「ふふふ、勇者様♡どこに隠れていらっしゃるのかしら?」



◇◇



 結局マーニャの竜車に乗せてもらったので、特に問題も無くエルスハイムには予定より早く着くことになり、俺達は聖都エルスハイムの入口である城門前に到着した。


 この国の首都という事で城門は高さ5メートル以上もあり、圧巻される。

 城門の横にはレンガ造りの小屋が立っており、そこが門番の詰所になっているようだ。


 俺達は、門番の受け付けを済ませると、エルスハイムの内部へと足を踏み入れた。


 聖都エルスハイムは周辺部も含めると人口約50万人の大都市らしいが、人口が多いと経済活動から溢れ出る者も多く、溢れ出たもの達は寄り集まって、都市の外周部にスラム街を形成していた。


 都市内部は北側の最奥部に、エリス聖城とエリス聖教の本拠地、聖エルス礼拝堂が見える。


 聞く所によると、聖城の周囲には王都区があり、貴族や神聖騎士団所属の騎士達の家もこの区画らしい。


 聖都エルスハイムは、都市の南端から北端まで歩くと2時間は軽くかかるくらい広く、都市の中心には十時の形に南北と東西を貫く幅30メートルくらいの流通の大動脈である大通りが存在し、大小の竜車が引っ切り無しに通行していた。


 俺たちが入ったのは都市の南端にある南大門と呼ばれる場所だ。


「さすがは聖都だねぇ」


「エリス神聖国唯一の首都だからね」


「さて、リリム?明日以降は、またマーニャの竜車に乗せてもらう?」


「それで、マーニャはどうかな?」


「女将さんに聞いてみてからになるにゃ。あれはお店の車にゃ」


 どうやらマーニャの竜車は店の馬車らしい。

 

 宿屋街があるのは聖都の南西部にある商業区で、酒場や家族向け料理屋等が立ち並ぶ区域に隣接していた。


 さすがに商業区というだけあって通りには多種様々な風貌の人々が歩いている。腰に帯剣した騎士風の男や路面に敷いた絨毯の上に雑多な商品を並べている犬の獣人族、7色に並べた果物を売っている屋台の果物売りの商人、その果物を買っている人族の母子など……。商業区の大通りは、ちょっと歩くと人に当たるくらいの賑わいを見せていた。


 俺達は宿を探している訳だが、料理屋の上に宿泊設備を持っている宿屋もそれなりに存在するようだ。

 その中の一つ、大通りから一本外れた通りにあるモダンな外観の料理屋の前でマーニャとリリムは足を止めた。


「猫の爪亭?」


「ここが、あちしの働いている宿屋にゃ!」


「ほう、いい店だね」


 ドラゴン〇ーダーもとい、眷属レーダーがこの宿に反応している。ここにエリス様の眷属がいるようだ。


「この店はボクの知り合いの獣人が経営しているんだよ」


「……なるほど?同じ眷属という事かな」


 モダンな外観の猫の爪亭の扉をカランと音を立てて中に入ると、カウンターと丸テーブルの客席が多くの獣人で賑わっていた。


「いらっしゃいませにゃん!3名様かにゃ?」


「ただいまにゃ!」

「あーお帰りにゃん、マーニャ」


 と、茶色と白の毛が混じった髪色の猫耳ウエイトレスが空いている座席に案内してくれた。

 ウエイトレスの着ている服は、胸が強調されるようになっていて、白い布地があちこち足りないのでなんとも目のやり所に困る。


「店長はいる?」


「店長はいるにゃん」


「店長に、リリムが来たと伝えてくれないかな?」


「分かったにゃん」


 そう言うとウエイトレスは奥に消えて行った。走って行ったので「うにゃー」とかぶつかって皿を割ったりしていた。


 うーん天然ドジっ子かなぁ……。


「賑やかな店だね」


「うん、そうだね……ここに来るのは結構、久しぶりだけど変わってないかな」


 暫くすると、奥から店長らしき橙色髪の見目麗しい猫獣人が現れた。

 ウエイトレスの服よりは肌の露出が多く、髪の色と同じ服は水着に近い。

 服から大きくはみ出した大きな胸はたぷんと揺れている。


 ここに、おっぱいがあるよ?これが神か?いや違います。エリス様!貧乳万歳!


