スキル「時間遡行」でPTを救ってきましたが、記憶に残らないので無能扱いされて追い出されました。しょうがないのでスローライフ始めました。誰も知らないチート日記!
第480話「エーコ、メンタルの強さを生かしゴーストを倒す」
第480話「エーコ、メンタルの強さを生かしゴーストを倒す」
ようやくエーコが帰っていったので俺は朝食を食べることにした。アイツがいると心労がドンドンと溜まっていく、心理的によくないので少し飯を食ってストレスをやわらげよう。
そう思って食堂に行くと今日の日替わりメニューを食べている人がいた。どうやら今朝のメニューはオーク肉のシチューらしい。席についてそれを注文する。平和で助かるな、朝っぱらから面倒事に巻き込まれていると、この平和が愛しく思えてくる。
「お待たせしました」
シチューが運ばれてきたので一緒に持ってこられたパンを噛みながらシチューをすする。結構な美味しさだった。昨日酒場で飲んだあとだと非常に美味しい気がした。やはり食べることもなくひたすら酒を飲むよりもよほど健康にいいな。
黙々と食べていると皿が空になったのでおかわりをしようかと考えて、食べ過ぎは良くないなと思って席を立った。十分に美味しい食事だったので満足して宿を出た。
鮮やかな日光が降り注いでいる中をギルドに向かう。その道にはまるで不穏な依頼など一つもないようなことを伺わせた。
ギルドについたので中に入るといつもの顔がディニタさんと論争をしていた。
「ですからエーコさんにはこの依頼は危険でして……」
「大丈夫ですって! 私の力からすれば雑魚のゴーストくらい軽く退治出来ますよ!」
「いえ、討伐ではなく浄化依頼なのですが……」
ああ、帰ろうかな? どう考えても面倒くさいやつだ、関わりたくないなあ……
背を向けようとしたところでディニタさんが俺に声を掛けてきた。
「クロノさん? 依頼ですか? クエストボードはそちらではありませんよ?」
俺はその言葉を聞いて出来るだけ丁重に無視をしてクエストボードに向かった。
ふむふむ……最近はコボルトの目撃例が多いのか……
「クロノさん」
うーん……コボルト討伐は簡単だし、俺が狩って全滅させてしまうと他の受注者の恨みを買いそうだよなあ……
「クロノさん!」
そこそこの難易度のワイバーン討伐でいくか? まわりへの被害を考えたらなあ……
そこで俺は手を掴まれてカウンターまで引っ張られた。
「クロノさんと一緒にその依頼を受けます! それなら文句は無いですよね?」
「まあ……それなら」
俺はたまらず文句を言う。
「何で俺が依頼を受ける流れになっているんですか! そもそも何の依頼かも知らなければ、受けるなんて一言たりとも言って無いですよ!」
俺の叫びにディニタさんは至極冷静に対応してくれた。氷の女王というのはこのように冷静な人のことをいうのでは無いだろうか? とにかく二人の話したいように話が始まった。
「エーコさんがゴースト浄化の依頼を受けると言って聞かないんですよ!」
「何の問題があるんですか? 私が華麗に依頼をこなすのが怖いだけじゃないんですか」
「ちょっと黙っててもらえますか? 私はエーコさんがゴーストになるのを見たくはないんですよ」
その言葉にエーコは怒り始めていたがディニタさんは無視して俺に説明を続ける。
「それでですね……クロノさんが共同で受注していただければギルドとしても安心なのですよ! どうですかね? エーコさんをゴースト退治に連れて行ってあげてくれませんかね?」
「それってエーコが要りますか? 俺は確かにゴーストを倒すくらい難しくないですけど、だったらエーコがついてくる意味なんてまるで無いじゃないですか?」
ゴーストを倒すのは難しくない。この前、自称神の永続バフで殴れば浄化出来るようにもなった。だから依頼としてはそれほど難しいわけではないのだが、ならばエーコを連れていく意味があるのかという問題に至ってしまう。実際にエーコが何かの役に立つのだろうか?
