スキル「時間遡行」でPTを救ってきましたが、記憶に残らないので無能扱いされて追い出されました。しょうがないのでスローライフ始めました。誰も知らないチート日記!
第431話「武器を買ったということでリースさんに依頼を押しつけられた」
第431話「武器を買ったということでリースさんに依頼を押しつけられた」
分かっていた……分かっていたのだが……
「リースさん、これはあんまりじゃないですか?」
ギルドに入るなりリースさんに押しつけられた依頼は『カイザーゴブリンの駆除、報酬金貨千枚』というものだ。いくら何でも一人に押しつけるには荷が重いだろう、いや、他の人がついてきても困るんだけどさ。
先日、武器を新調したことを知っているリースさんがギルドに来るなり差し出してきて辟易したものだ。しかし俺が依頼を受けに来たのも事実なので仕方のないことではあるのだが……
「明らかに俺が受けるまで塩漬けにしてましたよね?」
「さあ? 何の事でしょうね。私はクロノさんならこの依頼にふさわしいと思って差し出しただけですよ」
しれっと言いやがって……面倒な依頼ばかり俺に押しつけてきやがる。この人は俺の事を依頼執行機械だとでも思っているのだろうか? だとしたら思い上がりも大概にしておけよ。俺がいなくなった時点で痛い目を見るんだからな。リースさんもこんな商売を続けていたらロクな死に方をしないぞ。
「クロノさんもそんなにご不満な顔をしていますが報酬は良いでしょう? ただちょっとだけ敵が強いだけじゃないですか、クロノさんなら出来ますって! ね?」
「俺が出来るからと言ってやりたいとは思わないんですがね……」
正直カイザーゴブリンを倒すのは面倒くさい。派手に魔力を使えば吹き飛ばすことは可能だが、観光地でそんな真似をするべきではないだろう。森にぽっかり穴が開くような方法をポンポン使っていいはずがない。
「クロノさんの実力を信じているんじゃないですか! ギルドの人材は有効活用しなくちゃならないでしょう? 当然の事でしょ」
しれっと俺が受けるのを既成事実にしている。どう考えても俺に押しつけるには荷が重い。目立ちたくないのだがなあ……カイザーゴブリンなんて倒したら目立つこと確定じゃないか。
「じゃあリースさん、報酬を金貨五百枚追加で手を打ちましょう」
値上げ交渉にかかると露骨に嫌な顔をされた。
「クロノさん、依頼はお金のためだけに受けるものではありませんよ。依頼者からの感謝などの形にならない思い出が手に入るんですよ?」
「そんな人材をこき使うギルドの代表みたいな面をするのはやめてもらえますか? 俺はこの依頼を受けなくても構わないんですよ?」
するとリースさんはギルマスとして深いため息をついた。
「しょうがないですねえ……金貨千五百枚、これだけ払えば文句はつけないんですね?」
「ええ、もちろん」
ギルマスはしばし悩んでから頷いた。
「分かりました、依頼者に追加報酬の要請を出しておきます。それで文句は無いですね?」
マジで払うのかよ……この人の性格的にお断りするものだとばかり思っていた。気に食わないが払うと言われてしまった以上受けるしかないだろう。
俺は渋々頷いて『受けます』と言った。言動には責任が伴うのだ、口に出したことを曲げることは出来ない。ギルマスは俺が受けてくれると言うことで喜々として依頼票にギルド印を押していた。
「ではクロノさん! 山に巣くっているゴブリンの巣を駆除してくださいね!」
やれやれ、カイザーゴブリンの駆除という時点で単独ではないと思ったが、やはり討伐はゴブリンもまとめて倒さなければならないか……ヒヒイロカネのナイフの試し切りでもするかな。
「じゃあ行ってきます。報酬はきっちり用意しておいてくださいよ?」
「はい! いってらっしゃいませ!」
