スキル「時間遡行」でPTを救ってきましたが、記憶に残らないので無能扱いされて追い出されました。しょうがないのでスローライフ始めました。誰も知らないチート日記!
第439話「ゴブリン退治は実力のベンチマーク」
第439話「ゴブリン退治は実力のベンチマーク」
俺は新しい町について初めての朝食を食べることにした、したのだが……
「もう少しまともなものが出てくると思ったが……」
朝食無料サービスという掲示にひかれてこの宿を選んだのだが、朝食として出されたものはパンが一つとバターだけだった。まだバターがあるだけマシかもしれないな、そう自分を無理矢理納得させながらパンを口に詰め込んだ。しかしさすがにこの貧相な朝食が見た目通りだと悪評が立ちそうだとは思ったらしく、パンの味は良いものだったしバターも付いてきたのでマシなのだろう。
そして食事を終えて町に出た。もちろん町の食堂に寄ってもう少しマシな朝食を食べることにした。そこで選択したのはカツレツ専門店と書かれているところだった。
「何になさいますか?」
給仕が注文を聞きに来たので『この店のオススメで』と注文してしばし待った。ジュウジュウと肉を揚げている音と香ばしい香りが漂ってくる。
「おまたせしました」
そう言って運ばれてきたのは肉にパンくずをつけて揚げたものだった。切り分けてあったのでフォークで一切れを口に入れる。肉汁が口を満たし満足感の非常に大きいものだった。
俺は食べるのに集中していたらいつの間にか皿が空っぽになっていた。ここでしばらく暮らしていたら体重が増えそうだなと思えるような味だった。
それで満足してギルドに向かうことにした。この町はきちんと金を払えば美味しいものが食べられるようだ、タダ飯を食べようという考え方が間違っていたのだろう。
そんなくだらないことを考えながらギルドのドアを開けた。マルカさんの綺麗な黒髪が目に入る。
「あら、クロノさん、おはようございます。本日は受注ですか?」
「ええ、軽く受けられるやつを受けてみようかと思いまして」
そう答えた俺にマルカさんは真剣な目をして言った。
「クロノさん、討伐依頼をお受けになるつもりですか?」
急な言葉に俺は何を言われているのか分からなかった。
「そりゃ、丁度いい依頼があれば討伐依頼だって受けますよ」
その言葉にマルカさんはつかつかとクエストボードに歩いて行き一枚の依頼を剥がして俺に差し出してきた。
「討伐依頼でしたらこれを受けてください、新人さんにはこれを受けてもらっています」
そう言って差し出された依頼票を読んでみた。
『ゴブリン討伐、報酬一匹銀貨五枚』
うっわー……渋い依頼だなあ。正直こういう辛気くさい依頼を受けたくはないのだが……マルカさんがオススメしたのに何か理由があるのだろうか?
「何故この依頼なんです? 言っちゃあなんですが俺はもう少し難易度の高い依頼でも受けられますよ?」
その言葉にマルカさんは静かに首を振った。
「それでもクロノさんは新人です。新人さんには難易度が低めの依頼を受けてもらって実力を測らなければなりません」
なるほど、これを受けさせて好成績だったら割の良い依頼が受けられるということか。別に薬草採集も嫌いではないが自由度が高い方が良いに決まっている。ゴブリン討伐を華麗に倒して好きな依頼を受けられるようにしよう。
「分かりました、受けましょう。ゴブリンの巣でもあるんですか?」
「いえ、野良ゴブリンの駆除ですね。それほど危険はありませんが戦えない方にとっては脅威ですから、受けて頂けると非常に助かりますね」
なるほど、てっきり営巣しているゴブリンがいるから討伐依頼が出たのかと思ったが、ただの治安維持か。余裕だが、報酬が安めなのが気に食わないな……
とはいえ新人への通過儀礼としてはその程度で我慢しろと言うことなのだろう。まあいいさ、一匹につき銀貨が五枚なら二匹倒せば金貨が一枚貰えるということだ。一匹あたりの金額が低いなら数を稼げばいいだろう。
「依頼の場所は……この町の周辺ですね、受注処理をしてください」
「かしこまりました。受注していただきありがとうございます」
そうしてその依頼票にポンと判が押されて受注ということになった。
「門番さんには通信魔法で伝えておきますのでお願いします」
「はーい、サクッと倒してきますから期待してくださいねー」