「それはまあ……ほら、ゴーストがエーコさんを狙って引きつけてくれるとか……」
「そういったことをされなくても一々ゴーストなんかに負けたりしませんよ?」
雑魚相手に一々構っていられるかっていうんだ。
「それとも凶暴なゴーストが相手だとでも言うんですか? それならエーコが狙われたらひとたまりもないと思うので無用な死者を出さないためにもエーコを連れていくべきではないと思いますがね」
一応強いゴーストもいるが、そんなものをエーコに任せるわけにはいかない。コイツを囮に使ったところであっという間に死ぬのがオチだろう。
「まあまあ、クロノさんが討伐していただければ構いませんから」
「断ったらどうなるんですかね?」
「これは私の予想ですが」そう言葉を置いてディニタさんは言った「死体が一つ転がっていることになるでしょうね」
はぁ……要するに俺が受けようが受けまいがエーコが受けるのには変わらないということか。さすがに人死にが出るのを肯定は出来ないし、エーコに現実を見せてやるのもいいだろう。
「分かりました、その依頼を受けますよ。そうすれば死体が一個減りますからね」
「ありがとうございます! では詳細の説明ですが……」
そうしてディニタさんは一通りの説明を始めた。曰く、目的地は町の外の墓場、この町では町中に墓を建てるにはそれなりの金がかかるということで、有限のスペースを買えない者は町の壁の外に葬られる。もちろん弔いはいい加減だ、聖職者が壁の外に出て頻繁に弔ってくれるようなことはないので定期的にゴーストやアンデッドが沸くそうだ。
だったら対処をしろと言いたいのだが、分かりきっていても自分の金を死人のために支払うのは難しいのだろうな。
そうして俺たちは受注処理を無難に進め、さっさとギルドを出た。今回のエーコの役目は墓地までの道案内だ。迷うことなく墓場まで行ける、なんて凄い役目だろうか、本当に役に立たないな。
町を出るときには門兵さんに『うちの爺さんも眠ってるんだ、頼むよ』と言われたので丁寧に処理しようと思った。見ず知らずというわけでもないゴーストを倒すのとは少し違うな。
町を出て少し離れたところに建ててある木の札が集まっているところに来た。死んでしまえば名前を書いた木札一枚で生きていた証拠を残すだけだ、人生など虚しいものだな。
「ウゴゴ……ニンゲン……」
「よっしゃあ! ぶっ潰してやりますよ!」
いきなりゴースト相手にエーコが突っ込んでいった。俺が止める間もなく一気に向かったので手を掴もうとしたのだが、それより早くエーコはゴーストにナイフを突き立てた。もちろん通常のナイフなのでエーコの攻撃が通じるわけもなく、ナイフはゴーストを突き抜ける。
「エーコ! 逃げろ!」
「へ?」
手遅れでゴーストがエーコに襲いかかっていた。しかしゴーストの腕はエーコに触れようとしたところでポンと弾かれた。
「え……?」
何が起きた? ゴーストは必死にエーコに取り憑こうとしているが、エーコの体に入り込むことは出来ないようだ。
「エーコ……お前ゴーストに耐性を持っていたのか……なるほど確かにゴースト討伐にはぴったりだな」
「え……なんのこと……はっ!? そうでしょうそうでしょう! 私がゴースト退治にいかにぴったりな人材かよく分かったでしょう!」
あ、コイツ知らなかったやつだ。
「ぐおお……」
俺の方に来たゴーストはヒヒイロカネのナイフでスパスパ切り裂いていく。素材の特性で浄化されてゴーストたちは次々に昇天していった。
全てが片付いたところで呑気にしているエーコを連れて町に帰った。エーコはゴーストの攻撃に対しては耐性を持っていたものの、攻撃手段を持っていないので千日手状態だった。キリが無いので俺がスパリと切り捨てていき、結局俺が全部倒したのを不満そうに見ていたのだった。
ギルドに買えるとディニタさんはエーコの顔を見てホッとしていた。俺はディニタさんにそれとなくエーコがゴーストに強いのを知っていたのか探りを入れたがまったく知らないようだった。エーコをゴースト専門にさせるのもリスクなのでそれは俺だけの秘密にしておいた。
そして報酬の金貨十枚を受け取って、五枚ずつにわけてエーコに渡した。本人はまさか自分がもらえるとは思っていなかったようで驚いていたが、ゴーストに強かったのは本当だからな、そのくらいは渡してもいいだろう。
こうして依頼を無事終えてその日は終わった。墓地の浄化にもう少し金をかけろよとは思ったが、金をかけないからこそ町の外に葬られているのだろう。世知辛いなあ……
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