スキル「時間遡行」でPTを救ってきましたが、記憶に残らないので無能扱いされて追い出されました。しょうがないのでスローライフ始めました。誰も知らないチート日記!
第490話「エーコに魔法の一日教師をしてくれと頼まれた」
第490話「エーコに魔法の一日教師をしてくれと頼まれた」
俺は朝食をゆっくりゆっくりと食べていた。ギルドにさっさと顔を出すべきなのだろうが、この前の派手な破壊をやらかした後だと、なんだか面倒な依頼を押しつけられたり、手に負えないような依頼を押しつけられそうだからだ。
幸いにも、朝食時からディニタさんが待機しているようなことはないので、ギルドにほとぼりが冷めた頃に行けばいいのだろう。ほとぼりが冷めるのかは知らんけど……
のんびりと牛のシチューを食べることが出来る幸福を噛みしめながら、出来れば平和であって欲しいなと思う。
しかしながら食事というのはいずれ終わってしまうもので、最後のひとすくいを飲むと席を立った。やってしまったことは仕方ないしギルドに向かうか。
重い足取りをしながらギルドへと向かう。幸い山一つ潰したのにギルドが上手に情報操作をしてくれたのだろう、はやし立てられるようなことは無かった。それは本当にありがたいことで、町の中で山を潰したなどと話題になったら困る。
そしてギルドに入ると、中にいた全員が俺から目を逸らした。ダメだ……完全に目立ってしまっている。
ちょいちょい
ん? ディニタさんが手招きしているな。絶対面倒なやつだが、この状況で今さら失うものも無いか。そう考えてディニタさんのところに行った。
「何かご用でしょうか?」
ディニタさんは渋い顔をして俺に言う。
「別に断っていただいても構わないんですがね……エーコさんから指名依頼が入っていまして……」
エーコか……何を頼む気か知らんがどうせろくでもないことなのだろう。
「で、何をお願いされたんですか? どうせまた面倒な討伐の協力でしょう?」
「いえ、エーコさんが『クロノさんと同じ魔法が使いたい!』とごねましてね……我々としても困っているのですよ。ほら、魔法なんて生まれついてのものじゃないですか? 訓練すればなんとかなるなんて思われたくないんですよね」
「でも、割とある程度のところまではなんとかなりますよ?」
「えっ?」
ディニタさんは驚いているようだが、その程度の事が可能なのは当然だろう。人間ならある程度は鍛えることで成長出来るはずだ。その芽を摘むのは良くないだろう。
「要するにエーコを鍛えろってことですね。分かりました、引き受けますよ」
俺がそう答えるとディニタさんは非常に驚いた顔をした。
「こんな依頼を受けてくださるんですか!? 今までくだらない依頼を受けてきていたのに!?」
「だってディニタさん、これを受けなければ俺にもっと面倒な依頼を押しつけようとするつもりでしょう? そういうの嫌なんですよ」
俺の言葉に彼女はがくりと肩を落としていた。そのくらいの予想はつくって言うことだよ。分かりやすいんだよなあこの人。
「それではエーコさんをお呼びするのでお待ちください……チッ」
「今舌打ちしました?」
「まさか! 私がそんなことをするわけがないじゃないですか」
信用ならないディニタさんの言葉を放っておいて通信魔法でエーコが呼ばれてくるのを待った。人を待つ時間とはかくも長いものだなと居心地の悪いギルドでそう思う。これが初心者だったら古株が絡んでくることもあるのだろうが、今の俺にはベテランすらもビビって話しかけてこない。
少しだけ寂しいかなとは思うものの、山を潰すようなやつの機嫌を損ねたら大変なので無理もないか。非常に残念ではあるがプチッと潰されるかもしれないような相手にため口をきくような度胸がある連中はいないのだろう。もう少し威勢のいいやつがいてもいいのにな。