俺は適当な返事をしてギルドを出た。朝食の料金に銀貨五枚を払ったので一匹倒せば一食分にはなるということだ。俺の腹を満たすためにゴブリンたちには犠牲になってもらうとしよう。
ギルドを出て町の出入り口につくと門番が『死ぬなよ』とだけ言って送り出してくれた。あの人も悪人というわけでもないのだろう、俺の事を心配してくれていたようだ。
それと同時に俺はこの町にとってはただの流れ者の新人でしかないということを思い知った。新人に町の命運を賭けるような依頼を受けさせるはずもないか……無理もないな。
町の外に出たら安心して探索魔法を使った。ゴブリンの反応がそこそこあるな、宿泊費にはなりそうだ。出来れば美味しい食事にありつけられる程度には稼ぎたいところだ。
『クイック』
加速魔法を使ってゴブリンのところへダッシュで向かいサクサクと喉を掻き切っては死体をストレージに入れていった。
ズゥン
低い音を立ててホブゴブリンがのっしのしと歩いて来たのでいいカモだなと思い『ストップ』で動きを止めてから心臓部分にナイフを突き立てた。
倒れたので死体をストレージに保管して、そのままザクザクとゴブリンを狩っていった。チョロくて助かるな、しかしこれだけ倒せば実力を誇示するには十分だろう。ゴブリンを大量に狩って鼻に掛けるような真似をすれば『ゴブリンごときで』と笑われかねない。
そして一通りのゴブリンを狩ったところで町に帰っていった。これで美味しい食事が食べられそうだな。
町に入る時に『お疲れさん』と門番が労ってくれたので『どうも』とだけ言い町に入ってギルドに向かった。
ギルドのドアを開けるとマルカさんがこちらを見てホッと一息ついたのが分かった。
「クロノさん、本当にお強いのですね、初手で死なれると責任問題になるので助かりました!」
ゴブリン相手に死ぬようなことがあるのか? と少し疑問だったが無謀な自分の実力を知らないやつもいるのだろう。
「では査定をお願い出来ますか?」
「え? はい! もちろんです!」
そう言ってマルカさんは笑顔で俺を査定場に案内してくれた。
「ここにゴブリンの死体を全部出せばいいんですね?」
「はい……やはり収納魔法ですか……討伐の証拠を持っていないはずなのに査定場と言うからおかしいと思ったんですよ」
「お察しの通りです。というか言っていませんでしたっけ?」
「聞いてませんよ! ってか収納魔法が使えるならもう少しまともな依頼を受けてもらってますよ!」
おっと、コミュニケーションって大事だな。ついつい忘れてしまっていた。収納魔法がそんなに珍しいだろうか?
「じゃあ出しちゃいますね」
ドサドサドッサ
大量のゴブリンの死体を取り出すとマルカさんは目を丸くしていた。何を驚いているのだろう? ゴブリンくらいいくらでも討伐出来るだろうに。
「す……凄い数ですね」
何か驚くようなことがあっただろうか? 旅人なら戦闘は嗜みだよ、このくらい出来ないで生きて旅を続けることなど出来ないだろう。
「まあこのくらいならちゃちゃっと片付きますよ。よほど大群でもなければ大技を使うような必要も無いですしね」
「大技があるんですか……」
呆れ顔をしているマルカさんだが、ゴブリン退治程度でいい気になりすぎただろうか?
マルカさんはゴブリンの死体を検分しながら『ほぅ……』とか『へぇ……』とか言っている。そして一匹を見た時に目をむいた。
「クロノさん! ホブゴブリンじゃないですか!」
「ええ、ノシノシ歩いてきたので軽く倒せましたね。儲けものでしたよ」
「儲けものって……そんな気軽なノリで言える話でしょうか……」
それからしばし検分をしてマルカさんは査定表に書き込みを終えた。
「ゴブリンで銀貨八十五枚ですね、金貨八枚と銀貨五枚でかまいませんか?」
「ええ、そこそこ稼げましたね」
「ああいえ、ホブゴブリンは予定していなかったので追加報酬として金貨十枚払いますよ」
俺は思わず驚いてしまった。
「そんなに払って大丈夫なんですか!?」
「まあ、討伐対象にはしていなかったので討伐報酬は出ませんがその分高めに買い取りますよ」
「ではその金額で!」
俺は依頼報酬を受け取り、買い取り票にサインをして依頼が完了した。いい感じに稼げたので俺はその晩もカツレツ専門店に行きたっぷり食べた。
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