第1話 勇者召喚? 用が無いならそろそろ行くけど?



 鬱蒼とした森の木々がサークル状に伐採されて土の露出した広場の中心に魔法陣と呼ばれる円形の文字盤があった。そのさらに中心部分の黄色や緑に光る場所に俺は座り込んでいた。さっきまで座っていたはずの椅子が突如無くなったので尻が痛い。どうやら尻を打ったようだ。


「痛てててて!!あれ?痛くない?」


「おお……これは召喚は成功のようですぞ姫」


「そうですか、これで良かったのですよね……」


「ん?ここは?祭壇?」


 辺りを見回すと、俺のいる文字盤の周りは黒と白の縦ストライプのローブに身を包んだ者達に囲まれていて、丁度目の前に赤と白に彩られた祭壇のようなものが見える。

 その祭壇の前に腰まで伸ばした眩しいくらいの明るい金髪ブロンドに小ぶりのティアラを乗せた碧眼の姫と呼ばれた人物と大柄の漆黒のローブに身を包んだ白い顎髭の人物が並んで立っていた。


 金髪碧眼の姫と呼ばれた美女は、艶のある腰までの金髪をさらさらと靡かせ、ヒラヒラしたゴシック調の赤いドレスのようなアーマーを着こんでいる。

 漆黒のローブの男は黒目黒髪、荘厳なイメージを沸かせる厳つい顔付きで、結構な年輪を重ねているようだ。


 エリス様は、誰かが異世界から召喚したと言っていたが、こいつらが犯人のようだ。とりあえず俺は様子を見てみることにした。


「あー、この魔方陣っていうの?召喚の責任者は誰ですか?」


「え?え?あっはい。私が責任者です?」

「困るんですよね?勝手に召喚とか?こっちの都合考えてます?ん?聞いてますか?」


「あ、あの、は、初めまして、勇者様?私はこの国の第2王女のミルラルネと申します」


「あー、俺は勇者じゃないからね?勝手に勇者にしないでくれるかな?」


「お、オホン!わ、儂はレオボルト枢……」

「うん、そっちは、おじいちゃんね?覚えたよ?」


 祭壇の近くの二人が名乗りを上げた。


「いや……違うのだが……」


「あの、突然の召喚、申し訳ございません勇者様。ですが、召喚に応じていて頂き?有難うございます?」


「だから、俺は応じてないし?勇者じゃないんだよ?聞いてます?」


「んんっ……ゴホンッ よろしいですかな?まずは勇者殿よ、ここはそなたから見ると異世界と呼ばれる世界で……」


「うん知ってる。だから俺は勇者じゃないってさっきから言ってるんだけど?聞こえて無いのかな?おじいちゃん?」


「いやしかし、此度勇者召喚の儀を行ったのであれば、そなたは勇者と……」


「うん?じゃ、失敗した事になるよね?勇者じゃないんだから?で、ここはどの辺り?」


「ええ、ここはエリス神聖国内の、精霊の森ですが……」


 エリス神聖国って、え?もしかして、エリス様を信仰してるのかな?


「へぇ、もしかしてエリスロード様を信仰でもしてる?」


「はい!そうです。あの、証拠になるか分かりませんが……」


 姫様がそう言うと、詠唱?……呪文のような感じで姫様がなにやら呟いている……。


「……全てはエリスロード様の名の下に、束縛せし物よその力を以て捕縛せよ!紐束縛セイルファング

 

 姫様の詠唱が終了すると、突如俺の周囲の空中にロープのような物が出現し、俺はあっという間にグルグル巻きにされてしまった。


「なるほど、確かにこれはエリス様に祈って行使する神聖術だよね」


「えぇ、そうです神聖術です。信じて頂けましたか?」


 俺は神聖術の捕縛術を解除する。この程度の神聖術では俺には効かないのだ。


「ミル何とかさんは、信心が足りないようだけど?何かしたかな?」


「えぇ!?嘘!?一度も解除されたことのない私の術が!?」


「さて、俺も忙しいんで、用が無いならそろそろ行くけど?」


「ちょっと、待って下され!世界の危機なのじゃ!神気の濃度が下がっておるのじゃ!」



 神気の濃度?神聖術はさっき使えたよね?神気が無ければ神聖術は使えないし。



「レオボルト、神気の濃度は?今どうなっていますか?」


「何ぃ!?……ものすごい速度で濃度が上昇しておるぞ!?」


「って事は?」


「世界は救われました?」


 なんか勝手に、話が終わっちゃったけどいいんだよね?


「おお……やはり、やはり貴方は勇者様じゃった。ありがとう!」


「じゃ、用事も済んだし?そういう事で俺は行くけど?」


「待ってください。せめてお礼をさせてください」


「別にいらないよ?何もしてないし?」


「では、せめてこれを……この腕輪を差し上げます」


 ミルラルネが俺の左手首に黒い腕輪を持ってくると、鈍い赤い光を放ち俺の手首に定着した。なんか知らない文字が彫られて文字が浮かび上がっている。


「これは?」


「この腕輪は勇者の証です?」


「勇者の証?そんなのいらないよ?」


 次の瞬間、俺の服が四散し、俺はパンツ一丁となった。


「なぁぁあああ!?俺の服がぁぁぁ!?」


「えええ!?あれれれ???あ、ああ!間違えました勇者の証はこっちの腕輪です!」


「おい!ミル何とか!この腕輪は何なんだよ!?」


「……すみません。そっちの腕輪は呪いの腕輪でした……」


 おいおい何やってくれてるんですか?このミル姫。


「……その、そっちの腕輪は『愚者の腕輪』といって呪いの呪具で、その効果は装着者の防御力を低下させゼロにしちゃいます。すみません……」


 なんでそんな物持って来てんの!?


「奴隷や犯罪者に使われる呪具なんですけど……、実は、防具の防御力が下がるんじゃなくて、着る事が出来なくなります。もし、着ていた場合は強制的に、その……脱がされちゃいます……」


「わーい。俺はこのまま裸で過ごせと?」


 ミルラルネは、ご丁寧にも腕輪について詳しく説明してくれた。


 それで強制的にパンツ一丁にされたのか?なんてこった。


「マジか……でも呪いなら教会とかでとれるんじゃない?」


「あ……、それですね、取れないんですよ?」


「え?なんだって?」


 え?取れないの?まじで?


 俺は解除を試みてみたが、今の俺の力でも解除出来なかった。これでも俺、亜神だよ?


 いやいやいや、どうなってるの?これ?絵面的にダメでしょ?俺の裸なんて誰得ですか?


 まさか、これでアニメ化したら俺ずっと裸なの?



 いらぬ心配をするアリマ・エリスロードであった。






あとがき


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