面倒くさいがやるしかないか……ギルドを出て村の外に出る。相変わらず柵もない境界には慣れないな。
ある程度村から離れて『クイック』を使用し、探索魔法を使用した。近くの山の中に大量の魔力がある、これがカイザーゴブリンだろうな。潰すだけなら山ごと圧縮してしまえば吹き飛んでくれる。しかしそんな怠惰な方法を使うわけにも行かない。ナイフの試し切りだからな。
そしてゴブリンの巣へ駆けていく。あっという間に洞窟が見え、見張りのゴブリンに気づかれる前にサクッとナイフを突き立てた。それはまるで水に刺しているかのように抵抗も何も無く刺さった。
見張りを倒したので中からゴブリンが出てくる心配は無い。このナイフは思ったより強力なようだな。思った以上に切れ味が良くて驚いてしまった。ヒヒイロカネという鉱物は聞いたことが無いが貴重なものなのだろう、おそらくブロードソードに出来るほどは量が採れないのではないだろうか。
魔力を全力で洞窟の中に流し込む。反応が返ってくるが魔力の影響で発狂したゴブリンたちが次々と倒れていった。雑魚のゴブリンが大半全滅したところで洞窟の中に入る。
最奥にカイザーゴブリンがいるのは分かっていたが、そこまでほとんど敵はいなかった。事前に処理しておかなければ敵になり得たであろうゴブリンの死体が無数にころがっているだけだ。
一応アンデッド化しないように死体の処理をしていく。ハッキリ言って面倒くさい。しかしサボるとあとが大変なのでしっかりと死体の処理はしていった。大量の清水やポーションを使用してアンデッド化を防がないと、魔力をぶつけて倒したゴブリンなのでアンデッド化の可能性は高いためそこはきっちりしておかないとな……
そして数匹のホブゴブリンをサクッと倒して洞窟の最奥、カイザーゴブリンのいる蛮族の玉座にたどり着いた。
「ニンゲン……ナカマ……コロシタ……ユルサナイ」
「はいはい、ゴブリンごときに勝てないはずがないだろう。来いよ化け物」
「ウガアアアアアアアアアアアアアア!」
カイザーゴブリンが鋭い爪を使って斬りかかってきた。俺は敢えて回避せずナイフでその爪を受け止めようとした。そこで想定外のことが起きた。
ヌルリとした感触とともに爪が切られ、勢い余ってカイザーゴブリンの腕までするっと切り落とされた。
「思った以上の切れ味だな……」
なかなか便利なナイフに感謝しながら腕を切られのたうち回っているカイザーゴブリンの首にナイフを突き立てた。
「終了だな……」
絶命したゴブリンの皇帝を相手にそうつぶやいてみる。結局雑魚でしかないという訳なのだな。
俺はカイザーゴブリンの死体だけをストレージに入れて村に帰った。ギルドに行くと驚いた顔一つせずリースさんが出迎えてくれた。
「さすがですね、クロノさんならやってくれると思っていましたよ!」
「それはどうも、信頼しているからって無茶振りをしていい理由にはならないと思うんですがね……」
まったく、この人は俺の実力をよく分かっていらっしゃるようで結構なことだ。
「死体は回収してきましたか?」
「ええ、ゴブリンでもこのクラスになれば多少のお金にはなるでしょうしね」
「では査定場へどうぞ」
そして査定場に入り、カイザーゴブリンの死体を取り出す。リースさんはしげしげと眺めてから査定をしてくれた。その査定表では腕が切れていることがマイナスになっていた。切れ味が良すぎるというのも考え物だな……
結局、金貨三百枚でギルドに引き取ってもらい、報酬と合わせて計千八百枚の金貨を受け取ってその依頼は完了となった。
「エールを一杯」
それだけ頼んで今日の依頼の反省をした。しかし結局のところ結論としてはギルマスの無茶振りに対応しない方がいいという、常識的な考えにしか思い至らないのだった。
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