無い物ねだりをしても仕方ないか。そんなことを考えている間にエーコがダッシュでギルドに入ってきた。肩で息をしているのだが、そんな焦るようなことでもあるまいに……
「クロノさん! 本日はお願いします!」
「はいはい、じゃあ特訓の場所はお前の家でいいか?」
見られない場所なら適当だろうと思ったのだが、露骨に狼狽え始めるエーコ。
「いえ、その……私の家は都合が悪いので……町の外ではダメでしょうか?」
「まあ別に構わんが……危険かもしれんぞ?」
するとエーコは大笑いして言う。
「クロノさんがいてくれても危険だったら誰がどうしていても危険ですよ」
にこやかにそう返されてしまった。どうやら俺は大層な過大評価をされているらしい。この調子では先が思いやられるな。
「分かったよ、町を出るぞ」
「はい!」
そうして俺たちは鍛錬のために町を出た。町を出るときに門兵に直立で敬礼されたのは勘弁して欲しいと思った。
町を出て、見られない位置にたどり着いたところでエーコの訓練が始まった。
「それで、まずは収納魔法から始めようと思う」
「えー……バーンと山を砕いたりは出来ないんですか?」
不満そうなエーコだが、力の使い方も危ういやつにあんなやり方を教えるわけにはいかない、それにそもそも……
「アレも極論すれば収納魔法が基本だからな。覚えておいて損はないぞ」
「そういうものですかねえ……」
こればかりは信用してもらうほかないのだが、エーコに収納魔法を覚えさせるにはどんな方法がいいだろうか?
「とりあえず小石一個から初めてみようか、これが出来れば後は容量を増やすだけだからな。まったく出来ないならはじめの一歩だけやれば後は自分で修練出来るぞ」
小技を教えてやると言われたときのような顔をしているエーコに地面から拾い上げた何の仕掛けも無い小石を一個渡し、言う。
「まず空間を割くような感じで魔力を使ってみろ」
「はい! うーーーん……この!」
残念ながら初回で成功する確率は低いか……
「こうやるんだよ」
俺が魔力でスパッと空間を切り分けその中にポンと小石を放り込んだ。
「そんなことを言われてもなかなか……」
プチッ
微妙な空間の切れ目が発生しすぐに閉じた。
「これです! こんな感じでいいんですか!?」
「そう、筋がいいな。その調子でその空間の切れ目を大きくしていくようにしてみろ」
エーコはじわっと力を入れ先ほどより大きな裂け目が出来た。これを数十回繰り返してようやく小石が一個入るだけの穴が開いた。
「そこに小石を投げ込んでみろ!」
「はい!」
ポイと石を投げ入れた途端に裂け目が閉じた
「出来ましたぁ……これキツいですね……どうやって取り出すんですか?」
「裂け目をもう一回作って引っ張り出すだけでいいよ、そっちは難しい事じゃない」
「うーん……えい!」
コロコロコロと小石が裂け目から飛び出した。どうやら収納魔法の才能は有るようだ。詳しく教えてくれるやつがいなかっただけだろう。
「クロノさん! これでクロノさんみたいな使い方も出来るんですか?」
「ああ、訓練すればな」
結局収納魔法など日々の訓練次第だ。エーコなら勇者共よりきっちり訓練をするやつだと信じている。
「これを練習すればいいんですね! 分かりました!」
頑張ってくれそうだし先行きが明るそうで何よりだ。俺たちは町に帰りながらふとエーコに訊ねた。
「なあ、依頼は達成って事でいいのか?」
「はい! 完璧ですよ!」
にこやかに笑うエーコに俺があの周囲一帯の空間を不安定にして、裂け目が出来やすくしていたことは黙っておいた。人間知らない方が良いことはあるものだ。それに基礎には違いないし、同じ方法で頑張ってくれればそのうち成功するだろう。
それからギルドに帰って、一通りの手続きをした後で、しばしエーコが頑張ってくれることを祈ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます