第2話 暗殺者? ……もう準備出来てるじゃん♡



 ――俺の腹には、鈍銀色の短剣が刺さって――あれ?……いなかった。



 数時間前……。


 儀式場というには小さい森の中の祭壇。そこから南東に森を抜けた所にエリス神聖国の首都『聖都エルスハイム』があるという。

 俺はミル姫とおじいちゃんに案内され、森の中をパンツ一枚で歩いていた。


 裸で歩いていたら、変態か変質者扱いまではいかないと思うけど、まぁ、普通に街に入るのは難しいだろうね。


 だけど、仮にも王族だろ?馬車は無いのか?と突っ込みたくなるが、極秘裏に進めていた計画だったのか徒歩での移動を強いられていた。


「……結構歩いたよね?」


 歩くのが嫌いと言う訳では無いが、女神様との修行で強化されている俺は、この程度では疲れないようだ。


 もう体感2時間くらいは歩いたと思う、こっちの世界での時間感覚は分からないが、こいつらは休憩しないのか?


 今歩いているのは街道のように整備された道では無く、山の中の獣道のような所だ。木の根や大きな石がゴロゴロしていて歩きにくい。登山靴でも欲しい所だが、俺の足は呪いのせいで裸足だ。


 獣道を暫く歩くと、水の音が聞こえてきた。獣道は川沿いに続いているようだ。


 流石に川は歩きたくない……川石が痛いからね。


 他の信者達?は川を歩くようだが、俺は川沿いの道にもなっていない土のある場所を選んで歩いた。列から離れていくが、仕方が無い。しかし、ついに大きな木の根に阻まれ、先に行けなくなってしまった。川面までは20メートルくらいはありそうな崖の上。下には降りれそうもない。


「あらら、行き止まりか?……仕方ない戻ろうかな」


 知らない森の中で迷ってしまうのも嫌なので、戻ろうかと足を来た方に向けた瞬間、それは飛んで来た。

 羽の付いている細い棒切れのような物が俺の右頬をかすって、後ろにある太い幹に突き刺さった。


 矢だ。矢が刺さっている!?


「ええ!?」


 え?何で?俺狙われてるの!?さらに矢が飛んで来る。


 正面か……俺は左に向けて走った。森の中だ。足が痛い。相手が弓矢ならば森の中の方が安全だ。


「くっそ……」


 なんなんだよ!?


 とにかく走った。


 ……痛い、痛い、痛い?あれ?痛くない?


 必至で走る。なんかすごく早い気がする。


 ……痛い、痛い?あれ?治った。


 結構な速さで走っているが、擦り傷、足の痛みなど、傷んでは治り、傷付いては痛みが消えていた。


 裸足で走っているから足の裏も傷だらけのはずだけど、痛くない。ま、いいか。


 見落としがあったのか、足が草に隠れた木の根に引っかかってしまい、俺は藪の中に頭から突っ込んでしまった。


 背中に衝撃が走る。でんぐり返しで突っ込んだ向こう側は背丈ほどもある大岩だった。



「いっ痛つつつっ……え?やっぱり痛くない?」


 背中を強打したが、幸いにも頭は打っていない。


 右手で土を掴み、大岩を支えに起き上がる。


「でも、なんで俺を狙うのかなぁ……」


 そう呟いたその時、背後から其奴は現れた。


「みぃーつけた!」


 褐色の肌に肩下まで伸ばした艶やかな黒髪につり目がちな瞳は黒、健康的な露出の多い服はその豊かな胸の膨らみを強調させている。そんな魅惑的な美少女が笑みを浮かべながら俺の目の前に立っていた。背中には弓、腰には短剣を下げている。


 こいつは、――美人な痴女のお姉さん?



