第491話「レッサードラゴン討伐」

「クロノさん! お願いですから討伐お願いします!」


 現在、ディニタさんから土下座で依頼を受けるように頼まれている、ものすごく困るんだがな……


 ――少し前


「なあ、ドラゴンが出たらしいな」

「聞いたよ。鉱山を封鎖したんだってな」


 せっかく宿を出てきたのに不穏な話が聞こえてくる。また不穏な話が持ち出されてきたな……そういったものとは関わりたくないものだ


 大体ドラゴンと戦うなんて好き好んでやるものじゃない。やれと言われてやってきたことはあったが、平和に暮らしたいときは放置してきたものだ。


 大体、依頼票に書かれている討伐対象はレッサードラゴンだ。そこそこの手練れなら十分倒せる相手だろう。何もわざわざ俺が受けるような内容じゃない。それに何よりこの場にはエーコがいないからな。アイツも収納魔法の修練を頑張って居るのだろうと信じたい。


「クロノさん……その……」


 ディニタさんからの言葉を無視しようとした。


「レッサードラゴンを討伐していただけませんか?」


「面倒くさいですね……」


 ――そして今に至る


「お願いです! 討伐をギルドからお願いしますよ!」


「嫌です、面倒なことは嫌なんですよ。それに目立ちますしね」


 俺を困ったときに依頼を押しつけるための便利どころだと思わないで欲しい。どうにもそういった話は好きではないんだよ。好みの問題でもあるが食い詰めていないとやる気が起きない依頼だってあって当然だろう。


「そう言わずに! クロノさんなら倒せるでしょう?」


「困ったら俺に頼るのはやめてくれませんかねえ!」


 俺は便利屋ではないぞ。今回はエーコが受けて死ぬようなこともなさそうだし、これといって受ける理由は無い。ギルドが強制するなら別だが、このギルドの人材からすればどうとでもなるはずだ。


 まわりを見回せば屈強な男からマナが溢れている魔導師まで様々な連中が目に入る。そう言った連中がいるのに俺に頼む理由はまるで無いだろう。


「ここにいらっしゃる実力者の皆さんならレッサードラゴンくらい余裕で倒せるでしょう?」


 そう言って俺は周囲を見渡した。目があった連中がみんなして目を逸らした、何故だ?


「皆さんがクロノさんみたいな実力を持っていないんですよ。頼れる人がクロノさんくらいしかいないんですよ! お願いします! この通り!」


「いやいや、そんな高額報酬の依頼を俺ばかりが受けていたら恨みを買いますって。大人しく薬草採集しているのも摩擦を避けるためっていうのもあるんですよ?」


 不要な争いは好きではないので、討伐依頼で報酬が高いものを好んで受けていると実力者から目を付けられる。それは避けたいところなのだ。


 戦いはやりたくてやるものではないんだよな……エーコみたいに受けると死にそうなやつが受けるなら仕方なく助けるが、事情がなければ出来るだけ受けたくないところだ。


「そう言わないでくださいよ、報酬は金貨五千枚ですよ? ね? 良い依頼でしょう?」


「お金には困っていませんので……」


 この前大金が支払われたのを忘れたのだろうか?


「それはそれとしてお金は欲しいでしょう? クロノさんだって町の危機なら戦ってくれると信じているんですよ!」


 そんな信用をされてもなあ……俺の知ったこっちゃないし、ギルド内で解決出来そうなものを俺が出張って解決させるのも良くないだろう。


「俺はこの町の富を吸い上げて持っていくことになるんですが、それでいいんですか?」


 金が有り余っているならともかく、この町はそこそこ栄えている程度だ。俺が大量に稼いで次の町にいったら困るのではないだろうか。


「ご心配なく、ドラゴン案件はこの町では手に負えないので国が支払いを持ってくださるそうです」


 やれやれ、準備は万端というわけか……みんな受けたがっていないようだし、何よりディニタさんは必死だし、仕方ないかなあ……


「分かりましたよ、その依頼を受けます。ただ支払うものはきっちり払ってもらいますよ?」


「もちろんです!」


 ディニタさんは報酬を支払うと約束してくれた、ならば受けてやるとしようか。どのみちレッサードラゴンなら大した相手ではない。倒そうと思えば倒せるのだが、ギルドの皆さんが謙虚にも、俺に討伐の栄誉を譲ってくれるというのなら断る理由も無いだろう。金の方の出所も問題がなさそうだしな。


「で、レッサードラゴンはどこに出たんですか?」


 ディニタさんは大急ぎで地図を広げて説明を始めた。


「目撃は荒野地帯ですね、詳しい位置まで答えられればいいのですが……どこに出るかは運次第と言ったところですね。町を襲う恐れは半々と言ったところでしょうか。人を襲って食べるような魔物でもなさそうです。まあ『餌』が目の前に出てくれば食べるくらいのことはするかもしれませんが……」


「なるほど、大体分かりました。要はそれを駆除すればいいんですね」


 なるほど、正確な位置が分からないのか。それならギルドの面々が嫌がる理由もよく分かる、位置の特定から始めるのは大変だからな。


「はい、そういうわけなのでお願いします!」


 俺はディニタさんに見送られギルドを出た。見つからないなら探索魔法を使えばいい、至極シンプルな話だ。


 門兵さんには事情が伝わっており「お願いします」と言われて門が開いた。さっさとレッサードラゴンを倒してしまうとしようか。


 俺が哀れなレッサードラゴンを討伐するべく荒野に向かったのだが、『ソレ』を探すのに探索魔法を使うまでもなかった。その巨体を横たえ寝息をたてているドラゴンが居たからだ。どうやら随分と長生きしてきた種らしい。悪いがこの場で討伐させてもらうぞ。


 大した相手でもないので加速魔法無しでダッシュをする。バフのおかげでそこそこの速度が出た。さすがに近寄ると気付かれてこちらを向いたのだが、俺は気にせず腹にパンチを入れた。


「グオオオオオオオオオ!?」


「驚いているところ悪いが死んでくれ」


 俺はドラゴンの炎ブレスを軽くかわして懐に潜り込み顎をぶん殴った。所詮はレッサードラゴンであり一撃で気絶した。


 俺はナイフを取りだしドラゴンの喉に刺して血抜きをする。世間にはドラゴンの地を飲む物好きもいるらしいが、俺はあまり好きじゃない。そして綺麗に倒したところで死体から爪を剥ぎ取り、残りを収納魔法でストレージにしまった。


 それから町に帰ると門兵さんが怯えるような視線を向けてきた。あの程度を倒したくらいでそんなにビビらなくてもいいだろうに。


 そしてギルドに着くとディニタさんに案内されるまま査定場に行った。


「で、クロノさんのことですからきっちり倒してきたんですよね?」


「ええ、完璧に倒してきましたよ」


 そう言って爪を一枚提出する。他の部分は素材として売り払うなり何なりしよう。


「相変わらず綺麗な状態で倒してますね……凄いことですよ? 何故もっと自慢をしないのですか?」


「いや、レッサードラゴンを倒したくらいで自慢してたら逆に笑われますって」


 あの程度の敵は手練れなら倒せて当然だと思うのだが……そんなことを自慢したら自分の限界がレッサードラゴン討伐ですと宣伝して回っているようなものだ。それ以上の依頼を受けさせてもらえなくなることまであるかもしれないじゃないか。


「死体の方の売却は……する気がないようですね……出来ればお売りいただきたいところですが、まあ討伐していただいただけでよしとしましょう。報酬はそこに置いてある袋に入っています」


「随分と準備がいいですね?」


「クロノさんなら負けないことは分かっていましたから」


 随分な信頼だな……俺はその袋を開けて金貨を確かめストレージに保管した。


「それでは、俺は飲みにでも行きますよ」


「よくそんな体力がありますね……」


 これも永続バフのおかげだろうか? 体の調子がよくなった気がする。そしてギルドを出て俺は夜の町にくりだした。

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