第442話「新人パーティの救助」

 その日は朝から優雅に朝食をとっていた。この前の買い取りで幸運にも高値がついたのでそこそこ豪華なものを食べている。町をぶらぶらしていたらいい香りが漂っていたので『オーク肉の照り焼きあります!』と書かれた看板の出してある食堂に入ったのだが、思わぬ当たりを引いたようだ。


 甘辛いタレが肉に塗られ、それを焼いているのでいい香りが漂ってきたのだろう、なかなか上手い商売の仕方ではないか。


 ゆっくりとそれを食べて店を出ようかと思ったところで『当店名物! 照り焼きサンド!』という貼り紙を見てしまったので思わずそれを注文してさらにもう一品食べてしまった。美味しいのだからしょうがないな!


 満腹になったので金貨を一枚支払って店を出る。金を使ったら金を稼ぐのがこの世の摂理というものなので、当然の如くギルドに向かった。美味しい食事をとれたのだから少しくらい働いても罰は当たらないだろう。


 そんな気分でギルドのドアを開けるとなんだか妙にざわついていた。


 ざわつく空気を無視してクエストボードを眺める。目新しい依頼は無いようだ。


「あの……クロノさん? 本日は依頼を受けにいらしたのでしょうか?」


 その声は聞き慣れたマルカさんの声だ、俺は振り向いていつもの顔を見て頷いた。


「ええ、楽で儲かる依頼が無いかと思いましてね」


 その言葉に苦笑するマルカさん。そしてキリッとした表情に戻って俺に一枚の依頼票を差し出した。


『新人パーティの救助、報酬金貨百枚』


 そう書かれた紙を見て俺はマルカさんに質問した。


「パーティの救助ですか……急ぎですか?」


 マルカさんは苦々しい顔をして頷いた。


「ええ、オークの討伐に向かった方の救助ですからね、割と早い方が助かります。当ギルドでは強制はしませんが出来ればやってくれると感謝しますよ」


 強制はしないのか、なかなかに配慮の行き届いたギルドではないか。他人の不始末の処理というなんだかやる気のしない依頼を強制しないというのはいいことだな。


「受けるかどうかは情報を聞いてからですね。内情を教えていただけますか?」


「はい!」


 こうして俺は何故オークの討伐で一々死人が出そうな事態になったのかを聞くことにした。普通は無理筋の依頼を押しつけたりはしないものだ。


「今回は新人さんにオーク討伐を任せたんですよ、それで町から離れた場所にある森の中にあるオークの集団の始末をお願いしたんです。しかし出て行ってから一日なんの音沙汰もないんですね。おそらく何かあったのだと思います、それを救助していただきたいというわけですね」


 ふーん……下調べが足りなかったということかな? 依頼の詳細が分からないのに受注するのは素人のすることだぞ。


「要するに無茶な依頼を受けた新人の後始末ってことですね?」


 マルカさんは引きつった笑みを浮かべて頷いた。


「ええ、恥を忍んでお願いしたいのですが、クロノさんが受けて頂けないでしょうか?」


「分かりました、救助依頼ですね? 受けますよ」


「ありがとうございます! 本当に助かります!」


 こうして俺は無謀なパーティの後始末という面倒な依頼を受注することになった。何か不測の事態が起きたのだろう、まさかオークに負けたというわけでもあるまい、実力を無視して受注させるほど無茶はしないとこのギルドを信じている。


「それで、新人はどこに向かったんですか?」


「北北西の森ですね、最近オークの目撃例が多いんですよ。少し間引いてもらおうと思ってギルド名義で依頼を出したのですが……」


 なるほど、オークが多いのか。別の魔物やオークの変異種に襲われた可能性もあるな。


「分かりました、では行ってきます」


「ギルドの不始末を押しつけるようで申し訳ありませんがお願いします!」


 そして俺はギルドを出た。目的地まではそう遠くない、加速魔法を使えばの話ではあるが、一刻も早い救助が必要なので加速魔法は遠慮なく使うべきだろう。


『クイック』


 そして俺は疾走した。草原を越え、荒れ地を越えて森に到達した。オークごときに手間をかけさせる、面倒な連中だ、オーク共をせいぜい生きているのを後悔するような目に合わせてやろう。