「えっと……逆ナンですか?」



「あぁ~あ~……勇者って聞いてたからもっと骨のある奴だと思ってたんだけどなぁ……本当にこの変質者が勇者なの?」


 褐色の少女がそう言うと、少女の背後からもう一人、フード姿の男が姿を現した。


「えええ? 俺は、勇者じゃないんだけど?」


 二人目の男は、褐色の少女よりは年齢は上か、フードを深めにかぶっているので顔は良く見えないが、茶褐色の外套の隙間から見える筋肉は大きな古傷を覗かせていて、歴戦の強者が見せるようなオーラを醸し出している。


「確かに、こんな変質者が勇者なわけねえよなぁ?」


 フードの男はそう言って、左手で頭を掻く素振りを見せた。


「それにしてもさぁ……勇者じゃ無いんなら、あたしが貰ってもいい?この男、良い体してんのよ♡……ふふふ♡」


「……ええ?俺、食べられちゃうの?」


「また、ライナの悪い癖だぜ、好きにしろ!」


「やった♡いただきまーす♡」


 え?今?ここで?しちゃうのぉ!?


 俺は何故か、一部が硬直したまま一歩も動けなかった。


「……なんだぁ……もう準備出来てるじゃん♡ふふふ♡」


「いやっ……これは」


「はぁ……これは、すごい……大きい♡むちゅ♡……はぁ、はぁ!」


「んぁ!」


 俺がライナという褐色女に性的に襲われそうになった時だった、突然空が光ったかと思うと、目の前に銀髪ロリ美少女のエリス様が降臨したのだ。


「ギルティ―!!!じゃぁぁぁぁあああ!」


「「「ええ?」」」


「アウトじゃ!アウト!貴様ら、わらわの旦那様に何をしておるのじゃ?」


「何よこいつ!?あたしの邪魔するの?」


「いや、エリス様!?さすがに、降臨するの早くないですか?」


「「「え?エリス様!?」」」


「全く、世話を焼かすでないわ!何じゃ?わらわの名は、女神エリスロードじゃ!」


「創造神エリスロード様?まさか……本物ですか?」


「ほう、わらわを知っておったか?良い心掛けじゃ」


「さて、まずは仕事じゃ!わらわの旦那様に手を出した事は許されん、よって神罰を下す!」


「旦那様!?」

「あ、俺の名前はアリマ・エリスロード。エリス様の婿やってます?」


「「はああああああああ!?」」


「ふむ、この国はエリス神聖国じゃな、貴様らはエリス聖教の狂信派とその暗殺部隊と、そんなクズはいらん」


「え?」


「さて終わりじゃ。狂信派とその暗殺部隊は不要じゃから消した。あとは貴様らじゃ」


「……神罰、伝説では、国が一瞬で滅びたとか、大陸が無くなったとか聞いたことあるけど……凄まじい御力ね」


「何か、言い残すことはあるかの?」


「……ありません」

「……っエリス様の名の下に」


「ならば死ぬがよい」


 エリス様が二人に手をかざす。


 その時、ライナという女が短剣を構えてエリス様へと迫ったので、咄嗟に俺はエリス様をかばって短剣を腹に受けてしまった。


「うっ……エリス……様」


 俺の腹には、鈍銀色の短剣が刺さって――あれ?……いなかった。


「あれ?」


「くっ……しくったか……あたしは、ライナ・レクエル、覚えて、おいてね?アリマ……」

「ここまでか……」


 褐色女ライナとフードの男はそう言い残すと、大量の血液を噴き出して死んでいった。


 ライナ・レクエル……。


 目の前で死んでいった痴女のお姉さんの事を考えると、何か切ない感情が生まれてくる。


「何じゃ?」

「いや、本当にエリス様は、神様なんだって」

「今更じゃのう、旦那様よ。待ちきれなくって来てしまったわ」

「え?」


「いや。今のは無しじゃ!いや、待ち切れなかったのは本当じゃが」


「旦那様の心配なんて、これっぽっちもしておらなかったからの?」


「本当じゃぞ~!!」

 

 エリス様は真っ赤な顔をして、言い訳をしているけど。


「はいはい、ありがとうございます。エリス様」



 エリス様の俺を思う気持ちは十分に伝わりましたよ。


 ――ただ、ちょっと天罰はやり過ぎです。



 



あとがき


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