「あら、珍しい顔と思ったら……随分と久しぶりねリリム」


「うっ……巨乳め……相変わらず元気そうじゃないか?パーラ」


 リリムはパーラの胸を凝視しながら目を細めている。


「それで、今日は?」


「もちろんパーラに会いに来たのさ」


「会いにねぇ……。それはこの子に関係あるんでしょ?」


 パーラは俺をジッと見つめると顔を緩ませた。


「あなたは、リリムの彼氏さん?」


「え?いやまだ違うというか、これからというか?」


「へぇ、脈はあるって事ね?」


「良かったじゃない?リリム」


「むぅ……良くないよう」


「どうも、俺はアリマ・エリスロードです」


 俺は簡単に挨拶を済ませると、パーラは拍子抜けした顔で見てくる。


「エリスロード?ってもしかして?」


「はい、俺はエリス様の婿です」


「あらあら、そうなのね?おめでとう?私は、この店のオーナーのパーラ・トレスティアよ?以後よろしくね?」


「はぁ……よろしくお願いします?」


「へぇ……婿殿ねぇ。エリスロード様もいい趣味なさっているわね。それで、リリムにも手を出しているの?」


「いえ、まだです」


「まだって事は手を出す予定なのねぇ、へぇ。リリムも隅に置けないわねぇ」


 といって、パーラは俺の事をじろじろと嘗め回すように見てくる。


「いや……っそ、そういう関係じゃ無いから!……まだ早いっていうか……その」


 リリムは顔を真っ赤にして反論しているが、パーラは大人の魅力というか落ち付いた感じで溜息を付いた。


「若いわねぇ。それで、私に用事があってきたんでしょ?」


「ちょっとここでは……」


「それじゃ……奥に行きましょうか?」


 そして、俺達はパーラに奥の個室に案内された。宴会用の小部屋のような所だ。


「この部屋なら結界を張っているから周りの心配は要らないわ」


「それでは、要件と言うのはですね、俺はエリス様からエリス様の眷属の解放をするように言われていまして、ようするに亜神解放です」


「パーラさんもエリス様の眷属ですよね?」


 眷属レーダーが反応しているから間違いない。

 

「どうしてそう思うのかしら?」


「俺もリリムも同じ眷属ですから」


「ふーん、アリマさんも?……なら分かるのかしら?」


「それで、私を解放してくれると?リリムはもう解放したの?」


 リリムは既に顔を赤くしている。


「いや、それが実は解放術というのがあって……あの、すごくエッチなんだ」


「ぷっ……あはは!リリムってば可愛い!と言う事は、リリムはまだなのね?」


「いや、そんな簡単に出来るわけないだろう?やっぱりその、好きな人同士じゃないと……」


「リリムはアリマさんの事、好きじゃないのかしら?そうは見えないけど?」


「ほぇ?」


「俺はリリムの事は好きだけどな」


「あわわわわ!」


「これは当分無理そうね。うふふ……それじゃアリマさんと私が先にやりましょうか?」


「いいのか?」


「ちょ、ちょっと待った。順番は守ってくれないかな?ボクの方が先だよ」


「あらら……はいはい、お先にどうぞ?」


「え!?今?無理だって……え?あわわわ……あああ、アリマ?」


「リリム?」


「無理無理無理!恥ずかしくて!無理だよう!」


「はぁ……アリマさんも大変ね」



 この日は結局、リリムともパーラとも何もなくパーラの宿に泊まるだけだった。


 これって、いつになったら解放出来るんだろう?






あとがき


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