『サイレント』


 消音をしてから森の中に入る。聞いていたオークの巣はすぐ近くだ。


 しばし歩くとオークに襲われている人間の声が聞こえてきた。


「た……助けてくれ……だれか……」


「痛い! 痛いいいいいいいいいい」


 二人パーティか、無謀な戦闘を仕掛けたな。まったく、自分の実力を把握出来ていないとは面倒なやつらだ。


 俺は二人を嬲っているオークの背後に回ってオークの首筋めがけてナイフを突き立てた。


「ふご!? ふぐううう……」


 雑魚め……この程度の連中に苦戦するような連中が依頼を受けるべきではないのだ。自分の実力を見誤ると早死にするぞ。


「ガアアアアアアア!!」


 もう一匹のオークが俺に棍棒を振り下ろしてきたので、それをナイフで受け止める。やはりバフが続いているようだ、永続バフとは便利なものだな。


「ガ!?」


「死ね」


 俺は心臓めがけてナイフをぶち込む。ぬるりとバターを切るように柔らかな感触が手に伝わる。チョロいものだ。


 俺は懐からポーションをとりだしてボロボロのパーティ二人に飲ませた。咳き込んでいるようだが無理して飲ませると歩ける程度には回復した。


「大丈夫か?」


「あ、ああ……なんとか生きてるよ」


「ありがとうございます」


 男女二人は恋人同士だろうか? 遊び気分で死ぬか生きるかの鉄火場に突っ込むのはやめて欲しいな。こういうのはいつ死んでも構わないと覚悟を決めた人間がやるようなことだ。


「ウゴオオオオオオオオオオオ!!!!」


「きゃあああああ!!」


「ひ! ひぃ!」


「おっと、ハイオークが残っていたか、お前らさっさと逃げろ、コイツは俺が片付けておく」


「はい!」


「分かりました」


 普通は加勢くらいはしてくれてもよさそうなものだが、まあ足手まといなので無理はしなくていいだろう、生きていただけでも儲けものだ。幸い探索魔法を使用しても危険な魔物は見つからないしな。


『圧縮』


「ふごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「解放」


 逃げていったパーティが見えなくなったところで綺麗さっぱり吹き飛ばした。ハイオークごときが俺に勝とうなどと無謀な挑戦をするものじゃないぞ、お行儀の悪いやつだな。ああ、もう消し飛んだので聞こえちゃいないか。


 ハイオークは跡形もなく消し飛んだので通常のオーク二体をストレージに放り込んで新人パーティを追いかけながら帰投することにした。


 幸い二人とも死んではいないようなので儲けものだな。最悪死んでいるかもとさえ思っていたので無事二人が生きていて何よりだ。


 町に帰ってギルドに行くと、さっき助けてやった二人が報告を上げていた。


「で、お二人ともオークに負けてボコボコにされていたと」


「はい……」


「そうです……」


「まったく、無謀な依頼を受けるのはやめてくださいとギルドで重々言っているでしょう? 今回はたまたまクロノさんが助けにいったからいいようなものの……と言うか二人とも怪我が少ないですね?」


「へ? ああ、助けに来てくれた人がポーションを飲ませてくれたんだ」


 その言葉を聞いたお説教中のマルカさんが俺に話しかけてきた。


「クロノさん、お二人の様子から見て死にかけだったと思うのですが高品質ポーションを使いましたね?」


「ああ、非常用にとっておいたものですよ。役に立つものですね」


「まったく……とことん世話のかかる方たちですね……お二人ともクロノさんに感謝しておくことですね」


 しゅんとしている二人は放っておいて、俺はマルカさんに報酬を貰えるように言った。これでもらえなかったら冗談みたいなものだろう。


「クロノさん、そちらに報酬の入った袋は用意してありますのでお持ち帰りください。私はこの二人にお説教がありますので……」


「分かりました。俺はさっさと帰るとしますよ」


 それだけ言って報酬を受け取りギルドを離れた。あの調子だとしばらくお説教が続きそうだな。新人には良い薬だろう。


 俺はせいぜいあの二人は地道な下積みをしてほしいものだと思うのだった。

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